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24、海の見える公園で

 

 ――シャワーを浴びて着替えを済ませたところにフロントからのコールが来た。そのため、余韻に浸る時間も思い悩む時間もないまま慌ててホテルを出た二人。

 外は、明るくなりはじめていた。


 とりあえず海を見渡せる公園に行く事に。その間、俺は無言だった。

 言い訳にしかならないが、その時の記憶がほとんどなかった。それでも、目が覚めてからの記憶ははっきりと覚えている。

 自分のした事に何を話していいのかわからなかった。

 知加子もまた無言のまま歩いている。だが、俺と違っていまだに余韻が強く残っているみたいだった。俺の腕にしがみついて歩き、しかも時折体を震わせていた。かなり消耗している様で、公園に着きベンチに腰掛けた時には完全に俺に身を預けてしまう。

 そんなに激しかったのか?

 その脱力し切った姿に俺は声を掛けるタイミングを逸してしまい、ポケットから煙草を取り出すと火を点けて遠くに映る朝焼けを眺めた……。


 冬の朝は寒い。しかも海が目の前だからか、風がやたらと冷たく感じられる。風呂上がりの体にはかなり堪える。

 公園には誰もいない。昨日の賑わいが嘘みたいだ。それが寒さを一層引き立てている様に思えてならない。

 そんな事を思いながら紫煙をくゆらせ知加子を見る。

 終わってから一時間も経っていないとはいえ、まだ余韻を残しているのか、ひどく恥ずかしげな表情を浮かべてあちこちに視線を走らせている。

 「――チカ、寒くないか?」

 俺の声に知加子は一瞬ビクッと体を震わせた。そして顔を赤くして俺の方に振り向く。見つめる目が潤んでいる。

 まだ疼きが取れていない様だ。

 「まだ体が疼くのか?」

 唇を耳元に寄せて囁く。知加子の顔は真っ赤になり、目に涙が浮かぶのが見て取れた。

 「ヒロ!」

 図星を突かれた知加子は顔を真っ赤にして俺の肩を叩く。

 ……おいおい、なんだか可愛く見えるぞ。いつからそんな乙女チックなキャラになったんだ?

 まるで初恋の相手と初めてキスした様な、そんな感じの態度の知加子に俺は、行為に及んだ現実を棚に上げて純粋にいじりたくなった。

 エス心が頭をもたげ、さらに羞恥心を煽る言葉を囁かせる。

 「……チカ、もしかしてもう一回戦したかったりする?」

 言葉とともに熱い吐息を吹きかける。

 知加子は両手を膝の上に乗せ、そっぽを向いて反応を隠す。その仕草が妙に可愛く見えて仕方無い。

 俺は肩に手を回して抱き寄せ、顔に手をやってこっちを見させる。

 「チカ、なんか言えよ」

 至近距離の位置で視線を絡める。

 潤んだ瞳には溢れんばかりの涙。その目に俺は不覚にもドキッとする。

 「……ヒロの意地悪。あんな恥ずかしい事しておいて、まだ足りないの?」

 知加子は顔を赤くしたまま掠れた声で答える。

 「……私が恥ずかしがってるのは、こぼれてるからよ……あれだけ出されたんだもん、動くたびにこぼれちゃうの……恥ずかしくてしょうがないのよ! ヒロ、触ってみる? 私のここ、すごく熱くなってるよ」

 少し怒った口調でそう言うと視線を逸らしスカートに手を当てる。

 「まさか、シャワー浴びてからされるなんて思ってなかったわ……」

 知加子は俺の手を取るとため息を漏らした。


 ……だんだんと日差しが強くなっていく。この寒さの中にいると、温度が上がっているのが体感できる。

 もう予定の無い二人。本来なら飲みの後にどこか(台場だから海か?)を散策し、ラブホテルじゃないにしてもそれなりに観光気分を味わえるところで泊まるはずだったであろう予定も、飲みからホテルに直行したために大幅なスケジュール調整が必要となってしまった。 

 少なくとも、知加子はこんな朝早くに外に出ているとは思っていなかっただろう。しかも歩き回れる状態じゃないときた。知加子がむくれるのも仕方が無い事だ。

 「……ヒロ、これからどうする? まだ七時前よ……あ〜、泊まりでエッチするんだったらウチですればよかったのに。今からじゃ時間早くてどこにも行けないよ?」

 ようやく本来の自分を取り戻した知加子は、俺の腕に絡みついて悪戯っぽい口調で責める。

 「たしかに。ぶっちゃけ、俺もチカと寝るとは思わなかったよ。浮気する気はなかったんだけどなぁ……いや、予定潰してすまん」

 俺は知加子に謝った。寝た事に対して、というよりも、せっかくの旅の思い出をフイにしてしまった事に自分のふがいなさを感じたからだ。

 「ふふふ、エッチした事ならいいのよ。私から誘ったわけだし、それに十分に満足させてくれたもん。それに関しては謝らなくてもいいわ。私が言いたいのは、時間が早すぎるってこと。ご飯食べるのも早いし遊びに行ける場所もない。今から私のウチに行くにしてもここからじゃ遠い。かといって、このまま別れるのはもっとイヤだなぁ」

 その表情にまだ少し赤みを帯びてはいるが、笑顔を見せてそう言うと顔を離した。その行動にかなりの至近距離だった事に気づき俺は思わず照れてしまう。

 今さらながら自分のしてる事が大胆になっていた。いくら寝たからといって少し気分が浮ついているみたいだ。ちょっと気を引き締めなければ……。

 急に罪悪感が芽生え、自分を戒めたところに少し恥ずかしげな口調で知加子が囁きかけてくる。

 「――それにしてもヒロ、ずいぶん溜まってたね? でも、あれだけ出したんだから満たされないなんて言わないよね。だからラブホには行かないからね」

 追い打ちをかける様に茶化す知加子。調子は完全に戻った様だ。そして、彼女はバッグから腕時計と観光ガイドブックを取り出し、ページをめくってこれからの行き先を思案する。

 俺の数少ない知識では築地しか思い浮かばない。まぁ、あそこなら朝一から行けるが……市場に行ってもイベントにはとても遭遇できそうもない。よって、知加子の思惑など知る由もなかった。

 「仕方ないなぁ……ヒロ、とりあえず移動しよっか」

 ガイドブックから目を離しページを折る。知加子の中でどうやら行き先が決まったらしい。

 「了解。どこでもついて行きますよ」

 無論、断る気などない俺はおとなしく彼女に従うだけだ。

 「じゃあ、さっそく行こっか――っと、その前にトイレに行かせてね」

 知加子は立ち上がり、俺の手を引っ張って立たせると先ほどとは打って変わって元気よく歩き始めた……。








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