27、朝食はシンプルに
『直接来るだと?それは構わないが、一人でちゃんと来れるのか?(笑)まぁ、お前がそう言うなら連絡がくるまで俺は部屋に居るとしよう。駅に着いたらメールくれ』
俺は子供か!?
直接行く事を友人にメールで伝えたら、こんな返事が返ってきた。
しかし、前に首都来訪した際、地下鉄で登る階段を間違えて駅で迷ってしまった事があったので、バカにされても文句を言える立場にはなかった。
あの時は本気で迷子になってしまったから、実を言えば一人で移動する事にちょっとしたトラウマを抱えていたりする。
情けない話だ……。
少し屈辱を味わった俺は携帯をポケットに戻し、荷物を置いて床に転がる。まるで自分の部屋にいるかの如くリラックスする俺。
「ヒロ、簡単なのでいいでしょ?」
知加子はそんな俺に冷ややかな眼差しを向けつつコートをハンガーにかけてキッチンへ向かう。
「ああ、軽いのでいいよ」
料理も苦手だったはずなのに。やはり、時は人を変えるんだな。
そんな事を思いながらゴロゴロとくつろぐ。
――テレビはニュースしか放送していない。朝から面白い番組を期待してはいけない。
暇を持て余す俺はチャンネルを変えては同じ様なニュースを黙って見た。
「――ヒロ、起きてよ。せっかく作ってあげたのに何寝てんのよ!」
俺の頭を小突きながら知加子が文句を言う。
あまりにも暇だったので寝てしまった。
「すまんすまん。まだ疲れが取れないみたい」
頭を掻きながら謝る。中途半端に寝てしまったのでまだ頭がボーっとする。
「ホント、年寄りくさいなぁ……さ、早く食べよ」
「ああ」
力無い返事をしてテーブルに並べられた料理を見る。
トーストにスクランブル・エッグ、それにサラダとオレンジジュース……実にシンプルな朝食だ。
「へぇ〜」
テーブルを軽く叩きながら驚きの声を漏らす。もっと単純なものが出ると思っていたのでちょっと感心した。
「ちょっとぉ、何感動してるのよ? 私だって料理ぐらいするわよ。私のこと、どういう目で見てたのよ……」
頬を膨らませてむくれる知加子。その表情に俺は思わず笑ってしまう。
「ひどいなぁ」
悲しげに呟くとため息を漏らす。何気に落ち込む知加子を見て、俺はちょっと可哀想になり肩を叩いて慰めの言葉を投げかけた。
「いや、すまんかった。なんだか家庭的になったって言うか、大人の女になったって言うか……いやいや、いいお嫁さんになれるよ」
なんか支離滅裂な言い方になってしまった。だが、知加子は少し気分を良くした様だ。
「ホント? そう言ってもらえると嬉しいなぁ。ささ、早く食べちゃお」
単純な奴でよかった。素直に喜ぶ知加子に俺はやっぱり変わっていないのかな、と思いつつ彼女の手料理をいただく事にした……。




