44、内で虚しく外で凍える
バスターミナルに到着した俺達。しかし、場所を把握していなかった俺は出発時間を誤り、なおかつ緒方の迅速ナビにより予定の時刻よりも早く着いてしまった。
ちなみに一本前のバスすら来ていない。はっきり言って早すぎである……。
――バス乗降所は地下にある。といっても“バスターミナルビル”の中で地下というだけで実際はすぐ外は道路になっている。ただ単にビルの入り口が二階部分にあるからそうなったに過ぎない。
だが、その仕組みを知らなかった俺ははじめ案内を見て迷いそうになったりする。ここで迷子は恥ずかし過ぎる。
上は完全にオフィスビルの装いを呈している。一階に土産物の売店がいくつか並んでいたが、違和感ありまくりでとても買う気にはならない。周りは皆スーツ姿だから尚更だった。
地下はバス乗降所があるだけで売店の類は一切ない。しかも喫煙スペースも無く、こんなにいらないと言わんばかりのジュースの自販機が所狭しと並んでいるだけのものだった。
ベンチで缶コーヒーを飲みながらひたすら待つ。
さすがに高速バスを利用する人しか来ないだけあって辺りは閑散としている。時折、従業員らしき人の姿がチラホラ見えるだけだ。
「――誰もいないなぁ。ここはホントに東京か? どれだけ閑散としてんだぁ?」
あまりの暇さ加減に俺は悪意の無い愚痴をこぼす。
無論、緒方が悪いわけでは無い。無いのだが、愚痴をこぼさずにはいられない。
「大樹、そんなに愚痴るなって。たまにゃあ、こうやって黄昏るのもいいだろ? この忙しない人生の中で、こうしてゆっくりとした時間を過ごす機会なんて滅多に無い事だぞ? もっとこう……大らかな気持ちになってだなぁ――」
悪びれる様子も無く緒方は俺の愚痴をスルーして訳のわからない人生論を語り出す。俺はそれを受け流しベンチの背もたれに寄りかかり目を瞑った。
「……おーい、聞いてんのか〜?」
言っててバカバカしくなってきたのか、緒方は困った様な口調で虚しさを露わにする。
「……大樹、まだまだ時間あるし外行って煙草吸うべ」
「そうだなぁ、こうして黄昏んのも虚しいしな。ちょっくらモクりますかね」
そのナイスな提案を聞き入れ、俺達は飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に捨てて外で一服する事にした。
「――うう〜、やっぱ外は寒いな」
陽の光が一面を照らし、影を色濃くしているのにも関わらず外は冷える。
眩しい日差しに目を細め、寒さに身を縮こませる俺。このまま縮みっぱなしじゃ、煙草もロクに吸えないぞ。
バッドステータス『寒さ×』を所有している身としては、この寒さがやる気ゲージを著しく損ねる。
「確かに寒いな。こんなに天気いいのに、冷え方はハンパじゃないな……」
俺よりは寒いに強い緒方も体を揺すりながら同調した。
ここに来る時はあまり気にしていなかったが、今日の冷え込みは『寒さ×』の身には堪える。
早くバス来ないかなぁ。
紫煙漂う煙草をくわえながら俺は進まぬ時の流れにため息を漏らした。




