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Act:2


このルナティアにはそれぞれに守護樹という物があり、その木を中央におき、街が広がっていた。



ある物は地上に。



ある物は連なる樹上に。



そしてこのバオバブの街は、大きく広がるその枝の下に、守られるようにして広がっていた。



LV20台から30台の活動の中心となるバオバブには、今なお多数のプレイヤー達が存在している。


今は夜ともあって、普段それぞれの狩場に出かけている者達も皆帰還し、今日の無事と、明日への希望をうたいながら夜を明かしていく。



すっかり日常となったこの世界で、皆一様に、現実のように過ごしている。




刻々と迫るタイムリミットに怯えながら。








***********







そもそもの始まりはあの日へと遡る。



あの、『最後の大型アップデート』がされた日に。



その日、世界は揺れた。



今迄意味ありげに佇んでいた、この世界の中央に存在する『機会じかけの巨木』


そこへつながるMAPの開放と、その巨木という名の塔への出入りが解禁され、その天辺にはこの世界のラスボスが待っている。



それを知り、今迄プレイしてきた人間が燃えないはずがない。




結果、その日は数多くの人が今か今かとメンテナンス終了を待ち、その終了と共に世界へ足を踏み入れた。




その時余りにも多くの人間が同時にログインしたために、障害が発生し大多数の人間がログインできなかったという。




そしてそれを潜り抜けログインできた幸運な人間……いや、『不運な人間』の一人が俺だった。






その時ログインできた人数は約1万人。






その日から、その1万人はルナティアの世界に閉じ込められる事となった。







その日のログイン場所は、全て『始まりの街』とも呼ばれるサクラの街に変更されていたようだった。



新しいキャラクターでログインした俺の周りには、様々な装備に身を固めた人達の姿。



その中にぽつんと初期装備でたっていた自分の姿はなんとも言えず……なんとなく足早にその場を離れ、初期クエストを進めようとした。



そこに現れたのが、ヤツだった。




【特級世界指名手配犯】


『梶原 透』



グローバル化が進んだ現在、ハッカーと呼ばれる人種は、その危険度を増した。


その力を用いれば、一人で世界を混乱に陥れることができる。



それを実証した人間。



それが梶原 透だった。



ヤツは2年前、アメリカのペンタゴンに侵入し、確かにミサイルの『発射ボタンを押した』のだ。



結果発射された数発のミサイルは、日本やアメリカ等の国家の力により、なんとか地上に落ちる事なく迎撃される事になる。



だがその時世界は理解した。



たった一人の人間が、気まぐれに巫山戯て大量破壊兵器(おもちゃ)のボタンを押せる世界になってしまったのだと。



その日から各国家は国防の為に、優秀なプログラマーを雇って十重二十重のファイヤーウォールを築きつつ、少しずつ兵器の量を減らしていく事に尽力し始めたのだが。




しかし、その希代のハッカーが何故、ゲームの世界に現れたのか。


余りにも有名になったために、一般の人間でさえも顔を知っているその男が現れた事で、広場は軽い混乱に陥りかけた。



しかしその答えは、その男が直接教えてくれる事になる。



大きな絶望と共に。





***********






喧騒にざわめく街並みをすり抜け、俺はホームにしている宿へと向かった。



その道中、顔見知りになったプレイヤーと挨拶を交わし、ドロップ品を売り払ったりしつつ、ようやく宿へとたどり着く。



そこ……『とまりぎ』という宿屋は、安いながらもしっかりとした作りで、ここ最近の俺の疲れを癒す拠り所となっていた。


特にこの……「おにいちゃんおかえりっ」……と言って毎度飛びついてくる、犬の耳を付けたNPCの少女の存在が大きかった。


この世界は、あの日以降より現実味を帯びるかのように、NPCキャラの動きが人間に近づいた。


こうして、常連客の顔と名前を覚え、親しみを込めたやりとりができるように成る程に。


「おしおし……元気にしてたかー?」


「もちろん!いっぱいおてつだいもしたんだよー!」


えっへんと胸を大きくそらすその少女は、この宿の主人の娘……という設定だ。


毎日朝食ができると部屋へ起こしにきてくれ、夜帰るとこうして出迎えてくれる。


このやりとりが嬉しくて、レベルが上がってもここへ通い続ける常連客もいる程だ。



擦り切れた心には、こんな優しさが痛い程しみるもので……。





決して俺にはアレな趣味がある訳ではないと明言しておこう。




他の人間は知らないけれども。






いつものやりとりを終え、自室に戻ったおれは、ゴロンとベットの上に身を投げ出した。




もう一年か……。



さっき時刻を見た時にでた日付。




それは、あの日から1年経つ事を明確に表示していた。







***********






『やぁやぁ皆さんハジメマシテ。新しいルナティアの世界にようこそ!』



膨大な数……といっても、実際の総プレイヤー数からみれば、ごくごく一部の人間だけが集まったその場所に現れたその男は、容姿に見合うおちゃらけた雰囲気のまま一方的に話し始めた。



『特に選んだってワケでもないけど、きっと今ここにいるミナサマはこの【ルナティア】のトッププレイヤー達だって信じてるよ。

運も実力のうちって言うしネ?


僕の名前は知ってるカナー?


知らない人もいるかもしれないし、自己紹介もしとかなくちゃね。


僕は世界中の人に顔を知られてるって思ってるほどアレな性格じゃないしー。



……ゴホン。



僕の名前は『梶原 透』。


現状このルナティアの世界の管理者で、絶対不可侵のカミサマってところかなー?



おやおや?随分と不服そうだね。


そんな君達は僕の事少しは知ってるって思っていいのカナ?


それなら話は早いかなー。


うん、つまり、この世界は僕、『梶原透』が乗っ取っちゃいましたー!』



「う……うそだろ……」



ざわつく周囲の反応に気を良くした男は、そのなかの一つの問いかけに意気揚々と答えた。


『うそじゃないよ。

現にほら、皆でシステム開いて見てみなよ?



どこにも【ログアウト】なんてところは見つからないだろ?』



ゾクッと背中を悪寒が走った。


嫌な汗をかきながら、以前と変わらぬ操作でウインドウを開いた俺は、その中から必死に【ログアウト】と書いてある場所を探し……。




----見つからない。



俺と同じ操作の果てに同じ結論に至った者達が、順々に諦めの吐息……もしくは怒り……嘆き……様々な感情をあらわにしていく。



それでも信じられない人間はなお様々なデータを開き続け……。


『はいストーップ!


そんだけしらべりゃ十分でしょ?


それでも探したい人は話が終わってからにしてネー。


兎にも角にも、君達は残念ながら巻き込まれてしまったワケだ。


僕と、警察のおいかけっこに』



そこからの説明はどうにも理解し難いものだった。




結局の所理解できた部分で話を構築すると、彼を捕まえる事ができなかった警察は彼の好きなゲームによる決着を誘い、その誘いに乗った彼はこの【ルナティア】をその舞台に選んだ。


彼はその技術によってログイン可能者を1万人に絞り、その幸運にも(?)ログインできた人間達が、自分の定めた期間内に己のいる場所まで到達できたら、大人しく捕まる事にしたようだった。



「な……なんだそりゃァ!俺ちゃ無関係だろ!?なんでそんなのに巻き込まれなきゃいけねェんだよォ!」



俺たち全ての人間の心情を肩代わりした声が響き渡る。


その声に同調した人間が一人、また一人と声を上げ……。






『煩いな』






その一声で途切れた。



その不自然さに驚き声のしていた方向をよく見ると、声を出していた人物らしき男が、恐怖を顔に張り付かせたまま喉を抑えていた。


どうやらその近くの数人の男女も同じような格好をしていて……。



『君等は話が終わるまで発言禁止な。

こっからが大事な所なんだ。




邪魔するなら殺すよ?』



その冷徹な声音に背筋が震える。


同じ感想を抱いたのか静まり返った周囲の反応に気を良くした梶原は、満足気に頷くと話を再開した。


『うん、そうそう。


あんまり騒いでこの時点で退場とかバカな事はしたくないでしょー?



んじゃ、説明の続きね。



今この世界は世間の3倍の速度の時間が流れている。


その中で、現実世界の1年分……この世界での3年の間に、あの『塔』の頂上にいる僕の所に誰か一人でも辿り着けたら、皆を開放してあげる。


ただし、期間中に誰も来れなかったら……』



バーン!


自分の右手の親指と人差し指を直角に伸ばした「銃」の仕草で頭を撃ち抜いたふりをした梶原は、戯けた口調で言った。


『この世界は、皆を巻き添えにした上で崩壊しまーす!』


その荒唐無稽さにまたも一瞬思考が追いつかなくなり……追いつくなり、全身から嫌な汗がふきだした。


『他の詳しいルールは新しく作った【サバイバルルール】ってのに載ってるから、各自確認しておいてねー。


結構大事な事がいっぱい載ってるから見ておいた方がいいヨ?



タイムアウトの前に死にたく無かったらねー?



それでは!諸君の健闘を祈る!


バイバーイ』




その言葉を最後に、ヤツは姿を消した。



俺達に絶望と恐怖と、ひとかけらだけの希望を残して。






***********






その後は混乱の極致と言えるものだろう。


泣きわめくもの、狂ったように笑出すもの、ただただ某然とするもの。


俺もその中の一人だった。


色々と早過ぎる展開について行けず、頭の中を整理する事しかできなかった。



そんな中、一人の騎士が高らかに宣言する事によって周囲の騒ぎは徐々に収まっていった。



「ここでただ座って助けを待つ事もできる。

だが、この世界の時間の流れは外の3倍とヤツは言った。


実際に救助がくるかどうかすら解らないが、どんなに早くても1週間。

それ以上かかる事だってあるだろう。


その間ずっとここで固まっていても仕方ない。


あいつはあの塔の最上階にいると言った。


そしてあいつの所に一人でも辿り着けば解放するとも。




俺は今からあの塔を攻略しにいく。


他に誰か一緒に行くヤツはいないかっ!?」



全員が全員頷いた訳ではなかった。


戦闘系ビルドではなく、鍛冶や裁縫等生産系と言われる者達も数多くいたからだ。


同じ戦闘系でも座して待つ事を選んだ人間も少なくない。



結果、その場にいた人間のうち、3割程度の人間が彼と共に塔の攻略に乗り出して行った。



そして残ったうちの生産系の職についていた人達の内、約半数が、彼等の探索を助けるといって後を追って行く事になる。



そして残った人間……全体の4割程度の人間がその場に残った。


彼等の内のほぼ8割が、レベルが足りずに攻略に乗り出せないものか、バックアップをする決断をしきれなかった者達。




俺も、この中の一人だった。






知識はついていけても実際のレベルがついていけない。


なにせレベル1。


作られたばかりの俺の体に装備されているのは【初期服】と呼ばれる簡易なチュニックとグローブのみ。


俺の所持品(イベントリ)の中にも初心者用ポーション等の初心者用のお助けアイテム位しか……そう思って開いた所持品一覧。



その中に、見覚えの無い一冊の本が入っていた。





【サバイバルルール】




そう明記されたアイテムを取り出し具現化すると、ひとりでにページがめくれ始めた。



そして現れた所。



そこには、ある驚愕の事実が書かれていた。

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