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37、待ち人現る!

 

 冬の夕暮れは暗い。もう夜といっていいくらいだ。

 寒さのせいか、時間の経つのが遅く感じる。

 駅前の木のベンチで流される人の波を眺めつつ次なる再会の主を待つ俺。携帯電話のサブ画面に目をやり五分と経たない現実にゲンナリする。

 たった数分でも、やたらと長く感じる。寒さを凌ぎつつ待ち続けるこの状況なら尚更だった。

 時は金なり。

 昔の人は偉い。まったくもってその通りだと俺はしみじみ思った。


 ……俺は待つのは嫌いじゃない。どちらかと言えば人を待たせるよりも待ってた方がいいタイプだ。

 しかし、それも時と場合による。

 特にバッドステータス『寒さ×』を持つ俺にとって、寒い中待たされるのはかなり身に堪える。

 そう、つまるところ“待つ”というよりも寒さに参ってしまいそうになっていたわけだ。

 流れる人波を眺めても気分は紛れず、ただひたすら耐える。心頭滅却すれば氷もまた暑し……ってわけにはいかないのが現実だった。


 「――よっ」

 後ろから掛け声とともに俺の肩を叩く手。振り返ってみると、そこには懐かしい顔があった。

 「おおっ、久しぶりだなぁ!」

 やっと現れた友人の顔に俺は寒さを忘れて立ち上がる。

 待ちわびた再会、それにこの寒さからの解放、様々な要因により俺は軽い興奮を覚え元気を取り戻す。

 「感動の再会に浸りたいが、ちょっと寒いな。とりあえずどっか暖かいトコに行くか。」

 そう言って手で酒を飲む動作をしながら俺の肩を叩く。

 「もちろん! それにしてもちっとも変わらんなぁ、緒方は」

 約一年ぶりの再会となる友人―緒方―は特に変わったところがなかった。まあ、時間も経っていないから当たり前の事かもしれない。

 だが、知加子と比べるとその変化の無さが何故か心地よく感じられた。

 「たった一年しか経ってないんだ、それは大樹も同じだろうが。何アホな事抜かしてんだ?」

 緒方は笑いながら歩き出す。

 たしかにそうだな。俺は緒方の言葉に頷くとその後を黙ってついて行く。

 都会の地理には疎いし、ここは緒方のホームグラウンドだ。余計な口出しなどせず案内されよう。

 「――そう言えば、昨日まで女と一緒だったんだろ? しっかり楽しんできたか?」

 颯爽と歩きながら緒方は振り返りもせずに痛いところを突いてくる。

 「まぁ、こっちに来るのが遅れるくらいだ。俺は察してるぞ」

 そう言ってニヤリといやらしい笑みを浮かべ、再び前を向き歩を進める。

 その通りなので何も言い返せない。

 緒方は知加子の事を知らない。ただ“女友達と会う”としか言っていなかったが、どうやら訳有りである事に気づいた様だ。

 「おいおい……」

 一応、軽いつっこみだけを入れる。この場合あまり意味を為さない。

 「案ずる事はない。誰にも言わん。浮気は男の甲斐性だ。」

 短く言い切り歩を速める緒方。俺もそれに続く。寒いせいか、ちょっとした小走りで繁華街に足を踏み入れる。

 ――向かう先は飲み屋だ。


 きらびやかなネオンの輝きが二人の再会を祝福してくれている様に見える。

 「――大樹、今夜はいろいろ聞かせてもらおうか。昨日までの話も含めて、な」

 居酒屋風のチェーン店の前で緒方は立ち止まるとそう言って店の中へ軽快な足取りで入って行く。

 さて、どうしたら良いものか。緒方の言葉に少し戸惑いを覚えるも俺は続いて中に入った……。








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