20、宴の始まり
さすが予約しただけの事はあり、ここから見える夜景はとても美しい。
都会らしい華やかな人工の光が街を彩るも、遠くから眺めるとまるで星の煌めきが如く清らかで神々しく見えるから不思議だ。
いかにもイベントです、みたいなクリスマス仕様の派手な場所よりも、静かでゆったりとくつろげるこの空間の方が落ち着ける。
その絶景を眺めながらのディナー。にくい演出だと思いつつも俺は心の中で知加子に感謝した。
「――かんぱ〜い」
注文が届いたところでさっそくグラスを合わせる二人。無言でお酒を喉に流し込む。
歩きまわって疲れた体にアルコールが程良く染み渡る。
旅の疲れを取るには、やはりお酒が一番だ。
「う〜ん、疲れた体に染み渡るなぁ」
俺はそのままグラスを一気に空ける。景色は最高だし酒も旨い。疲れているせいか、いつもより酒が進む。
ふと隣を見れば知加子もグラスを空け、メニューを見て二杯目を選んでいる。
……そう、知加子は半端じゃなく強い。飲みに行くと必ず俺の方が先に潰される。冗談抜きで酒豪なのだ。
「ヒロ、もっと飲むでしょ? 何にする?」
平然と笑顔で二杯目を進める知加子。
ペース配分に気をつけないと間違いなく潰される。だが、疲れた体は酒を求めていた。
「同じやつで」
答えると同時に空のグラスをテーブルの端に置いて、俺は背もたれに寄り掛かる。革張りのソファーだがあまり堅くない。
俺は伸びをして体をほぐす。その時、思わず声を漏らしたのはご愛嬌だ。
「ヒロ、おじさんだなぁ」
口元に手を当てて笑みを浮かべ、少し皮肉めいた口調で俺をからかう。
何かをする度にいちいち声を上げるのは年を取った証拠。実際、年取ってるから俺は反論する気にもならない。
「ああ、俺はおじさんだよ〜。来年、三十路を迎えるおっちゃんだよ〜」
そう言って再び伸びをする俺。体がほぐれて気持ちいい。
「あ〜、気持ちいいなぁ〜」
完全におじさんと化した俺は開き直る。伸びをしては声を上げ、軽くストレッチしたりと体を動かす。
「……まだ若いでしょっ」
知加子は呆れ顔で俺の腹に突きを入れる。軽く急所に入ったその突きに俺は声にならない呻きを上げる。
――そんな絡みをしてる間に店員が料理を運んで来た。ちょっと贅沢なコースを注文していたので、テーブルの上にたくさんの料理が次々と並べられていく。
注文の際、一度に持って来る様に頼んでいたのでテーブルの上は大渋滞だ。
……たくさんあるなぁ。
種類が多めだから、それぞれの量は少ないと思っていたのにそうでもない。
いい意味で期待を裏切ってくれたってやつだ。
これだけあれば追加注文せずに済む。いちいち選んで注文するのが面倒な俺としては有り難い事だ。まぁ、飲み物だけはその都度注文しないといけないがね。
「……さて、とりあえず酒の追加注文でもすっかな――すいませーん、ライムひとつ下さーい」
「――あとピーチひとつ」
俺の後にすかさず声をかける知加子。
なんだ、じっとメニューを見ているから、てっきり違うのでも頼むと思ったら結局同じかよ。
まぁ、いいや。
俺はポケットから煙草とライターを取り出し、至福の一本に火をつけた。
「ヒ〜ロ〜」
煙くゆらす俺に向かって知加子は抗議の声を上げる。
「けーむーいー」
そして、わざと顔を近づけて鼻をつまむ仕草をする。
「チカ〜、至福の一服させてくれよ〜」
煙を知加子の反対側に吐いて嘆願する俺。
ここは譲らんぞ。せっかく気分が良くなってきてるんだ、ここで喫煙なんぞした日には、やる気ゲージも下がるというもの。
頬を膨らませて抗議の眼差しを向ける知加子を無視し、俺は構わず煙を肺に入れる。
「……もう、仕方ないなぁ。私に煙かけないでよぉ」
俺の頑なな姿勢を察した知加子は、半ば呆れ気味な表情で妥協案を提示する。
「了解」
おっしゃあ!
心の中でガッツポーズ。むくれたらどうしようかとちょっと心配だったが、簡単に了承を得た事にやる気ゲージが1ランク上がる。
……おっと、すでにピンクだったな。
――何故かテンションの高い俺。今からこの調子でいいのか?
久しぶりだからいいか。俺は無理矢理自分を納得させると、至福の一服を堪能しながら酒が来るのを待った。




