表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

45、旅の終わり

 

 緩やかな風が冬の色に彩りを添える。

 降り注ぐ太陽の光さえもその色を染めかえす事が出来ず、冬将軍の静かなる猛威を許していた。

 「――それにしてもさぁ、今回はホント来てよかったと思うわ……」

 携帯用灰皿に揉み消した煙草を入れて俺は誰に言うわけでもなく言葉を漏らした。

 「……なんだ、改まって?」

 緒方は吸いかけの煙草を揉み消しながら怪訝な表情で問い返す。

 「いや、なんて言うか……いろいろ考える事あったなぁ、って思ったわけよ。今までさ、あんまり物事を深く考えてなかった、ってね……」

 振り返ってみると俺は物事を短絡的に考えていたと思う。それに独りよがりな部分もあった、と。

 今までは、独断と偏見を掲げ、独自の発想を大事にしてきた自分。しかし、それだけでは意志の疎通がうまくいかない事を痛感した。

 知加子が何を考え、何を思い俺と会ったのか。俺にはその心がまったく読めないでいる。つまり、知加子の身になって考えていなかったのだ。

 緒方と再会してその事に気付いた。

 行動や言動の裏側に秘められた思い。

 緒方ならこう思っているだろう、と自然に理解できるのに知加子の思っている事が本当の意味で理解できなかった。

 きっと寂しい思いをさせただろう。そう思うと心苦しかったが、今まで気付かなかったこの事を今回知れてよかったと思う。

 何故なら、もし次に会う機会があったら、その時はきっとわかり合えると思うから。

 ほんの少しだけ、成長できたかな。そう思うと自然に笑みがこぼれた。

 「……なんて言うの、またひとつ大人になったってやつかな……」

 二本目の煙草に火を点けながら俺は緒方の肩を叩いた。

 「訳わかんねぇ……でも、やっと本来のお前らしくなってよかったよ」

 そう言って緒方は笑みを浮かべる。

 「――まぁ、俺から言わせれば、大樹はまだまだ子供だと思うけどな。いや、まだまだ若い、の間違いだ。あはははっ――」

 「あ、そうかもな」

 その的を射たつっこみがおかしくて二人して声を立てて笑った……。



 ――手を振る緒方。窓からそれに応え、手を上げる俺。

 待ちわびたバスが到着したのは、あれから二時間後の事だった。やはり年のせいか、長時間冬空の下に居られなかった俺達はすぐに待合い所に戻り缶コーヒーで暖をとった。

 それから俺達はいつもの様に他愛もないネタで盛り上がり、ちょっとした漫才を繰り広げたりしてバスが来るまでの時間を過ごす。

 あれだけ退屈だったのが嘘の様に時は過ぎ、今こうしてバスの座席に腰を下ろしている。


 ――オフィス街の高層ビル。忙しなく道行く人々。混雑する道路。

 車内にいると日差しが暑く感じられる。窓越しにゆっくりと流れる景色を眺めながら長い様で短かった日々を思う。

 進むにつれ景色の移り変わりが早くなっていき、それが旅の終焉を引き立たせる。

 (……これから忙しくなるなぁ……)

 明日からまた仕事だ。年末に向けて激闘の日々が始まる。それこそ、年明けまで休み返上で働き詰めのバトルに臨むのだ。

 しかし、今回の旅はいろいろあったが良いリフレッシュ休暇になったと思う。故に年末年始の激闘もなんとかこなせるだろう……。


 『今バスで高速に乗ったよ。夜には部屋に着くと思う。明日から年末商戦だ!だが、良いリフレッシュ休暇となった今回の旅は俺の心に元気をくれた。これから年明けまであまり会えなくなるけど、お互いに頑張っていこーな!んじゃ、また連絡するわ』


 高速道路に乗った俺は海月にメールを送った。相変わらずよくわからない文章だなぁ、と思いつつ俺らしくていいやと細く笑む。

 あと5時間もすれば家に着く。今日はゆっくり休んで明日に備えよう。

 いや、待てよ。

 きっと海月が家に来る。今日は休めそうにないかもしれない。

 それでもいいか。今のうちに休んでおけば問題ないだろう……。


 「――本日は〜、東北特急バス〜、ムラマサ号にご乗車いただきまして〜、ま〜ことに〜、ありがとうございます……」

 思わず拍子抜けしそうになるアナウンスに目覚める。

 グッスリ爆睡モードで気分爽快・体力も回復した俺は、伸びをして固くなった体をほぐし到着まで見慣れた街の景色をボンヤリと眺めた。

 東京とは比べものにならないが、ここの渋滞もかなり精神的にくる。しかし、それも今はあまり気にならなかった。


 ――ネオンの明かりが夕暮れの街を彩り、行き交う人の群れが賑わいを与える。

 寒空の下、夜の訪れを感じながら俺は煙草をくわえ身を縮め歩く。

 早く海月に会いたいな。もうすぐ家に着くと思うと何故か無性に海月に会いたくなった。

 はやる心が俺の背中を押す。だからなのか、足取りも軽く気分も良い。

 今夜は緒方とのバカ話で盛り上がろうかな。そんな事を考えながら俺は家路に着いた……。



 ――旅は、自分を見つめ直す機会を与えてくれるもの。

 見慣れぬ景色、見知らぬ人々、そして懐かしき面々……そのすべてが物言わず自分に“何か”を問いかける。

 形はどうあれ、旅はどこか心を癒してくれる――。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ