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7、感動の再会?

 

 高速バス運行時刻表によれば、俺の住む杜の都から花の都・大東京までの所要時間は5時間半となっている。つまり、9時に出発したバスは14時半に到着する事になるわけだ。しかし交通状況が良かったのか、バスは予定よりも30分早い到着……バスを降りた俺は、とりあえず車庫だか倉庫だかわからない乗降スペースから待合い所に向かい、そこで知加子が来るのを待つ事にした――。


 待合い所はかなり狭いうえにたくさんの人が出迎えに訪れている。所狭しと立ち並ぶ人の群れに俺は思わずゲンナリした。

 (……なんなんだ、この人集りは……)

 人酔いしそうなくらいの人口密度。人の行き来が激しいこの場に留まるのは非常に困難であると思われる。知加子が来るまでの間、やる気ゲージ“青”の状態でこの人混みの中に佇むのは精神的に危険すぎる!

 ここは、外に出て対策を練た方が安全だ。ついでにニコチン補充もしておこう。

 俺は一服つけようと荷物を抱え、人の群れをかき分ける様にまっすぐ出口へ進んだ。

 「――ヒロ!」

 待合い所を出ようと人の隙間をすり抜ける俺の耳に飛び込む声。

 「ヒ〜ロ〜!!」

 ……どこかで聞いた事がある声だ。もしや、知加子か?

 まだ待ち合わせの時間まで30分近くあるのに、すでにこの過酷な環境に同化してたのか?

 振り返って見る。しかし、人がいっぱいで誰が誰だかわからない。俺を発見したのだから、視界には入っているはずなんだが……。

 俺は人混みに紛れた知加子を懸命に探す。

 「ここだよ」

 声のした方向を見ると、ベンチに座って手を振る知加子の姿があった。

 二年の月日は、人を変化させるには十分だ。久しぶりに再会した知加子を見て俺は、懐かしい気持ちとともに綺麗になった彼女に何故か寂しくなった。どうしてだろう?

 「久しぶりだね。元気だった?」

 そう言ってベンチから立って俺を出迎える知加子。

 想像したよりも雰囲気が大人びている。俺も年を取るわけだな。

 「オッス」

 「オ〜ッス!」

 笑顔は以前と変わらない。

 ああ、知加子だ……俺は少しだけ安堵する。変わらないモノが、そこにはあったのだろう。変な話だが、彼女の笑顔にホッとする自分がいた。

 「……ずいぶんと早く来たなぁ。ヒマだったのか?」

 人をかき分ける様に歩きながら疑問を口にする。まぁ、早いに越した事はないのだが、久しぶりという事もあり何から話していいかわからずにヒネリのない話題にしてしまう。

 「……なんとなく、ね。早く会えてよかったよ。これからどうする? お腹空いてない?」

 知加子は人混みをうまく避けながら答える。しかもいつの間にか俺の手を取っている。そして半ば引っ張られる様に出口へ――。


 ……外もたいして変わらなかった。見渡す限り人の群れ。日曜日だからか?

 知加子のリードで駅裏にある喫煙所に辿り着いた俺は、空いているベンチに腰掛けて一息ついた。

 「……ヒロ、禁煙辛かったでしょ? ちょっと休憩してから行こ」

 さすがは元相方。俺の事をよく知っている。正直、メンタルダメージが大きかったのでここで喫煙できるのは俺的にかなりのヒーリング効果を生む。

 ポケットから煙草とライターを取り出しニコチンタイムへ突入!

 「……ふぅ、生き返った気分だ……」

 苛立ちと禁煙と渋滞のトリプルパンチでノックアウト寸前だったが、禁煙地獄からの生還に俺のやる気ゲージは一気に2ランク回復する。

 「ヒロ、久しぶりだね。元気そうでよかったよ」

 隣で感慨深げに目を細める知加子。煙草を嗜む俺に昔の記憶が甦ったのか?

 「お前も元気そうだな。もうすっかり都会の人って感じだわ」

 あの頃と比べるのは間違いかもしれないが、ずいぶんとアカ抜けている。大人らしくなったっていうか色気があるっていうか……そうそう、大人の女って雰囲気を醸し出しているのだ。

 「そんなに変わって見える? でも、中身はあんまし変わってなかったりするんだよ〜」

 あの頃と変わらない笑顔で謙遜する。

 でもやっぱり変わって見える。それはきっと、いろんな経験をしてきたからに違いない。

 あの頃とはもう違う。お互いに別の人生を歩んでいるんだ……少し寂しい気もするが、二人が再び同じ“場所”で交わる事はもう無い。そう思うとあっさり別れた事に後悔の念が生じる。

 「そうか? すごく綺麗になってるよ。いやぁ、俺ももったいない事したなぁ……逃がした魚は大きかったわ」

 口に出してはいけなかったかもしれない。今さらこんな事を言って過去を蒸し返す事なんて無いのだ。

 案の定、知加子は少し複雑な表情になる。

 「……冗談でも、そんな事言っちゃダメだよ。ヒロ、彼女いるんでしょ? 元カノに未練あります、みたいなセリフ聞いたら彼女悲しむよ……」

 少し責める口調で俺の失言を諫める。お互いに割り切っていたのだから後悔してはいけない。知加子の目はそう言っている様に見えた。

 「悪かった。これじゃあ、まるで浮気しに来たみたいに聞こえるよな? 今の言葉は取り消すよ。すまん!」

 久しぶりの再会に、懐かしさに俺の心は惑わされていた様だ。少し頭を冷やせ、俺!

 「……ヒロ、そんなに謝らなくていいよ。それに謝る相手が違うでしょ? 懐かしさから思わず出た言葉ってくらいわかってるから、私は別に気にしてないよ……」

 知加子はそう言って俺の失態を許す。

 いかんな、懐かしさが先立ってしまっう。あの頃に戻ったみたいな感覚がするぞ。

 危うく今回の旅の目的から外れそうになり、俺は苦笑いする他なかった……。




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