地底人オーナー
籠鳥那岐達が電車を降りれば、そこは光の洪水だった。
太陽がない地下だったが、壁や天井には植物や青空を移すスクリーンで覆われていた。
天井の真ん中、頭上の真上には太陽代わりの強い光源。
しかしそれでも暗さを補えないので、アトラクションなど至る所に鮮やかなライトが照らされている。
赤、青、黄、白、緑、様々なライトが計算された美しい配置で輝いている。
それに天井近くまで昇るジェットコースターに、遊園地が一望できる観覧車。
愛らしい姿の馬が回るメリーゴーランドに勢いよく回るコーヒーカップ。
遊園地のマスコットキャラクターはヘルメットをかぶったモグラで、他にもピエロなどがいた。
<はいはいはーい!ようこそワンダーグラウンドへ☆入場券は必要ないよ、好きなだけ遊んで楽しんでね♪>
陽気な笑顔のピエロが近づいて、籠鳥那岐達に向かってそう言う。
それを聞いて布動俊介達六人は大喜びで園内に向かって走り出す。
錦山善彦が勝手にはぐれたらあかんでー、と急いで追いかけていく。
籠鳥那岐はその背中を見つつ、近寄ってきたピエロの顔や動きを見る。
どこまでも人間に近い動きや表情をするが、どこか違和感があった。
すると一人の少年がドリルを肩に担いで近づく。
「ようこそ皆の遊園地、ワンダーグラウンドへ!僕はオーナーのキッキだよー」
「…オーナーということは運営者か?なら聞きたいことがある」
「なにかなー?オススメスポットはアルファベットルーム…」
「お前は誰だ?ここはどういうところだ?そして…なぜ子供専用だ?」
矢継ぎ早に出される質問にキッキは笑顔で受ける。
そして大袈裟に両腕を振るい、何かのショーで踊るかのように動く。
「僕はオーナーだって!ここは子供だけの遊園地!夢の場所!!時間なんて忘れるくらい楽しい場所さ!」
「…このピエロは着ぐるみじゃないだろう?しかし違和感がある…それにお前もだ」
容赦なく籠鳥那岐は追及していく。
キッキは人間というには異常なほど肌が白く、また目の虹彩も薄く、血が滲んだような赤い眼をしている。
オーバーオールは土で汚れ、重いであろうドリルを片手で担いでいる。
なにより髪も白く、まるで一度も太陽の光を浴びたことがないような出で立ちだ。
「僕は…君達の言うところの地底人かな☆ピエロ君は自分で意思を持ったカラクリ人形さ!おもちゃ箱から飛び出したんだ!」
<そうなんでーす☆ある日気付いたんですよ、動けるぞー、遊べるぞー!?ってね!>
「…まさか人格データを有したロボットか…しかし地底人?お前が?」
「ロボットなんて酷いなー!ピエロ君は立派なおもちゃで子供にも大人気さ!」
<オーナーは正真正銘の地底人なんですよ☆独自文明を築いた由緒ある文明の申し子!>
ますます訳が分からなくなる籠鳥那岐は頭を抱える。
いきなり行方不明の子供を追っかけてみれば地底遊園地に人格データを有したロボットの従業員。
さらには地底人というオカルト存在も出てきたのだ。
おそらくあの東の大馬鹿だったらスゲーとか深く考えず受け入れるんだろうな、と少し羨ましくなるほどである。
そこでシュモンが声を出す。
<那岐。もしかしたらこの地底文明…消失文明と交流があった文明かもしれん>
「…あ。そういえば…噂の域は出ないが、調べた文献にそうあったな」
クラリス事件の際に消失文明について籠鳥那岐達は調べた。
そこにオカルト分野で消失文明の噂があり、そこでは地底人と交流があったと書かれていた。
籠鳥那岐は消失文明について聞こうとキッキが立っている場所を見た。
しかしそこにはもうキッキはおらず、ピエロがニコニコ顔で待っているだけである。
<さぁさぁ、難しい顔をせずにレッツエンジョイ☆なんならマスコットのモグリ君と握手する?>
「…ちっ。いらん…」
籠鳥那岐は邪険にピエロの誘いを断り、一人で調べていくことにした。
今は行方不明の子供達のことが先決だった。それにはまず出口を探さなくてはいけない。
帰る子供がいるなら、必ずどこかに出口があるはずである。
籠鳥那岐は入場ゲートを通り、遊園地の中に足を踏み入れた。
遊園地はなんでもあった。
アトラクションだけでなく、ゲームセンターに売店、休憩所に宿泊所。
店員や従業員は全員ロボットらしく、人間に近い動きをするものの違和感を隠せていなかった。
先程の少年、キッキが地底人の子供というなら他にも地底人の子供や大人がいていいはずである。
それなのにいるのは人間の子供だけ。地底人どころが大人の存在すらなかった。
子供だけが笑顔で遊んではしゃぐ地底空間。それは異様な光景だった。
「…なんだ?ここは…」
<子供だけ…しかも人間の…キッキが地底人というのは冗談か?>
「それにしては髪や肌が不自然すぎた。やはり…なにかあるのだろう」
籠鳥那岐は注意深く周りを見ながら歩く。
それこそ入場口から時計回りに壁沿いを歩いて出口を探す程。
しかし一周して入場口に戻ってきてしまう。先程のピエロが笑顔で手を振っている。
「…おい、ピエロ。入場口が出口なのか?」
<出口?なんのことかな☆>
「とぼけるな!一周して入場口に戻ってきたなら、兼用してるしか…」
<出口なんてないよ☆どうしても出たいならオーナーに許可貰ってね♪>
籠鳥那岐は一瞬何を言われたのか分からなかった。
シュモンも同様で言葉を失くす。
ピエロは変わらない笑顔のまま、籠鳥那岐に出来立てのポップコーンバケットを渡す。
<さぁ遊園地を楽しんで!きっと帰りも忘れるくらい楽しいからさ☆>
そして園内の方へ背中を押される。
後ろでは先程の電車が新しい入場者を連れてきている。
楽しげな様子で園内へと走っていく子供達。大人は一人もいない。
「…出口がない…なら帰れないじゃないか…」
<行方不明者がいるのはそういうことか…これは先程のキッキを問い詰めるしかないな>
籠鳥那岐は冷や汗を流しつつ、重く頷く。
光溢れる遊園地、その裏側が一切分からない状態。
ポップコーンバケットを近くのテーブルに置き、どこかにヒントがないかと歩き出す。
デバイスの通話機能は園内でしか使えず、外とは連絡が取れない。
「…ちっ、クラリスの厄介が終わったと思ったらこれか…」
籠鳥那岐はクラリスが死んだ時、その体を壊したかった。
そうしないと気がすまないと思っていた。しかし崋山優香がそれを拒んだ。
自分は賭けをしてクラリスに勝ったから、クラリスの体は自分の物だと泣きながら宣言した。
だから民のために死ぬまで働いた女王を、友達の傍に埋めたいと言った。
籠鳥那岐は大反対した。大切な彼女、扇動涼香を殺した奴をその傍らに埋めるのは嫌だと。
しかし竜宮健斗が説得した。馬鹿なほど真っ直ぐな目で。
那岐。シュモンの記憶見たなら…クラリスがどんな奴で、どう頑張ってきたか…知ってるだろう?
籠鳥那岐はその言葉に頷いた。
見てしまった、知ってしまった。クラリスがどれだけ一生懸命に他者を救おうとしたか。
自分を犠牲に、どれだけ多くの人間を救おうとしたかを知った。
それでも許せない気持ちが渦巻いてて、説得を無視しようとした。
すると幼馴染の御堂霧乃が静かな目で言う。
クラリスも彼女が大好きだったんだ…アタシやなっちゃんと同じでさ…死んでからも壊されるような奴じゃない。
追い打ちをかけるような御堂霧乃の言葉に、籠鳥那岐は降参するしかなかった。
もし先に色んなことが分かっていれば、こんなに憎しみを抱く必要がなかったのかもしれない。
しかし知ることは出来なかったし、知ろうともしなかった。
憎しみは全部自分の意思から生まれたもので、クラリスが死んでしまって居場所がなくなってしまった。
そう考えていたらシュモンが最後に小さく呟いた。
もう…クラリスに、女王様に捕らわれず、我と同じように…新しい人生を生きてくれないか。
それは願い事のような、シュモンの本心だった。
籠鳥那岐は自分に親身になってくれるたシュモンの言葉で、自然と憎しみが小さくなってしまった。
もちろん今でも許した覚えはない、しかしもう終わったことなのだ。
だからシュモンが言ったように、別の目標を見つけて生きることにした。
その矢先でこの地底遊園地での行方不明事件である。
小言の一言も言いたくなるわけである。
「…とりあえずキッキを捕まえるか」
<うむ。将来の夢は刑事だしな!>
新しい目標は大人になったら何になるか。
悪い奴を捕まえる仕事、ということで選んだ夢。
籠鳥那岐らしい、あまり子供らしくないが今までとは違う目標だった。




