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39、美酒爛々

 

 時間が経つにつれ店に客が次々と入って来る。それに伴い、店内の雰囲気は賑わいはじめた。

 最初は店内の雰囲気を涼しげな印象で見ていた俺。だが、賑わいとともに熱気じみたものが支配しはじめると薄暗い感じの照明が実に程良い加減である事に気づく。

 人の熱気は伝わりやすい。

 ひとまず飲みに徹する俺達もその熱気に不思議と影響を受けたかもしれない。何故なら、つまみとともに追加の酒を受け取った俺達は、それを一気に飲み干し早くも三杯目の注文をしていたのだから。

 ニコチンとアルコールの絶妙なコラボレーションが疲れた体に染み渡る。

 これほどの幸せがあるのか?

 そう思うほど今宵の酒は格別だった……。

 「そう言えば大樹、お前の彼女って家庭教師のバイトしてた時の教え子だったっけ? よく考えてみると俺が上京した後の話だから、俺会った事なかったよな?」

 そう言って唐揚げを頬張りグラスを傾ける緒方。店は客の入りで賑わいつつも紫煙漂う俺達の周りには誰一人いなかった。

 「そうだな、まだ紹介してなかった。んじゃ、今度帰省した時にでも紹介するよ」

 「おお、そうしてくれ」

 取り留めもない会話。つっこんだ話は控え、とりあえず美酒に酔いしれようとグラスを空ける。

 暖かいところで煙草と酒を堪能する。たったそれだけの事が今の俺達にとっては最高の癒しになっていた。

 そこに俺の浮気話を持ち込むのは下世話だ。他にも話のネタがあるのだから、わざわざ酒を不味くする事はない。

 まったりムードを漂わせながら飲む酒に舌鼓を打つ。

 アルコールで喉を潤し美味なつまみで小腹を満たす。そして、ニコチンで気分を良くしていく。

 「……お前とこうして飲むのも久しぶりだな」

 顔に赤みがかっている緒方。ジョッキ片手にいい感じになっている。まだロレツが回っているが程良く酔いが回りはじめているのが見て取れた。

 「そうだなぁ、就職してから飲みに行く機会がなかなか取れなかったからな。会ってもメシ食ってチャラっと喋って終了だったもんな」

 緒方は長期休暇の時は必ず帰省するのでほぼ毎年会っている。だが、互いの休みが合わないので会っても飲みに行く事はほとんどなかった。

 学生の頃は事ある事に飲みに行っていたのに。

 久しぶりの再会の上に久しぶりのサシ飲みだからか、今宵の酒はいつもより進む。酒自体も美味しいのだろうが、やはり気持ち的な面が酒を格別の味に仕立て上げているのだろう。そのせいか、いつもはスローペースの俺も今日はやけにペースが良かった。

 しかも酔いは回っても悪酔いしない。普段はあまり強い方じゃない俺だったが緒方と同じペースで次々と飲み干し、気が付けばもう六杯目に突入する有り様だった。

 やっぱり気の許せる友との酒が一番旨い。

 そんな訳のわからない事を思いながら、俺達はひたすら酒を流し込み紫煙を撒き散らしてはタチの悪い酔っぱらい親父と化していった――。








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