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21、酔っぱらい

 

 窓の外に映る夜景が、旅の疲れを癒す極上の酒の肴になっていた。

 テーブルの上に並べられた料理にはほとんど手を付けず、慣れ親しんだ紫煙と酒ばかりを体に流し込む。

 余計なものは口にしない。そんな訳のわからない理屈をこねながら、気分良く下らない話で盛り上がっていた。

 特に、昔話は盛り上がる。懐かしさに気分も高揚し、いつもより飲むペースが早い事にも気づかない。

 喋れば喋るほど喉が乾き、喉を潤そうと酒を飲む。飲めば飲んだでテンションは上がり、さらに話に夢中になる。

 ――気がつけば、完全に酔っぱらい状態。

 頭が回らない。ついでに舌も回らない。いい感じの酔っぱらいの出来上がりだ。

「……チカ、俺酔った……」

 頭痛も吐き気もしないが、体がふらつき思考が定まらない。俺は体の揺れを感じながらも隣を見た。

「――あら? ヒロ、もう酔っちゃったの?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、知加子は俺の耳元に唇を寄せて息を吹きかける。

「……う〜ん……」

 生温かい吐息が耳にかかり、甘い香りが鼻腔をくすぐる。ぞわぞわっと背筋に鳥肌が立ち、思わず身震いしてしまった。

 そんな俺の反応に知加子は鼻で笑いながら身をすり寄せる。

「ふふふっ、もう飲めないんじゃない?」

 そう言ってさらに挑発的な眼差しを俺に向けてくる。

 意識はまだはっきりしていたが、舌がうまく回らないので反論もできない。

 口で無理なら、とせめてもの抵抗だとばかりに俺はテーブルの上に置いてある煙草を手に取り、おぼつかない動きで一本抜き取って口にくわえる。そして、火をつけようとライターを取ろうと手を伸ばす。

「ああ……」

 しかし、体が思う様に動かないためライターを取り損ねてテーブルの下に落としてしまった。

「……どこいったんだ?」

 視線を落として足元を見るもライターがない。いったい、どこに消えたというのか。

 酔っぱらい状態の俺は判断力も低下、そのまま身を屈める様にしてテーブルの下に腕を伸ばした。

 足元にはない。酔いのせいで焦点も定まらない俺は床に届くぐらいに無造作に腕を伸ばす――。


 ガンッ!


「――あだっ」

 勢い余ってテーブルの端に頭をぶつける。一瞬、目の前が真っ暗になった。

「……ヒロ、大丈夫?」

 頭をさする俺を見つめる知加子。その表情は先ほどまでのものとは変わり心配そうな眼差しになっていた。そして、おもむろに手を伸ばすと痛打した箇所を撫でてくる。

「よしよし。痛いの痛いの、飛んで行け〜」

 まるで幼児をあやす様に何度も俺の頭をさする。


 ……いかん、場が引いてきたな。せっかく盛り上がっていたのに。

「……チカ、悪いな」

 いくらか痛みが引いてきたので頭を上げて謝る。だが知加子は首を振り頭を撫で続けた。

「気にしない気にしない。さ、飲みなおそうよ」

 知加子はそう言って空いた手にグラスを持ち、俺に向けて笑みを浮かべる。


 ……飲み過ぎに注意しよう。いくら長旅の疲れもあるとはいえ、少しペースが早かったかもしれない。

 もう手遅れの様な気もするが、俺は飲み過ぎない様に気を配りつつ追加で酒を頼んだ……。








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