22、止まらない気持ち
飲む。ひたすら飲む。沈みかけた場を盛り上げようと酒をあおる俺。
飲み過ぎない様に、と思った矢先から追加注文の嵐。これは知加子のペースに合わせて飲んだためだ。
知加子がイケるクチである事は知っていた。しかし、ここまでザルだったとはまったくもって知らなかった。
意識は朦朧、かろうじてグラスと煙草を持つ事ができるぐらいにしか体は言う事を聞いてくれない。そんな俺に冷静な判断力などない。
「ヒ〜ロ〜、大丈夫?」
首を傾げる様にして俺の顔をのぞき込む知加子。
「……だ〜いじょぉ〜うぅ〜」
回らない舌で返す。
頭がクラクラしている。無意識にグラスを手にするが口に運ぶ事ができない。
「ヒロ、無理しちゃダメだよ? 夜は……まだこれからなんだから、ね?」
悪戯っぽく笑みを浮かべながら小さく囁きかける。
不意に知加子の顔が間近に来た。甘い吐息が鼻にかかり、俺は返す言葉も無く頷く。
朦朧とした意識の中でも、身を寄せて来るのがはっきりと認識できる。
「ヒロ、寝そうなの? こっち見てよ……」
耳元に優しく息を吹きかけ、悩ましげな声で囁く。
言われるがままに顔を向けると、互いの鼻がかすかに触れ合う。視線もぶつかる。その目に知加子の思惑が浮かぶ。
だが、今の俺には為す術も無い。いや、はじめからこうなる事を密かに望んでいたのかもしれない。だから俺はここまで無防備になり、かつ彼女の接近を許したのだろう。
――ゆっくりと顔が近づいて来る。目の前が暗くなったと思った瞬間、唇に柔らかな感触を感じた。
完全な酩酊状態の俺は、それを受け入れるとか拒むとかを考えるだけの思考力はすでに無い。脱力する体と薄れゆく意識に己の限界を感じ、そのまま身を預けると静かに目を閉じた。
――目を開けると落ち着いた雰囲気を醸し出す木目の天井が見えた。
後頭部に生暖かく柔らかな感触を感じ、視線を少し動かすと知加子が黙々と酒を飲んでいる。
どうやら寝てしまった様だ。しかも膝枕されている。
頭がクラクラするうえに体に力が入らない。いくら旅の疲れがあるとはいえ、なんだか情けない気持ちになる。
見上げる様にして知加子を見る。その飲みっぷりに俺はあの頃とたいして変わっていないのでは、とふと思った。
舌が回らないので無言のまま見上げていると視線を落とした知加子と目が合う。
「まだ寝てていいよ」
そう言って手を伸ばし頭を撫でる。時折、髪の毛をいじりながらあやす。そして、顔や首筋などにも触れはじめた。
巧みな指づかいで愛撫するかの様にさすってくる。
少しくすぐったい。気持ち良すぎてこのまま寝てしまいそうになる。
俺は目を閉じてされるがままになった。
「どう? 気持ちいい?」
優しい声とは裏腹にその指先を首筋からシャツの縁をなぞる様に踊らせ、ゆっくりと胸元へ滑り込ませる。
それと同時に空いいるもう片方の手が俺の唇を塞いだ。
「口を開けて」
淫を含んだ瞳を少し潤ませながら有無も言わさぬ口調で俺の唇に指を差し込む。そして、少し強引に咥内に侵入した指で舌を弄ぶ。その巧みな指づかいに、俺は不覚にも興奮しはじめる。
「ヒロ、私の指も舐めて」
声からして知加子もその気になってきているのがわかる。酔いのせいもあるが、ここまで来たらもう行くトコまで行くしかない、と半ば開き直りにも似た気持ちになった俺は目を開き知加子に合図を送る。
その意味を察した彼女は顔を上気させ、ゆっくりと指を引き抜く。
「まだ歩けそうない。もうちょい楽しんでから行こう……」
俺は掠れ気味な声で返すと知加子の腰に腕を回し下腹部に顔を押しつけた。
服越しにもそこが熱を帯びているのを感じる。俺は腕に力を込めて強く抱きしめる様にすると、知加子の体がビクンッと一瞬震えた。
「ヒロ、ここでしちゃうの?」
少し焦り気味に声を上げる。その声に艶やかなモノを感じた俺は、腰に回した手を踊らせてスカートの縁から指を忍び込ませた――。




