3、出発!禁煙護送車
バスに乗り込み、長くて厳しい禁断症状との戦い、もとい長距離バスの旅に身を委ねる。さすがに東京行きだけあって、座席は窓側だけだったが全席埋まっていた。それでも空いてんなぁ、と思った俺だがよくよく考えてみればわざわざ日曜日の朝早くに東京まで高速バスを使って行くなんてあんまり考えられない。普通、当日に行くなら新幹線だろう?
そう思うと混んでいると言ってもいいのかもしれない。
……まだ恥ずかしさが残る俺は無性に周囲の視線が気になり、なかなか落ち着く事ができないでいた。
自意識過剰と思うなかれ。いかにも面白く無そうな顔つきの一人の乗客が今も冷たい眼差しを俺に向けているのだ。
朝っぱらからイチャイチャしてんなよ。
だぶん、そんな事を思いながら見てんだろうなぁ……。
海月はところかまわずベタつくクセがある。別にイチャつくのが嫌だというわけじゃないが、いい年齢の俺としてはラブラブオーラを周囲に振りまくのはさすがに恥ずかしすぎる。せめて周りに人がいない時だけにしてくれると俺的に助かるんだが……。
チラっと時計を見れば、まもなく9時になるところだ。
「――本日は〜、東北特急バス〜、ムラマサ号にご乗車いただきまして〜、ま〜ことに〜、ありがとうございます〜」
ちょっと間延びした声でアナウンスが入る。
ふざけてんのか?
運転手のアナウンスがちょっと面白かったので、俺は思わず目が点になる。
ここで笑いを取るとは……なかなかやるな、運転手!
俺のツボにジャストヒットだぞ!
心の中で密やかにガッツポーズする。俺、こういうのけっこー好きだったりするんだわ。そのせいか、俺の笑いのツボは他の人とはちょっとズレてるとよく言われる。まぁ、笑いのツボなんて人それぞれだろうけど。
そんな事を思っていると定刻より一分だけ遅れてバスは出発した。花の都・大東京までのおよそ5時間の旅が始まる。
バスは高速道路に入る前に一度だけ止まって客を拾う。そして、その先は東京まで喫煙休憩以外はノンストップ運行だ。
――バスは禁煙。喫煙者の俺としてはそれはかなり痛い!
ヘビーな俺にとって、ニコチンを摂取できないこの禁煙長距離輸送に耐えられるのか、それだけがちょっと心配である……。




