43、善は急げ?急がば回れ!
冬の朝は寒い。
一昨日の影響から昨夜は飲む量をセーブ、緒方と思い出話に花を咲かせ最後の夜を有意義に過ごした。
それは、飲むよりも食べる方をメインにしたからに他ならない。もしこれで一昨日のテンションで飲んでいたら……俺はいまだに夢の中にいただろう。昨夜は頃合いを見て早めに切り上げたので、飲んだ翌日にしては目覚めの良い朝を迎える事ができた。
しかし、場所は違えどこの寒さは変わらない。冬だから寒いのは当然なのだが軟弱な身にはやはり堪えるものである。
身が引き締まる様な冷え込みがアルコール漬けになった頭を鮮明にしてくれる。だが、寒くて目が覚めるというのは慣れないものだ。
このまま目覚めなかったらどうするんだ?
そんな意味の無い疑問が頭に浮かぶほど、俺は冬の朝が苦手だった……。
――目覚めの冷水で頭をスッキリさせ、舌が火傷しそうなほどホットなモーニングコーヒーで一日の始まりを迎える。
まだアルコール度数の高い体に煙草は禁物。さすがに目眩を起こしそうなので今朝に限って“目覚めの一服”は自主規制する。
ちょっと健康的だなぁ、と自画自賛しつつ身支度を整え、出発の時を静かに待つ。
「……大樹、何時に出るんだ?」
俺とは対照的に目覚めの一服を嗜みながら程良い熱加減のカフェオレを口にする緒方。その姿からは昨日までの疲れは感じさせない。
すごい回復力だ。
俺は顔色の良い緒方の姿に心底感心した。
昨夜はともかく、一昨日あれだけ飲んだ酒が残らないんだから。俺なんかいまだに尾を引いているというのに……。
きっと緒方はステータス『酒豪』でも持っているのだろうな。
「もしなんだったらバスんトコまで見送るぞ。どうせ今日は暇だし」
緒方はそう言うと目覚めの一服を揉み消して立ち上がる。
「顔洗って来るわ」
これまた俺とは対照的に軽い足取りで洗面所へと消えて行った。
(……年、同じなのにな……)
緒方の後ろ姿に俺はちょっとした敗北感を味わった。
『これから帰る。部屋に着くのは夕方頃になると思う。ちゃんと土産も買ったしネタも揃えておいた。今日、時間があるなら夜来てくれ』
――送信、と。
我ながら実に味気ない文だなぁ、と思いつつ海月にメールを送る。
ここ数日連絡しなかったから、さぞかし心配している事だろう。まぁ、連絡できなかった事情もあったから、そこは勘弁してもらいたいものだ。
この埋め合わせは必ずするから。
俺は、心の中で海月に平謝りする。言わなければバレる事など万が一ないが、やはり後ろめたさからか良心が痛む。
海月の無邪気な笑顔を思い出すと尚更そう思えた……。
「――んじゃ、そろそろ行きますか」
体力も万全に近いくらい回復し、陽も出てなんぼか暖かくなった頃を見計らい俺達は部屋を出た。
帰りのバスは午前最後の便だ。この中途半端な時間帯はそんなに混まない。行きは空いてても帰りは混むから、一応その辺のところは計算して予約を入れておいたのだ。
都会の交通事情に疎い俺に代わって都営地下鉄のスペシャリストである緒方のナビで“より早く、より安く”目的地に向かう。
「――早いな」
想像よりも早くバスターミナルに着いてしまった俺達。
無論、俺が乗るバスはまだ来ていない。しかもその一本前のバスすら来ていなかった。
「ははは、ほら、善は急げって言うだろ? ゆっくり待とうぜ」
待合い所のベンチに座り、缶コーヒーを口にしながら緒方はしれっと言い放つ。
「いくらなんでも急ぎ過ぎだってば……」
確かに出発の声を上げたのは俺ですよ。しかし、前もって到着時刻を予想しなかったのか?
俺は思わず緒方につっこみを入れたくなった。
「まぁ、いっか。こうして緒方と無駄な時間を過ごすのも悪くない」
真心込めて皮肉を漏らす。なに、悪意のない感想ですよ。
目一杯皮肉の入った言葉でつっこみを入れ、俺もベンチに腰掛けた。
この言葉に一瞬だけバツの悪そうな表情を浮かべるも俺の心を読んだ緒方はすぐに顔を綻ばす。
いやはや、最後までネタには事欠かなかったなぁ。
そう思うと俺は自然と声を出して笑っていた……。




