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30、成り行きまかせのバスタイム

 


 ――朝食を終え暇を持て余した俺は、自身の癒しとささやかな話題のタネとなるつっこみ所満載の“浜名式まったりストレッチ”を敢行する。だが、その体を張ったギャグも場を読まない知加子のしらけた眼差しにより、場を沈めたあげくに自身の癒しも台無しにされる。

 “極上のリラックスを体感できる”と近所でも評判……にはなっていないが、食後の話題を潰された上に知加子はリビングから出て行く。

 その後を追った俺は、お風呂に入ろうと服を脱ぎ下着姿になった知加子と遭遇してしまう――。



 今、俺の心のパーセンテージは『このままベッドタイムに突入したい気持ちが八割、ソフトプレイでこの場をやり過ごそうと思う気持ちが一割強、我慢・忍耐・自制の気持ちが一割以下』となっている……そう、俺のやる気ゲージはマックスなのだ。

 もちろん、この状況下では“愛しの彼女・海月”の事など頭にない。目の前の美味しい果実を貪りたい思いで頭はいっぱいだった。

 その空気を察した知加子は身構える素振りを見せるも、その表情や漂う雰囲気により説得力は皆無。

 「……チカ、風呂でするか? それともベッドでしようか?」

 遠回しに言ってもバレバレなので、俺はストレートに誘う。

 「え?」

 まさか答えを求められるとは思わなかったのだろう。知加子はその問いに一瞬答えを詰まらせる。

 とりあえず邪魔な服は脱いでしまいたい。俺は知加子がまだ答えに迷っているにも関わらず、シャツとズボンを脱ぎ出した。

 その行動を固唾を飲んで見ている。

 俺のやる気ゲージが臨界点に達している事は十分に理解できただろう。その表情は戸惑いの色に染まり、少なからず動揺している。

 攻めるのは強いが、逆に攻められると一転して脆さを露呈する……そんな彼女の性格が俺の燃え盛る情欲の炎に油を注ぐ。


 ――昨夜の情事をほとんど覚えてなく、朝の記憶しかない俺。正直なところ、知らないうちに“行為に及んだ”という事に歯がゆさを感じていた。

 記憶は無いのに事実だけが残っている。その様な曖昧な現実を受け入れられるほど、俺は素直ではない。

 どっちにしても後で罪悪感に苛まされてしまうなら、しっかりとその肌を記憶に焼き付けておきたい……そんな開き直りにも似た思いが心を支配していた――。


 後には引けない状況。互いに気分はそっちへ向いている。

 「……シャワーでも浴びるか」

 それでも態度を明らかにしない知加子に業を煮やした俺は知加子の手を取る。とっさに胸を隠そうとするが体を引っ張られたので丸見えだ。

 そのまま浴室のドアを開くと中に入る。

 「チカも全部脱いでしまえよ」

 俺はそう言ってピラミッド状態のまま維持し続ける下着を脱ぎ、開いたままのドアの向こう側へとそれを放り投げた。

 俺の積極的かつ直接的な誘いに戸惑っていた知加子だったが、俺の本気モードを見て取ると本来の状態に戻った。

 有無を言わさぬボディサインに彼女は静かに頷く。

 「……ヒロ、恥ずかしいから……あっち見てて」

 「ああ」

 俺は即答すると素早く後ろを向く。そして、目を閉じて深呼吸をして高揚してゆく心を抑える。だが、気持ちとともに体も熱くなっていった――。








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