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31、心と体に刻む記憶

 

 ……時計を見れば、もう昼になっていた。



 心地よい気だるさと脱力に身を委ねつつ、微睡みの中を漂う知加子に目を向ける。彼女はその視線に気付き、首を少しだけ動かすと夢心地の表情で時計の針に目をやる。

 「……もう、お昼だね……」

 力無い呟きが、俺の耳にこびりつく。残り時間が少なくなっている現実を感じたからだ。

 ――不意に、散々味わい尽くしたはずの柔肌が恋しくなる。

 情事の後に欲しくなるのは珍しい。それだけ良かったのか、いつもとは違った感覚が俺の本能的な部分を大いに刺激してくれた。

 力無い体を抱き寄せて、まだ熱を帯びている肌の感触に酔いしれる。足りないわけじゃないのに、何故かこうして重なり合っていたい気分。

 別れが近いからか、少しでもその感触を記憶に刻み込んでおきたいのだろう。

 ――俺はその思いに素直に従う。

 余韻を引きずり、脱力し切った知加子を抱きかかえる。心地よい重みとともに熱い肌を感じる。彼女の腰に手を回し、絡む足を開かせて深いトコまで感じようと体を密着させた。

 「――ああっ!」

 その瞬間、知加子は短い声を上げると力無くしがみつく。その強い刺激に耐えようとするが、何度ものぼりつめていた体はいまだに感度が高く、繋がったまま動きを止めているのにも関わらず激しく体を震わせては潤んだ瞳から涙を溢れさせる。

 動くとすぐに果ててしまいそうな反応。荒い息をついては必死に耐える姿に愛おしさを感じた。

 腰に当てた手を這わせる様にしてすべり上らせ、髪を優しく撫でながら唇を合わせる。

 「――んっ……んんっ……」

 それだけも充分に満たされた。彼女の一番敏感な部分に激しい反応が起き、その熱と強さに思わず俺まで果てそうになる。

 それをグッと堪えて彼女の熱い体を強く抱き締める。こぼれる涙が俺の頬をつたう。

 「……チカ! うっ、ヤバい……」

 唇を放し、声を上げる。呼吸を整えて必死に耐えながら熱い体を包み込む。

 身動きは取れそうにない。少なくとも腰から下は動かせない。それほど強い刺激がお互いを襲っていた。

 「……あぁっ、あぁ……」

 喘ぎすらも出せないほど快感に飲み込まれていた。体の力が入らないのか、自分からは動く事もできないでいる。

 わずかに顔を上げて、目で訴えるのが精一杯。

 この快楽に溺れたい、と言いたげなその瞳に……俺は無言で応えた。



 「――結局、昨夜からやりっぱなしだったな……」

 着替えをすませた俺はベッドの縁に腰を下ろしながら、シーツにくるまる知加子に声を掛けた。

 時計の針を見れば、そろそろ部屋を出なければならない。だが、このまま彼女と別れるのはいただけない。男として最低だ。

 俺は携帯電話を取り出すと友人に少し遅れる旨を伝えた。

 「……もう少しここにいるよ。だから寝てもいいぞ。起きるまでいるから」

 耳元で囁く様に言って髪をいじる。

 優しく、慈しむ様に。

 普段の姿とは違った彼女に、わずかな刺激だけでも壊れそうな、そんな印象を覚える。

 目を閉じて気持ち良さそうに身を任せる知加子。なんともいじらしいその姿に別れる事を躊躇させるものを俺は強く感じた。








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