遅れてきた馬鹿
お仕置きは別に命を奪うわけではない。
だから今まで罪悪感を感じることもなくやってこれた。
籠鳥那岐の時も、仁寅律音達の時も、いつもの調子で軽く行ってきた。
それなのに玄武明良と話して、自分の立ち位置を理解してもらった後。
何故か大きな罪悪感を感じ、体が震えた。
それでもルールはルールだから、お仕置きをした。
あとはいつも通り、遊園地の運営をしながら遊園地を広げ遊園地を…
「あれ…?僕は…なんのために、遊園地を?」
キッキは迷い始め、その迷いが他の思考へ飛び火していく。
そして気付く。ルールは遊園地のため、夢のため、友達を作るため。
並べた理由に納得できてない自分がいることに。
大黒柱であるルールに、ルールを作った本人が疑問を感じた瞬間だった。
帽子のつばに東エリアのボスである証のバッジをつけた少年が一人。
少年の肩には青い西洋竜のアンドール。
そして花の飾りをついた帽子をかぶっている少女が一人。
腕の中には薔薇の花飾りをつけた白い兎のアンドール。
誰よりも遅れて地底遊園地にやってきた。
「すっげー!!本当に地下に遊園地がある!!」
<おお…まさか消失文明時代に見た歴史書にあった地底文明が残っていたとは感慨深いものが…>
「ケンとセイロン…私達が霧乃ちゃんに怒られた理由とか忘れてないよね?」
大はしゃぎする竜宮健斗とセイロンを嗜めるように、崋山優香が念を押すように言う。
二人は学校行事とその発表会により、誰よりも来るのが遅れてしまった。
発表会が終わった直後に御堂霧乃に怒り心頭と怒鳴られ、すぐさま地底遊園地に向かうよう命じられた。
説明も怒っていたせいか大雑把で、とりあえず戻ってこない籠鳥那岐達を回収しろとしかわからなかった。
折角クラリスの事件も解決し、エリア事務所の仕事も順調になり始めたという時期。
そんな時に各エリアのボスとその部下が次々に消えたせいで、予定されていた大会の多くが中止。
御堂霧乃はどうやらその後始末のせいで忙しくなり、からかう相手もいないため荒れていたようだ。
「いやでもスゲーよ!?ほらこのスクリーンとか、本物にしか見えねぇ!!」
「あーもう!!はしゃぐのは誰かと合流してからにしようよ!!」
病院で緊急入院している布動俊介達を除いた十五人。
それら全員無事だと勘違いしている二人は、とりあえず東で一番しっかりしている瀬戸海里に連絡を取る。
すると驚きつつ嬉しそうな瀬戸海里の声がすぐに返ってきた。
まるで数年ぶりの親友に会うような、大袈裟な声を二人は特に気にすることはなかった。
「えー、じゃあ真ん中にあるアルファベットルームで」
「アルファベットルーム!?地底遊園地特有アトラクション!!?」
<パンフレットには遊園地の目玉アトラクションとあるな>
二人はほぼ全ての知り合いである子供達が消えていることも知らない。
そして遊園地の闇もルールすらも気付いていない。
しかし本来この遊園地に来る子供達の多くは、竜宮健斗達と同じである。
純粋に遊園地を楽しみ、そして心躍らせるのである。
アルファベットルームというアトラクションの建物の前。
竜宮健斗はその建物を見上げ、早く入りたいと期待を込めた目をしている。
崋山優香もパンフレットを眺めながら、この部屋に行きたいと話している。
そんな何も知らない無邪気な二人の様子を見て、瀬戸海里はどうしようかと悩む。
本当のことを話せば二人は真剣にこの遊園地に立ち向かうだろう。
しかし同時に今みたいに楽しむことができなくなる。目の前の楽しそうな光景が終わってしまう。
だが伝えないということは、消えていった子供達を救う手立てを少なくする自殺行為。
良心と義務感の狭間で瀬戸海里が揺れている中、時永悠真と絵心太夫がここオススメだよーとパンフレットを指差している。
「いやー!すごいな!!雨の心配ないし、無料だし、至れりはてり!!」
<至れり尽くせり、な。果ててどうする>
「それにしても那岐くん達は?皆来てるんじゃなかったの?」
「ああ!ボス達はいわゆる迷子でな!!デバイスも連絡が取れずに困っているぞ!」
戸惑うことなくあっさりと嘘をつく絵心太夫。
瀬戸海里がその反応を見て、そうやって誤魔化していけと言われたように感じた。
時永悠真と目を合わせ、その方向で話を合わせようかと合図する。
しかしすぐに竜宮健斗は困ったなーと言いつつ、ある提案をする。
「じゃあそこの店員さんに迷子放送してもらおうぜ!すいまっせーん!!」
言うが速く、竜宮健斗は近くでアイスクリームを配っていたロボットに声をかける。
花の妖精のような姿のロボット、フローゼはどうかしましたかと聞き返す。
迷子放送で出てくるようなら既にしている、とか、そんな機能がこの遊園地にあるのか、とか。
瀬戸海里がどう止めようか悩んでいる間に会話は進んでいく。
要領を得ない竜宮健斗の言葉を補強するように、崋山優香も迷子放送の内容を伝えていく。
<了解しました!では今からオーナーに連絡を入れて放送してもらいますね☆>
「ありがとう!おーい、これで大丈夫そうだぞー!」
あっさりと迷子放送は採択され、実行されてしまう。
そんな簡単な方法で戻ってくるのかと、瀬戸海里は貧血を起こしそうになる。
あんなに泣いて怯えて迷った時間は一体なんだったのかと後悔する。
なんにも知らないとはいえ、探す前に迷子放送していいのか、と個人的な意見も頭を巡る。
フローゼがオーナーに通信を入れた直後、慌てた様子でキッキがアルファベットルームまで走ってくる。
<オーナー?どうしたんですか?>
「ぜぇ、はっ、はぁ…ま、迷子って…名前とか…少し人数多いような…」
「オーナーさん?スゲー!!?俺と同い年くらいにしか見えない!!なのに偉いんだ!!」
「ケン、初対面の人に失礼でしょう。うちの馬鹿がすいません…」
崋山優香が軽く頭を下げ、キッキは気にしなくていいですよ、と声をかける。
黒幕、もしくはラスボス、とりあえず敵対する相手に対してする態度ではない。
この二人はどこまで知らないんだと、瀬戸海里は戦慄する。
そしてなんで詳しく教えなかったの霧乃ちゃん、と地上にいる美少女へ恨みの言葉を心中で吐く。
でも考えれば崋山優香はクラリス事件の時、同じくラスボスであるクラリスと恋バナをしていた過去がある。
しかも子供達全員が時計台の中で倒れている最中で、だ。
そう考えれば今の目の前の光景も普通なのかもしれない、と逃避すら開始する。
「それで那岐とか律音とか明良とか探してほしいんだ!遊園地なら大丈夫だよな?」
「…え?なんで?」
「だって遊園地は皆を笑顔にする場所だろう!だから大丈夫なんだ!!」
明るい笑顔で言う竜宮健斗に、崋山優香はらしいと呆れつつ少し楽しそうな顔をする。
セイロンも全くだと言わんばかりに頷いている。
ただキッキが何かを思い出すような静止を見せ、すぐに明るく大袈裟な動きをする。
「も、もっちろん☆僕は夢の遊園地オーナー、地底人のキッキだからね☆」
「おおおお!!カッケー!!」
「へ?地底人!?」
竜宮健斗は深く考えずに感動している横で、崋山優香が素っ頓狂な声を上げる。
そして瀬戸海里に向かい、小声であれって本当なの、と聞いてくる。
瀬戸海里が渋い顔で肯定するかどうかで迷っていると、絵心太夫が本当だぞ、と大声で言う。
時永悠真も困った顔しつつ、僕達が調べている中で地上とは違う文化圏の人かも、と曖昧に濁す。
「えーと…じゃ…三、いや四十分待ってて!!ちょっと解凍…じゃなくて探してくるから!!」
「あー人数多いもんな!よろしくお願いします」
「う、うん…」
固い笑顔で去っていくキッキの背中に竜宮健斗が手を振る。
なんとなく哀愁漂うその背中に、時永悠真は同情する。
お仕置きした子供達を、ルールを破った者を開放する羽目になってしまったのだから。
しかも中にはキッキにとって厄介な者も多い。
だからといって何も知らない、純粋な客である竜宮健斗の頼みを拒否することはできない。
「サービス業の悲しい所だね…ん?サービス業…」
「あ、あそこでポップコーン売ってる…オレンジ味!?ポップコーンなのに!?」
「え?なにそれ、面白そう!」
いまだに何も知らない二人は、目先のお店にあるポップコーンワゴンへ走り出す。
絵心太夫はその後ろをついていき、瀬戸海里は後悔でその場から動けないまま何故か合掌している。
時永悠真はあらゆるツッコミを、これから帰ってくるであろう妥当な人物に全て投げ出すことにした。
ポッポコーンバケットを片手に持ち、ハムスターのように頬を膨らませた竜宮健斗。
その姿を見て籠鳥那岐は、長い溜息しか出てこなかった。
「おふっ、んぐっ、那岐久しぶりー」
「じゃねぇよ、馬鹿っ!!遅いんだよ、お前は!!」
代わりにと言わんばかりに、相川聡史が怒りのままツッコミの手刀を額にくらわす。
竜宮健斗は口に含んでいたポップコーンが衝撃で詰まってしまい、胸を叩き出す。
そこへ慌てて水を貰って来た凛道都子がコップを差し出す。
筋金太郎は老人にするように背中を擦る。
「ぬぐ、んぐぐ…ぷはぁっ!!助かったー…」
「お前は俺達が大変な目に合っている間に何してた!?この大馬鹿、呑気、●●●!!!」
「え?チャック?」
放送禁止用語を出した袋桐麻耶に対し、全く違う単語を聞き返す。
もう一回言う気にもなれずそっぽを向く袋桐麻耶に対し、錦山善彦がざまぁ、と言わんばかりの意地悪な笑顔を浮かべる。
竜宮健斗が食べているバケットを見て、鞍馬蓮実が腹を鳴らす。
「オイラもお腹空いたんよ…」
「これオレンジ味なんだけど、美味しいぞ!なんかはじける甘酸っぱさ!!」
「口の中でパチパチしてるから、意外と刺激的だよ」
崋山優香も一口食べ、弾ける刺激に舌鼓を打つ。
葛西神楽も食べたいと近寄り、一口食べてほっぺを押さえる。
「これは蕩ける美味さ…でござる!!」
「あれ?神楽口調変えたのか?」
「イッエース!!今は侍口調…でござる!!」
言いよどみつつ葛西神楽は侍口調で話す。
なんか時代劇みたいだなー、と呑気に竜宮健斗は黙っている仁寅律音にバケットを差し出す。
「律音も食べてみろよ、美味いぞこれ!」
「…ありがとう」
素直にバケットからポップコーンを一つまみ出し、口の中に入れる。
母の作る手料理の刺激よりは優しいかな、と明後日に思考を働かせる。
そして今度は試しに竜宮健斗に母の手料理を食べさせてみるか、と画策する。
「早紀、美鈴、それに明良も食べてみろよ」
「え、えっと…いただきます!」
「いただきます!ほら明良くんも…」
猪山早紀と扇動美鈴がポップコーンを食べている横で、玄武明良は眉間に皺を寄せる。
当分は帰ってこないつもりでルールを破り、捕まった。
それだというのにすぐに竜宮健斗が迷子放送を使い、解放されてしまった。
命は賭けてやったものの、こんなあっさり勝てるギャンブルだと賭け損した気分になってしまう。
そして目の前にいるポップコーンを食べて幸せそうな顔に苛立ち、その頭をアイアンクローするように鷲掴む。
「あいだだだだだだぁっ!!?え?あ、明良、いてててててて、なんでそんなに怒ったたたたたた…」
「お前が腹立つ顔だからだよ、馬鹿野郎」
「えええええ?俺のせいったたたたた」
鷲掴みされつつも、痛いと言いつつも竜宮健斗は笑っていた。
まるでじゃれ合いを楽しむかのように。全員で遊園地に来れたのが嬉しいように。
そして呑気にどのアトラクションから遊ぶ、とのたまってくる。
玄武明良の怒りは爆発を通り越し、湿気により鎮火した打ち上げ花火のように勢いを失くした。
「ったく…まるで何も知らないような態度しやがって」
「え?キッキが地底人でここのオーナーは知ってるぞ」
あっさりとした一言。
しかしその一言に迷子放送により助け出された全員が違和感を感じる。
そして最終的にルールを破らなかった三人に視線が集まる。
瀬戸海里は視線を逸らし、時永悠真はただ笑うだけ。絵心太夫は何故か胸を張っている。
改めて竜宮健斗の顔に視線が集まる。幸せそうな普通の遊園地を楽しもうとしている顔。
その横で崋山優香が不安そうな笑顔で全員に聞く。
「えっと…私達、地底遊園地に行って皆に会ってこいくらいしか…知らないんだけど」
全員が納得し、そして溜息をついた。
「もういい…お前はそのままでいろ」
「うん、どうでもいいや、もう…どうせ僕達の犠牲なんて…」
「はぁ…この大馬鹿」
籠鳥那岐、仁寅律音、玄武明良の三人が説明する気が失せたように呟いた。
崋山優香は何となくどういう意味か察し、竜宮健斗はもういいのかー、と素直に受け取った。
セイロンはシュモン達と密かに電波通信し、そして全ての事態を把握した。
犠牲を出しながらも子供達だけで調べた、地底の秘密を。
そしてシステムエッグによって、消失文明と同じような悲劇が繰り返されたことも。
アニマルデータをインストールしたアンドール全員が、同じ知識を共有した。
例外はアニマルデータをインストールしてない、崋山優香のアンドール、ラヴィだけである。
<…そうか。子供が夢見た世界なのか…ここは>
子供達がたくさんいる、光溢れた賑やかな遊園地。
しかし手に入れた情報によって、セイロンは見る角度が変わってしまう。
歴史書の中でしか確認したことない、おとぎ話のような世界。
そんな世界にも確かに人が生活していて、そしてたった一つの願いとシステムによって滅んでいく。
繁栄を閉ざされた未来しかない、地中の限られた世界のなかで、たった一人の子供が抗っている。
<…我は、あの子供を助けてやりたい…>
「シュモン?」
<那岐にもこんなにも友達が出来たんだ…だからあの子にも>
「黙れ。一言余計すぎる…」
「シュモンと那岐は変わらないなー!」
いつもよりは優しいがシュモンの首を絞める籠鳥那岐に、朗らかな笑いを零す竜宮健斗。
セイロンもシュモンの余計なお節介を見て、懐かしいなと笑う。
本当に余計だが、その気持ちが嬉しいと過去はそう感じていた。
そして今も変わらない。余計だが嬉しい。
「じゃあキッキも誘って遊ぶか?」
竜宮健斗の提案に、玄武明良の蹴り、相川聡史の拳、袋桐麻耶の罵声がいれられる。
三者三様のツッコミに、竜宮健斗が一瞬言葉に詰まる。
「お前…相手はここのオーナー。店長みたいなものだ、遊べるはずがないだろう!!」
「ほっんとうに馬鹿だろ!?俺達が遊べてもあいつは仕事だっつーの!!」
「ていうか敵だ!!悪の大将ってわかれよ、大馬鹿、いや超弩級の馬鹿っ!!」
「えええっ!?でも迷子放送してくれたし、俺達と同い年くらいの子供じゃん…遊べないのつまんないじゃん」
全く事態を理解していない竜宮健斗の言葉。
その言いぐさに仁寅律音は小さく笑いを漏らす。
ルールを破った者達に御仕置という処刑をするような地底人。
それをただの同い年の子供として捉えてしまう。ただの馬鹿か、それ以外か。
仁寅律音は前者だろうなと結論付け、また小さく笑う。
「いいんじゃない?案内してよ、とか言って付き合ってもらえば?」
「おお!その手があるのか、さすが律音!!」
「り、律音…さん」
「はい神楽くんは黙ってて。なにより敵を知り己を知れば百戦危うからずでしょ」
ニッコリという仁寅律音の笑顔。
それに嫌な予感を覚えるが、誰も何かを言うことができない。
何故なら笑ってはいるものの、目だけが真剣に周りを黙らせている。
それに気付いていないのは竜宮健斗だけである。
「でも男ばかりじゃ味気ないし…だからって相手がいる女の子に行かすのは悪いから…」
「なるほど!!華のある優香、都子、律音…さんで行く算段でござるな!!」
「僕は余計。もうその口、接着剤で閉じてみれば?」
絶対零度を思わせる見下し視線で葛西神楽を射抜く仁寅律音。
葛西神楽は気付いたら指先合わせた礼儀正しい土下座をしていた。
その様子を嘆かわしいと袋桐麻耶が溜息をついた。
筋金太郎は華より花の方がいいんだなぁ、と言う。
「都子さん、というわけでダブルデートっぽく接待お願いね」
「え?ええっ!?で、で、でぇとぉっ!?」
「頑張れ」
仁寅律音の笑顔に圧倒され、凛道都子はそれ以上何も言えなくなった。
別に文句があるわけではなく、ただ恥ずかしいのだ。
大好きな竜宮健斗とデートと言う単語の行為が味わえるとは。
もしも上手くいけば十五までに相手を見つけるという、家との約束が果たせるかもしれない。
そうすればお嬢や姉御と言われることがなくなる。
有頂天でデートに浮かれている凛道都子だが、気付いていない。
デートはデートでも、ダブルデートということだ。
「どっちがどっちの相手なの?」
「どっちでも。早い者勝ちだよ、優香さん」
仁寅律音の笑顔に崋山優香は泣きたくなる。
明らかに面白がっているし、楽しんでいる。
効果的な作戦を立てつつ、自分も楽しめる仕様にしている。
なんという策士だろうが、と泣きたくなる。
「聡史―、デートって確か結婚前提のお付き合いを…」
「お前の大ボケはいいんだよ、爆発して来い!!盛大に散れっ!!」
デートに関して間違った知識を持つ竜宮健斗。
そのボケにすら苛立った相川聡史は若干涙目で怒鳴る。
別に羨ましくなんかないぞ、というテンプレートな台詞付きで竜宮健斗が持っていたポップコーンをやけ食いする。
「俺は花火じゃないから爆発しないし散らないぞ?」
「いいからさっさといっちまえー!!!」
ピエロのロボットに頼み、キッキを呼んでもらう。
ドリルを片手に土塗れで驚いた顔をするキッキが竜宮健斗達の前に現れる。
軍手で土を拭いつつ、キッキが他に誰かいないか見回す。
「他のお友達は?」
「いやなんかダブルデートして来いって。でもデートって結婚前提の清い付き合いの男女が…」
「…いや、そんなに拘る物じゃないよね?」
キッキの言葉に今度は竜宮健斗が驚愕したような顔をする。
ずっと信じていた概念を粉々にされたような、間抜けな顔である。
「で、他の人は?」
「なんか他のアトラクション遊ぶって…皆で遊んだ方が楽しいのになー」
「しょうがないでしょ。この遊園地は一人二人ならまだしも、全員で楽しめるアトラクションないんだし」
「キッキ―、そういうの作れないか?」
話を振られたキッキは、少し考え、いや大きく考える。
十数人対象のアトラクションは考えたことがなかった。
遊園地の乗り物の多くは二人乗りなどが多く、調べた資料にも大人数で遊べるアトラクションは少なかった。
「あ、あの、健斗くん…はどこ行きたい?」
「んー、キッキは?」
「え!?い、いやでも僕はオーナーで…」
「オーナーだから、一番楽しい所知ってるかな、って」
まるで当たり前のことのように笑う竜宮健斗。
ゲームや遊びだって作った本人が一番楽しい所を知っているように。
遊園地の主であるキッキが一番知っているだろうと期待を込めて。
しかしキッキは内心焦り、頭の中に急いでパンフレットの全てを思い出す。
確かにこのアトラクションがあれば楽しいと考えて作ってきた。
だが実際に遊んだことはなく、パンフレット通りの言葉しか思いつかない。
「あ、アルファベットルームは一杯楽しいヨ?」
「え、えっと…私は…いや、です…」
Dルームを探してお仕置きされた記憶がある凛道都子が控えめに言う。
そう言われてしまうとキッキも何も言えなくなる。
改めてパンフレットに書いたオススメのアトラクション内容を思い出す。
ジェットコースターに観覧車、メリーゴーランド…一杯あるが、オススメとは一体何なのか。
「ていうかそのドリルは?」
「え?えーっとぉ…遊園地をより良くするための道具…」
「おー!?なんか大きくてカッケー!!動いてるところ見てみてー!!」
機械大好き少年心のまま、竜宮健斗はドリルに触れようとする。
キッキは危ないよ、と言って慌てて背中の後ろに隠す。
機械大好きだが機械に疎い竜宮健斗。あんな三角錐になんの魅力が、と崋山優香と凛道都子は首を傾げる。
「俺コンピューターとかデータは苦手だけど、こういうメカみたいなのいいよな!!」
<うむ…あの螺旋と歯車が織りなす芸術のごとき動きは、男心をくすぐるな…>
「セイロンまで分かっちゃうの!?男の子のそういうところ、本当に分かんない…」
「あ、でも男の人ってチャカとか持つとなんかはしゃぐよね」
「…チャカ?」
「あ、いえ!!決して鉄製の武器じゃないです!!あれだよ、水鉄砲!!水鉄砲!!!」
念を押すように大事な単語を二回言う。
竜宮健斗と崋山優香は水鉄砲をチャカというのは業界用語かなにかと勘違いする。
もちろん業界用語ではあるのだが、芸能関係の業界用語として考えている。
一人気付いたキッキが思わず吹き出し、口元に手を当てて笑う。
「ぷくっくく…チャカが水鉄砲って…」
「水鉄砲!!あれ、あれだよ!!チャキーンみたいな!!!!」
「お、応。とりあえず分かったから…キッキどこ行く?」
「え、あ、うん…じゃあ、一通り案内するよ。まずはコーヒーカップとか行かない?」
そう言ってやっと歩き出す四人。
やっと行く場所が決まったかと、後をつけていたグループがその後を追いかける。
キッキの正体を探るついでに、女子同士の戦い勃発。
こんな美味しい状況を見逃す手はないと言わんばかりに、ばれないよう…しかし確実に見える位置でついていく。
子供達の愉快な遊園地を巡る物語が、やっと始まるかのように。




