ホップステップドロップキック
扇動美鈴がお仕置きを受ける際に確認したかったこと。
それは裏の生活感の確認。もしキッキがスタッフなら裏に切り離された空間があると思っていた。
しかし行ってみた場所はどこにも生活感がなく、全て作業場のように見えた。
まるで遊園地自体が家かのように。そこで扇動美鈴はずっと抱いていた違和感に気付いた。
それに気付けただけでも、収穫があったと不安に高鳴る鼓動を抑え込んだ。
後の出来事はよく覚えていなかった。
図書館で調べ物を続けていた玄武明良は、シショという名前のロボットに声をかける。
どうしても見たい項目が載っている本がないので、検索をしてもらおうと思ったのだ。
シショは少々お待ちをと言って、データベースにアクセスする。
すると不明な動作音を出したと思ったら動かなくなる。
「…故障か?」
「やーい、壊しているでござっるーっだだだだだだだだ!!!!」
「チビ野郎…その頭蓋をかち割る科学的な方法をいくつ聞きたい?」
<主、大人げない>
<いやそちらの主も子供でござろう>
玄武明良が葛西神楽の頭を鷲掴みにしている傍で、ガトとビャクガは適当に静止をかける。
と言っても本気でないのは目に見えて分かっていることで、また玄武明良に体力がないのも知っている。
だから強く止めないのだが、葛西神楽は痛がって暴れまわり、大事なお守りがポケットから落ちたことに気付かなかった。
「あ…これ、お仕置きの後で…火山に落ちたはずじゃ…」
「だだだだだだ!?…な、なんのことだよ?それはずっと俺のポケットに入っていたぞ…ござる!!」
瀬戸海里は無事なお守りを手に取って眺める。
汚れ具合に、恋愛の部分を汚い字で友情と訂正されている所から、紐に括り付けられた五円玉。
なにからなにまでマグマで溶かされたと思っていたお守りと同じである。
しかしそのお守りが無事であることで、ある一つの仮説が生まれる。
ずっと怯えていたお仕置きによる仁寅律音達の痕跡。
あれら全てが嘘である可能性。瀬戸海里は騙されたと心の中で憤慨する。
そして仁寅律音が小さく舌打ちしたのが聞こえ、憤慨する気持ちが一気にしぼむ。
「…海里くん。それ僕が処分…いえ、預かってもいいかな?」
「いやそんなニッコリ顔で言われても…」
不穏な単語を聞き逃さなかった瀬戸海里は、そのお守りを葛西神楽に返す。
仁寅律音が諦めの悪い表情を表わす。その顔が面白いのか絵心太夫が大笑いする。
時永悠真はそれにつられて小さく笑い、筋金太郎がどういう意味だろうかとオロオロする。
「悪いことをしていると信用を得るのも一苦労だな」
「目つき悪いがゆえに誤解受ける人に言われたくないなぁ」
籠鳥那岐の皮肉に、笑顔で皮肉を返す仁寅律音。
おっかないと思った相川聡史は、東エリア所属でよかったと心の底から思った。
その間もシショは動かないまま正体不明の作動音だけ出している。
「おーい、大変なんよー。健斗が迷子になったんよー」
「ま、まさかお仕置き…」
「いーや。ミラーハウスで突然消えやがったんだよ…どうやって迷うんだっつーの」
「今優香ちゃんが探してるんで…その私達はこっちの手伝いをしようかと」
「自分も明良くんのお手伝いしたいし…早く終わらせて、二人でデート…」
「それどころじゃないから却下」
「あんさん、せめて最後まで聞いてあげればいいやん…」
戻ってきた五人と会話をしている中でも、扇動美鈴は本に集中していた。
しかし集中が途切れる。なぜなら本を誰かに取り上げられたからだ。
取り上げた正体を見あげれば、シショが機械の腕で本を手にしている。
そしていきなりその本を二本の腕で真っ二つに引き裂いた。辞書ほどもある本をである。
音に気付いた玄武明良達は絶句したが、扇動美鈴は肩を震わせて声を荒げた。
「しょ、初版本を真っ二つにするなんてあなた、血とか涙はないんですかぁああああああああああ!!!?」
珍しい扇動美鈴の怒声より、ロボットだから血も涙もないだろうよと誰かが心の中で突っ込む。
また誰かがそんな普通は見ないような製版番号まで読んでいたのかと、別の意味で絶句した。
しかしシショは引き裂いた本を放り棄てると、その手で今度は扇動美鈴を捕まえようとする。
「シュモン!」
「ロロ!!」
いち早く危機を察知した籠鳥那岐と時永悠真が名前に指示を込めて口に出す。
赤い鳥のシュモンと梟のロロはすぐさま翼を動かして、シショのカメラアイの前で体を動かす。
翼と胴体によって視界を揺さぶられたシショは二匹を捕まえようとするが、空中で自在に動くため捕まえられない。
その間に絵心太夫が扇動美鈴を抱きかかえ、素早く玄武明良の傍まで連れていく。
運動神経などは優秀なため、無事に扇動美鈴は危機から逃れた。
「これはまさや虐げられてきたロボットの反逆という近未来SFによる事態が起きていると…」
「いや、キッキはロボットを大切にしていた…いくら意思があると言ってもロボット三か条もある」
ロボット三か条とはロボットに課せられる簡潔な三つの法である。
どんなロボットも、アンドールですらこの法は守らなくてはいけないし、守るようにプログラミングされていることが多い。
もちろんクラリスのような意思を持ったゆえに起こした違反もあるが、シショの場合はどう見ても意思による行動には見えなかった。
安定しない動作に、規定されているはずの本を管理するというプログラムから外れた行為。
まるで意思が強制的に塗り替えられて暴れているようにも見える。
「ど、どうするでござるか!?は、反撃…」
「ルール4、スタッフやお客様への暴行を禁止する。俺はそれでお仕置きされた」
「こんな時にルールとか言っている場合じゃないでござるよぉおおおおおおお!!?」
それももっともだと玄武明良は思うが、しかしまたお仕置きのために捕まるのも手間が増えるだけである。
今度は迷子放送などでは戻ってこれない可能性も大きく、捕まるメリットもない。
だとすればとれる方法は一つ。
「逃げるぞ、各エリアでまとまって行動する、いいな?」
「分かった」
「ほら、ボスがいない西エリアでは君が指揮してよ」
「そ、そんな、律音…さんはあの時副ボスとして期待してるって…」
「西エリアの一員として、ね。誰がボスになるとか言った?ん?」
葛西神楽は落ち込みつつも筋金太郎達を誘導する。
今は竜宮健斗がいないため、相川聡史が鞍馬蓮実達に声をかけてまとまる。
籠鳥那岐の場合は錦山善彦しかいないため、出口の確保へ一足早く行動する。
玄武明良は殿を時永悠真と絵心太夫に任せて先行する。
そこへ緊急放送が流れる。
『こちら遊園地管理室、オーナーキッキ。緊急ナンバー999、正常なスタッフ達は今は通信オフにして迅速な避難行動を!!』
大きく慌てた声の向こう側では緊急用の非常ベルが鳴り続いている。
一体何が起きているのかと表に出た籠鳥那岐は、子供達に襲い掛かるロボットを見つける。
今にも椅子を持ち上げて放り投げようとする二本足のアニメの合体ロボに似た姿。
目標は地面に転んで泣いている女の子であることが明白だった。
一直線に最短距離で向かい、足払いで硬い機械の足、行動の支店である膝裏を力の限り蹴る。
膝裏は関節であるため、蹴られたら曲がるしかない。すると体勢が大きく崩れる。
椅子を持っていたためロボットは大きな音を立てて倒れる。
転んで泣いていた女の子は錦山善彦が抱き起して慰めている。
安心した籠鳥那岐だが、予想以上にロボットの足が硬かったため、青痣ができてるような痛みを足に感じる。
<那岐、後ろ!!>
シュモンの声によって振り返れば、今度は兎のぬいぐるみのようなロボット。
逃げようとしたが足の痛みで一時的に動きを止めてしまう。
その隙を逃さずにロボットが柔らかそうな手で拳を作って、大きく振りかぶる。
「ホップ、ステップからのドロップキックぅううううう!!!!」
間抜けな声ながらもリズムを取って、力強く踏み込んだ両足で兎の頭を蹴る葛西神楽。
小さい体ながらも威力があったらしく、頭が吹き飛ぶと同時に体ごと地面を転がる兎のロボット。
首の部分がねじ曲がって、コードやケーブルがはみ出た上に首だけが分離されてしまった。
「見たでござるかぁっ!!」
「おー、やりおるやん…んで、ボスは足どないやねん?」
「心配するな。これくらいの痛み何でもない」
籠鳥那岐はすぐに立ち上がり、周囲を見回す。
色んな所でロボットが暴れまわっているせいで、子供達はどのロボットにも怯えているようだ。
誘導するスタッフもいるが、その姿を見ただけで怯えて逃げ出す始末。
これでは被害が広がるだけだと頭を悩ませてしまう。
「出口がない遊園地…どうやって逃げればいいんだ…」
眉間に皺を作って考えても答えは出ない。
こちらでスタッフに聞こうにも、どれが安全か分からない状況。
八方塞がりだと思った瞬間、聞き慣れた声が遠くの方から聞こえてきた。
「健斗?」
「那岐!神楽に善彦、キッキは?」
「先程の放送だと管理室だと思うんやけど…」
「誰か場所知ってる奴は!?」
「…俺が、スタッフルームの入り口なら知ってる」
籠鳥那岐は二つ目のルールでお仕置きされた。
スタッフルームへの立ち入りを禁ずる、そのルールを犯したのだ。
だからこそ案内できる自信があった。嫌でも忘れられない屈辱的な記憶でもあるから。
「行こう!俺、キッキに言わないと!!」
「なにをだ?」
「出口作ってくれって!!じゃないと、遊園地が遊園地じゃなくなっちまう!!」
竜宮健斗は馬鹿な少年である。
しかしここぞと言った場面では間違えない。
籠鳥那岐はその間違えない判断を目の当たりにし、そして信頼している。
頷いてこっちだと案内する。その際に錦山善彦は東エリアの奴らと行動しろと指示する。
竜宮健斗はついてきた崋山優香に、皆と一緒に行動するように言う。
崋山優香もすぐに頷いて錦山善彦に簡潔に行動状況を聞き、行動を共にする。
「那岐くん、ケンのことよろしく!」
「分かってる。行くぞ」
「応!」
籠鳥那岐と竜宮健斗はスタッフルームへの入り口を目指す。
例えルールを破ることになっても、やらなければいけないことがあるから。
ルールが間違いや取り戻せない事態を招く前に、正しい行動するために。




