8、行動開始
至福の一服タイムを終えた俺に、いつまでも喫煙所のベンチでマンウォッチングする余裕などない。知加子の休みが今日と明日の二日だけなので、無駄な時間を過ごす事ができなかったのだ――。
今回の旅は、ただ東京を満喫するというよりも“友人との交流”にウエイトを置いている。
滞在日程は三泊四日の予定で、仕事の方はもともとの休み(連休)に二日プラスしてもらっていた。俺のスケジュールでは今日明日は知加子と、三日目は大学時代の親友と会う予定を立てており、時間的にあまり余裕を持った行動は取れなかったりする。
今日はブラブラしながら適当に観光、予定ではオールで遊ぶ事になっている。
俺は東京の地理に疎いので、タイムスケジュールの方は知加子にすべてを託しており、この事は知加子の了承を得ている……気分はさながらツアーの観光客だ。
だからといって、あまりマイペースに行動して彼女のリードを乱してはならない。たとえ予定より早く会ったとしても、だ。特に俺は、相手にイニシアチブを与えるとすべてを任せっきりにする習性があるので、あまり和んでいるとまったりモードに入ってしまう恐れがある。今回の場合、それは許されない。
「――んでは、そろそろ行きますか!」
俺は勢いよく立ち上がり、まったりモードからの脱却を図る。これから遊び回るのだから、テンションを上げていかなければ!
「ヒロ、ご飯は? まだ何も食べてないでしょ?」
知加子はバッグからガイドブックらしき小冊子を取り出すとパラパラとめくりはじめた。
今は少し中途半端な時間帯だ。昼メシを食ったなら、まだお腹は空かないだろう。無理に俺に合わせる必要なんてない。
「そういうチカはメシ食ったのか? 腹減ってないならまだいいぞ?」
今はそんなにお腹が空いてるわけでもないので彼女の腹具合に合わせよう。
「今日は朝しか食べてないよ。近くに軽く食べられるトコあるし、せっかくだから何か食べようよ」
どうやら俺がメシ抜きである事を予想していた様だ。さすがは俺の行動パターンを知り尽くしているだけあってそこら辺のところは抜かりない。俺のメシ抜きをしっかり想定している。
「……んじゃ、そうしよっか」
「そうしよう! すぐ近くにお店あるから、そこで軽く食べよ〜」
知加子はそう言うと俺の手を取って、人酔いしそうなくらいの人混みをかき分けて行く。
……はっきり言って人の多さに周りの建物を見る余裕なんてない。よそ見しようものなら衝突してしまう。
(ホント、都会は違うなぁ……)
俺は当たらない様、かわしながら知加子について行く。もし手を握ってくれなければ人混みに流されそうだ。
地元では考えられない。一応、俺の住むところも政令指定都市なんだが……都会レベルが違いすぎる。
そんな事を思いながら俺と知加子は、一軒の店の中に入って行った――。




