プロローグ
この作品は完全オリジナルです。
他作者の作品や現実の人物、地名等とは一切関わりがありません。
尚、一部の有名作品に影響を受けるところがあるかもしれませんが、そこは華麗にスルーを決めていただけると有難いです。
その日、世界は暗闇に包まれた。
実際の見た目が変わった訳ではない。
天空からは変わらず陽光が降り注ぎ……
穏やかな風が流れ……
人々の暮らしは続いていた……
しかし。
そこにいた人々の心には、逃れられぬ程の深い闇が、確かに巣食っていた。
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俺はその日、この悪夢のような生活が始まった日、たった一つの取り返しの付かない行動をしてしまった。
明らかな失敗。
見境の無い衝動に突き動かされた末の暴走。
しかし、そのおかげで今、俺はここにいる。
LV1の拳闘士として。
その日は、この世界の最大最後のお祭騒ぎになるはずだった。
いや……実際にはなったのだろう。
但し、それは考えていた方向とは別な形でだろうが。
その日は、この【ルナティア】で最大にして最後の“アップデート”が行われる予定だった。
2035年現在、有り触れた技術となったVRを使用したゲーム。
その中でも初期に作られ、今尚根強い人気を誇るゲーム。
内容としてはある意味有り触れたもの。
ファンタジーな世界に、オリジナルの要素を少し混ぜた、そんな程度のものだった。
ルナティアが出た当初もそれなりに賑わってはいたが、初めに出た物程ではなく、このゲームもいつかは記憶と共に消えて行ってしまう様な物だろうと、多くのゲーマー達は考えていた様だ。
しかし、そんな予想に反して【ルナティア】は生き残り続けた。
幾度ものアップデートを重ね、新技術が出てはその都度適応パッチを追加し、いつしかこのゲームは『ネトゲで最も続いたゲーム』として知られる様になった。
しかし、そんなルナティアにも終わりは訪れる。
だが、ただ終わらせるのは嫌だ。
そんな運営の気持ちが現れたかの様に、その告知がなされた。
曰く----
『「次回アップデート内容をつたえるぴょん!
遂に現れた最後のフィールド。
そして最後のダンジョン!
ルナティアの世界を苦しめ続けた元凶が住まう塔への道程が遂に開かれる⁉
『月への道程』を期待して待ってるぴょん!」
※このアップデートが、当ゲーム【ルナティア】の最後の大型アップデートとなります。
15年の永きに渡りお付き合いいただきましたこと、誠に有難うございました。
尚、当該グランドクエストがクリアされた時点で、一旦の“ゲームクリア”とさせて頂き、それ以降は新ダンジョンへの立ち入りが出来なくなります。
【ルナティア】最後のアップデートを、思う存分お楽しみください』
その告知がなされた直後、ネットでは多くの反響が巻き起こった。
今ではゲームをしている人間で知らぬ者はいないという程の有名なゲーム。
それの《名実共にクリア方法が出来る》。
それがどれだけ大きな意味を持つ事か。
それがクリアされてしまえば、このゲームは終わりを告げるだろう。
ネットゲームの面白さは、『他人とコミュニケーションを取りながら進めていく』事と、『徐々に明かされていくおわらない物語』の二つが、最大の楽しみと言っても過言ではないだろう。
家で一人でコンシューマ機を相手にやるよりも、生身の人間と共に四苦八苦しながら進めていく方がはるかに面白い。
そして、誰も知らない、見た事がない世界へ仲間と共に立ち入り、少しずつゆっくりと謎を解き明かし、全てが終わった後は次のアップデートへ向けてひたすら自己の強化に邁進する。
勿論趣味やネタに走る人間も多いが、大多数は『決してクリアされる事の無いゲームをクリアする』事に意味を見出す。
当然次々とアップデートをしていきさえすれば終わる事など無いのがネットゲームの世界。
ある意味クリアされる瞬間があるとすれば、それは“ゲームが終わる時”しかあり得ない。
そしてそれは大抵にして、人気のなくなったゲームがひっそりと、そのサービスを終了する日がクリアの日となってしまうだろう。
大抵の人間はその前に、他のゲームへと移ってしまう。
だが、この【ルナティア】は違った。
自らその『クリア方法を作った』のだ。
未だ衰えを知らぬ人気ゲームが、その只中でクリア方法を提示する。
その特殊さに、ある者は呆れ、ある者は狂喜し、しかし一様に、その日を待った。
そして、その日はやってきた。
この、悪夢の始まりの日が。
現在メインで書いている【蒼穹の竜騎士】の合間に書いていこうと思っていますので、更新はかなり遅めになるかと思います。
どうか長い目で応援していただけると有難いです。