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26、着いた先は懐かしい場所

 

 階段を降りるとちょうどよくホームに電車が到着する。それに駆け込み、つり革に捕まって混みはじめる車内で揺られる二人。まだラッシュには程遠いが、それでも座席は埋まっており“都会の朝”を体感する。

 乗った電車は都心とは逆方向に走っているのにも関わらず、各駅に停車する度に人の乗り降りが激しい。

 今でこれだ。ラッシュのピークになったら、いったいどれだけ凄まじい光景が見られるのか。想像すると見たい様な見たくない様な、そんな複雑な心境になる。

 目指す場所は知加子のお家。過去、東京で何度も会ったいるのだが、その時はいつもお泊まりやオールだったので実は一度も部屋に入った事はなかったりする。

 まだ時間帯も早い事から車内は学生の方が多い。

 つり革に捕まって参考書を読む学生の姿に、俺はどことなく違和感を覚える。完全に独断と偏見だが、都会の学生は皆チャラチャラしていると決めつけていたせいだろう。

 悲しいかな、この発想からしてすでにおじさんである。

 周りを見ると他の学生達も参考書片手に勉学に勤しんでいた。

 「……期末テストが近いんじゃないの」

 学生達に目を向けている事に気づいた知加子が合いの手を入れる。

 そうか。もう12月だもんな。

 その言葉に納得した俺は頷くと窓の外に視線を動かした。


 都営地下鉄というだけあって、車窓の景色は望むべくものはなかった。それでも新宿線はまだ良い方かもしれない。

 23区のかなり端の方の駅で俺達は下車。駅を出るとやけに寂れた下町っぽい景色が飛び込んできた。

 「ここ、前に通ったなぁ……」

 以前、都営バスでこの駅の前を通った事がある。

 目の前には小さな花壇とやけに哀愁漂う古びたバス停。以前と変わらぬ姿がそこにはあった。

 都会の匂いがまったくしない街。その都会らしからぬ雰囲気が、俺の記憶にはっきりと刻まれていた。

 「えっ? ヒロ、ここに来た事あるの?」

 俺の呟きに知加子は驚いた表情を浮かべる。観光にはまず来ないであろうこの街を知っていたのだから、知加子が驚くのも無理はない。

 俺だって友人と“下町巡りのバスツアー”を敢行しなければ、まずお目にかかる機会などなかっただろうし。

 「ありきたりな場所に行ってもつまらんだろうって友達に言われてな、“下町巡りのバスツアー”という企画を立てて友達と下町をバスで旅したんだよ。その時、ここを訪れたんだ」

 それにしても知加子の住む街だったとは。友人と知加子には何の接点も無いのに……その偶然に俺は不思議な気持ちになった。

 「ふ〜ん、相変わらず下らない事してるんだ」

 少し冷めた目で俺を見る知加子。残念ながら、彼女にはこの企画の素晴らしさがわからないらしい。

 俺は苦笑しながら思い出に残る街並を眺める。

 ここから友人の住む街は近い。つまり、それは時間に余裕ができた事を意味した。

 「じゃあ、さっそく知加子の部屋にお邪魔するか。ここからは近いのか?」

 懐かしい雰囲気に自然とテンションは上がっていく。

 「近いよ」

 そう言うと知加子は俺の手を取って歩き出した。


 人の数が少ないので、よそ見をしながら歩いてもぶつかる心配をしなくても良い。

 いかにも下町といった風情の通りをゆっくりと進む。

 しばらく歩くと通りを左に曲がる。さらに閑静な佇まいに俺は、思わず都会に来ている事を忘れそうになる。

 ――この街の雰囲気にそぐわない真新しいアパートが目に飛び込んできた。周りに建つ古びたアパートとは明らかに違う。

 そのアパートの一階の部屋に連れられる。どうやら知加子の部屋はここらしい。バッグから鍵を取り出してドアを開ける。

 「目立つから覚えやすいでしょ?」

 知加子はそう言って中に入る。何気に見回すと玄関は綺麗に片付けられており整理もしっかりされていた。

 ……上京する前に住んでいた部屋とは大違いだ!

 どちらかというと大雑把な性格の知加子は、男を部屋に入れる時でさえ平気で部屋を散らかしていたので俺は一瞬目を疑ってしまう。

 「ヒロ、何してるの? 早く上がってよ」

 玄関で立ち尽くす俺に悪戯っぽい笑顔を向けて手招きする。

 何が知加子を変えたんだろう。

 俺はそんな事を思いながら靴を脱いで部屋に入った。








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