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ANDOLL*ACTTION遊園地編  作者: 文丸くじら


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残った者

玄武明良は扇動岐路作の料理を見て愕然としている。

栄養バランスを考えられた野菜中心ながらも肉の入ったスープだったはず。

スープとは液体のことである。決して固形ではない。

ではなぜ目の前にある寸胴鍋の中身はゼラチン質で固まっているのだろうか。


「…おい、おっさん…なに入れた?」

「入れてはない…冷やしただけだ…冷製スープと思って…」

「鍋丸ごと入れるなよ。脂固まってるじゃねぇか…温めろ」


扇動岐路は決して料理下手ではない。

むしろ今のように冷製スープを作れるほどの腕前はある。

しかし今みたいな不可解な失敗をいくつかするのだ。

主に三日に一度の割合で。


「美鈴…お前が料理出来た訳を今知った」

「あ、あははは…で、でも本当にたまにですよ…」


扇動美鈴がフォローを入れようとして、ささやかに失敗をする。

玄武明良は溜息をつきつつ、どこか楽しそうにしょうがねぇ手伝ってやると申し出る。

クラリスの事件でこの二人は重要人物だった。

そのため今後の監視の意味も込めて、玄武明良は自分の家に来いと言った。

元は家族四人住んでいても余裕ある家だったが、ある事故で玄武明良は一人で暮らしていた。

だから住む余裕はあるし、下手に二人だけで住んだら何が起こるか分かったものじゃないと強引に周りを説得した。

もちろんその際にはあらゆる知識を使った論絶合戦を繰り広げた。

そして御堂正義の許可を得て、今は三人で暮らしている。

表面では面倒そうにしているが、玄武明良の隠れた本心としては久々の家族生活を喜んでいる。

しかし絵心太夫が面倒でまわりくどいツンデレだなボスは、といった際には締め上げを喰らわせていた。


「ん?通信…」

『よっほほーい☆みん…』


言い終わる前に相手の顔を見て、玄武明良は通信を切った。

しかしすぐに通信がくるので、舌打ちしつつ鬼の形相でテレビ電話の画面向こう側を睨む。


「なんの用だ…用件は簡潔に真面目に言え。じゃないと切る」

『んだよーかてぇなぁ…まぁいいや。ちょっとふざけてる余裕も少なくなってきたし…』


口調ではいつも通りながら、表情が優れない御堂霧乃に玄武明良は違和感を持つ。


『………地底遊園地に行って欲しい』











消火扉の中にあった通路を抜けた先の駅の中。

玄武明良は不可解極まりないと言った顔をしている。

猪山早紀は扇動美鈴と一緒にパンフレットを見てはしゃいでいる。

絵心太夫は都市伝説は真だったかと騒ぎ、時永悠真はその様子を眺めている。


「これをオカルトと分類するかファンタジーとするか…俺の脳内会議が白熱中だ」

<主殿…現実放棄せずに気をしっかり>


足元で黒い狼のアンドールであるガトが、背中にフェレットのアンドールであるエルを乗せつつ言う。

ガトは消失文明では老人で、エルはその妻であった。

記憶を思い出した後はこのように傍にいる、というよりは背中に乗ることが多い。


「女房の尻に敷かれてるジジイが…はぁ」

<しょ、しょうがないではないか!?体型的にワシは乗れないんだぞ!?>

<あらまぁおじいさんったら…子供の前で乗るだの乗らないだのいやらしい!>


エルが小さな手で小さく殴る様を見て、玄武明良はまた溜息をつく。

許嫁である猪山早紀と結婚したら、自分もこうなるのかという悩みの溜息である。

いくら天才である玄武明良でも、未来の、それも夫婦関係のことまでは予測できなかった。

しかし家族計画くらいは立てとくか、とらしくない思考に行き着く前に電車がやってくる。

行き先が一つしかない、地底まで子供を運んでいくほぼ片道電車。


「行くぞお前ら」

「は、はい!」

「明良くんと遊園地久しぶりだなー」

「地底の中に広がるワンダーランド、それともアンダーグラウンドか、その真相は如何に、続くだな!!」

「煽り文みたいで面白いね、それ」


子供達が次々と電車に入り、収容した後は扉を閉めて走り出す。

たった一人で動く地底人が支配する、五つのルールで縛られた遊園地へ。





瀬戸海里に出会った北の五人は驚く。

なにせまるで何年間も絶望を味わったような憔悴感を漂わせた疲れた顔。

涙の痕が残った頬に、無気力なまでの声。


「…来ちゃったんだ」

「うむ。どうした海里、この光溢れる地底世界において、まるで絶望の果てを見たような顔をして」

「予感だけど…皆いなくなっちゃった感じ?」

「…そうだよ。今は僕とタマモ…麻耶くんのカメルンだけ」

「思ったより残ってたな…」


玄武明良が冷静に言い、遊園地を見回す。

遊びに来ている子供達は何も知らないまま、楽しんでいる。

そこだけを見れば普通の遊園地と変わらない。

ただし家族連れは一切いない。


「…」

「俺は太夫と悠真を連れて調査するから、早紀と美鈴がそいつの面倒見てろ」

「え!?明良くん達だけで大丈夫なの?」

「ルールさえ破らなければいいんだろう。それまでにあらゆる物を調べつくす」

「分かりました…って、それまでってもしかして…」

「ああ。俺は必ずあるルールを破る。じゃないと得られない物があるだろうからな」


ルールを破るという言葉に瀬戸海里が反応する。

その顔は怯えによって歪んでいる。

玄武明良は機嫌悪そうに舌打ちし、瀬戸海里に言う。


「いいか、忘れるな。なんでお前だけが残ったか…その意味を考えろ」


そして時永悠真と絵心太夫を引き連れて別行動へ移る。

残された猪山早紀と扇動美鈴は、いまだ落ち込んだまま瀬戸海里を連れて休憩所へ向かう。

しかし瀬戸海里は玄武明良の言葉を思い出さず、後悔の念に駆られている。

自分も一緒にいれば何かが変わったのか、いいや変わらなかっただろうと。

何度も自分の無力さと弱さに打ちのめされていた。




玄武明良はパンフレットを暗記して、一番気になった場所へと向かう。

それは展示物エリア。端っこに作られたとても小さなエリア。

図書館や歴史博物館などが集められた、遊園地には相応しくない場所。

パンフレットにおいてもとても小さく、熟読しなければ気付かなかったであろう場所だ。


「ここでの永久サービスとやらで残さなければいけなかったんだろうな」

「なるほど生きるとは歴史であり、歴史とは生きた証という裏表による人間の性が生み出した…」

「ここに何かありそうな予感が?」

「なかったらこんな施設は作らん。全く…他の奴等は気付かなかったのか」


玄武明良は溜息つきつつ、まずは歴史博物館へと入っていく。

ガラスケースによって飾られているのは、地底人たちの歴史。

派手な事件や戦争はないが、技術革新による地底を掘り進めた歴史などが飾られている。

いかに体の構造が変化し、掘り進める道具の軽量化や効率化がなされてきたか。

食事文化の変化や地上との交流や情報収集など、地底人の生活水準も飾られている。

玄武明良はそれらを全て時間をかけて眺め、覚えていく。


「地底人も色々あったんだねぇ…こっちじゃ病気の歴史と医療の発展とか…」

「ここでは宝物展らしいが…宝石など一切ないな。オリハルコンによる美術品か…」


時永悠真や絵心太夫も興味深そうに見ている。

玄武明良はあらゆる情報を頭に詰め込みつつ、推測を固めていく。

天才と言われてきた、自分自身に言い聞かせてきた。

だから玄武明良はその言葉を裏切らない結果を出そうと、見逃しがないように隅々まで見ていく。


「…太夫くん、海里くんのこと、どう思う?」

「そうだな…一人残された重圧に押し潰されそうになっている…本来なら主人公である俺に相応しい場面だな」

「ああ、うん。後半以外は同意できるけど…」

「だからこそ不安だな。海里は決して主人公と言える立場じゃない…心優しい友人キャラだから、潰されるフラグもあるというわけだな」


絵心太夫のよく分からない分析に、時永悠真は曖昧な笑顔で頷く。

時永悠真自身も同じことを感じているわけだが、絵心太夫の言葉だと少し同意しにくいのだ。

決して悪いわけでも間違ったことを言っているわけではないのに、何かが違うのだ。

しかし最近では慣れてきたのでそこら辺はスルー出来るようになってきた。


「ボスのルール破り発言…もしかしたらあれの予感がするんだよね」

「その時はその時だろう。俺達は手足ではなく仲間だ。時には見捨て、時には助ければいい」

「…太夫くんって本当に、たまーに、カッコいいようで違う言葉言うよね」

「主人公だからな。今流行りの早すぎる中二病患者にして、ヒーローだ」

<英雄と書いてヒーローだな>

<その案は却下。ヒーローと書いて大馬鹿者だろう、お前らは>


今まで黙っていた鹿のアンドールであるタイラノが一言挟む。

そして同じく黙っていた梟のアンドールであるロロが、訂正を求める。

しかし絵心太夫とタイラノはその言葉をスルーし、他の展示物に行く。

時永悠真は苦笑いしつつ、置いて行かれないようについていく。

そして三人で博物館のあらゆるコーナーを熟知した。


「充実した時間だったな」

「…はっ!?俺はもしかしたら今世紀の大発見をしたかもしれない!!」

「はいはい。大体分かるけど何?」





「ボスが引き籠ってない…だと…」





その言葉に思わず時永悠真も玄武明良の方を見てしまう。

当の本人である玄武明良はあからさまに、機嫌をさらに悪くした顔をしている。

現在玄武明良は北の自宅から自分の意思で出て、そして遊園地を自分の意思で歩き回っている。

それこそ普段と比べたら生き生きとした行動である。


「うう…早紀ちゃんの努力が実ったんだねぇ」

「うむ。これでボスが北の頭として偉大な一歩を…」


二人の会話を強制的に終わらせるため、両の拳を頭に叩き込む。

もちろん手加減している、軽いどつきあい程度の威力である。

なのでロボット達も見逃している。その様子を横目で玄武明良は確認する。


「…次は図書館だ、馬鹿共」

「は、はい…」

「体力ない割にこういうところでは変に強いのがボスたる由縁なのだろうが…」




休憩所では瀬戸海里を励ます会と言わんばかりに、猪山早紀と扇動美鈴が奮闘していた。

しかし全く態度は変わらず、暗い顔のまま聞き流しているように見える。


「…それにしても律音さんがルール破るなんて…」

「でもそうじゃなかったら、自分達は知ること出来なかったね…」

「…」


二人は瀬戸海里のデバイスに残された音声データを聞いた。

そこには地底人の秘密が隠されている。しかし秘密はまだ残っている。

扇動美鈴は少し渋い顔をして、小さく呟く。


「確かにこれは…ルールを破らなくては…分からないこと多いかもしれません」

「…駄目だよ…ルール破ったらお仕置きされる…」

「海里くん?」

「僕…探したんだ…麻耶くん達のこと…お仕置きの痕跡を…」


籠鳥那岐のように壁に顔を残しているんじゃないかと。

あの時は顔を触っても平気だった。なんとかなるだろうと思っていた。

人数も増えて、情報を集めて他のメンバーを待っていればいいと思っていた。

しかし一人になった不安で探し出した。そして見つけてしまった。


相川聡史が水に溺れている、Aルームの注意喚起ポスターの写真に。

鞍馬蓮実によく似た、お菓子人形がSルームで飾られていた。

錦山善彦の似非関西弁によるJルームの和歌朗読音声。

袋桐麻耶による罵声の応える音声がLルームで真似していけない音声として。

凛道都子が来ていた服と同じ服が、Iルームに。

筋金太郎と同じ体格でよく似た顔の、Fルームの案山子人形。

葛西神楽が持っていたお守りが、Uルームの地底火山注意映像で溶かされているところ。

仁寅律音がYルームで思い出し過ぎるとどうなるかという、発狂しているような叫び声の注意音声。


本人という証拠はどこにもない。

でも本人ではないという証拠もない、よく知っている友達の片鱗。

見つけてしまった瀬戸海里は、歩くのすら億劫になってしまった。


「…皆がいるから大丈夫…なんて間違ってたんだ」

「海里さん?」

「クラリスのことで気持ちが大きくなってたんだ…僕達はとても弱い子供だということ…忘れていたんだ」


一つの大きな事件を解決して、自分には力があると錯覚する。

瀬戸海里はそれを悔やむ。あの事件は偶然の重なりでたまたま解決できたのだ。

そのことを忘れて浮かれて、錦山善彦にも大見得を切ってしまった。

情報を集めれば大丈夫。他にも仲間がいるから大丈夫。

全然そんなことないのに過信して、過ちを犯したのに自分だけは無事でいる。


「…ごめん…本当に…ごめんね…」


泣き出した瀬戸海里の肩を、猪山早紀は無言で抱く。

背中を優しく叩き、気持ちを落ち着かせる。

扇動美鈴はその様子を見て、黙り込む。

今は何を言っても無駄だろうと。


「…生きてて…ごめん」

「…死んだわけじゃないよ。大丈夫、大丈夫」

<そうよ坊や。生きててごめんじゃなくて、生きててよかったなのよ>


猪山早紀とフェレットのアンドールであるエルが慰める。

しかしその言葉は瀬戸海里に届かない。心は固く閉ざされて、自分自身を苛む。

瀬戸海里は自虐を止めることが出来ないほど、衰弱していた。







図書館にて、玄武明良は次々と本を速読していく。

あまりの速さに時永悠真は思わずその光景を見てしまう。

絵心太夫はなぜか絵本を読んでおり、いきなり笑い声を出していたりする。


「よし。主な書籍は読んだな」

「…一時間でこれ何十冊!?凄い分厚いのもあるのに…流し読みしてるようにしか見えなかった…」

「さすがボスだな。うむ?むむ…あははは!これは面白い」

「太夫くん、その絵本って笑うとこある予感がしないけど…」


対極的な二人の様子を見て、時永悠真はどうしようかと悩む。

すると玄武明良が本を数冊渡し、ページ数まで指定して印刷するよう指示を出す。

流し読みの中でページ数まで覚えたのかと驚くが、今更ツッコミを入れてもしょうがないと指示に従う。


「ここの本だけで新しい地層による論文が十単位で書けるな」

「ボス生き生きしてるね…さすが…」

「そうだな、あははは…これが地底人による勧善懲悪の縮図か!!」


まともなのは自分だけか、と時永悠真は溜息をつく。

しかしまともだからといって、役に立つとは限らない。

玄武明良は絵本を読み終えた絵心太夫に、絵本の要点をまとめろと指示する。

絵心太夫は了解と言い、図書館のスタッフである眼鏡をかけたドラム缶のようなロボットに紙とペンを借りる。

そのロボットは名札をつけており、シショと書かれている。

時永悠真は誰がネーミングしたんだろう、とセンスを少し疑った。


「しかしボス、太夫くんに絵本読ませてていいの?」

「甘いな、悠真。絵本とはその地域の文化を表わす書物。しかも子供にもわかりやすいながら暗喩として…」


本を読みながら玄武明良は絵本が文化形成においてどれだけの有用性を持つか説明する。

まず絵本は子供が読む大前提のもと作成される。

その中には純粋に子供を楽しませるものから、文化的な背景を受けた作品まで幅広い。

歴史的背景から作られた昔話、家族との関係性を表わす日常話、不思議な生き物を用いた想像を豊かにする幻話。


「絵本一つと侮るな。あの短く絵が多い書物の中には文化が表現されているんだ」

「…な、なるほど…」

「それにあの病人だが…性格や破天荒さなどを抜かせば…かなり有用な人材だ…悔しいがな」


渋い顔で玄武明良は憎たらしそうに言う。

というのも前に研究論文を書き進めている時に、資料が分散したことがある。

そこでたまたま来ていた絵心太夫に回収と分類わけをするように命じた。

もちろんあまり期待はしておらず、集めるだけでもできれば問題ないだろうと考えていた。

しかし絵心太夫は回収に分類、さらには付箋にて資料の要点などをまとめていた。

それらをファイルにて簡潔に分かりやすく棚にも置いた。

作業中にあまりに喋るので玄武明良は途中から無視していた。

しかし気になって振り向けば、一時間もかからずに終わらせていた。

呆気にとられ、何か不備がないかと確認しても文句が出ないほど完璧だった。


「本当に惜しい奴だ…あの性格じゃなければ助手にしていた…」

「え!?ボスがそこまで評価するって珍しいね…けど…」

「ああ。あの病人だからな…」

「太夫くんだもんねぇ…」


それは誰もが思っていること。

運動能力が良く、勘も良い上に推理力もあり、大体の依頼をこなしてしまう。

それが絵心太夫という少年である。

しかし口上が長く、訳が分からないことを口走り、一人常時暴走状態。

それもまた絵心太夫という少年の姿である。

だから誰もが思う。どんなに能力的に優れていても、性格が…と。


「ぶぇっくしぃっ!!!!…まさか地下にて眠りし者が…!?」

「…あの、あの性格ではなければっ!」

「天は二物を与えず…ってこんな感じなのかな」


悔しがる玄武明良と諦観した時永悠真の傍ら、絵心太夫はまたもや訳の分からないことを口走っていた。


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