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19、アクア・リンク

 

 いったいどこへ行くんだ、と思いつつも知加子の後に続いて先ほど入った場所から少し離れたところにある建物の中へ入った俺。

 無言のままエスカレーターに乗り、何もわからぬ俺を最上階まで連れて行く。どうやら知加子の言う“いいお店”はこの建物の一番上の階にある様だ。


 相変わらずの人集りの多い通路を抜けて奥へ行くと一軒の店があった。

 アクア・リンク――それが店の名前だった。

「――ヒロ、ここだよ」

 知加子は店の前で俺に振り返ると満面の笑みを浮かべる。

 有名なトコなのか?

 俺はその笑顔の意味がよくわからず、返す言葉も無くただ頷いた。

「――いらっしゃいませ」

 店に入ると店員はやけに恭しく丁寧に出迎えてくれた。

 その店員の態度に俺はなんか場違いなトコに来てしまったなぁ、と思わず知加子の方に目を向ける。だが、そんな俺の視線を知ってか知らずか知加子はバッグから一枚のカードを取り出すと店員に手渡した。

 手にしたカードを見た店員は、これまた丁寧に頭を下げてくる。

「御予約の近江知加子様でしたか、お待ちしておりました。アクア・リンクへようこそ」

 いったい、なんなんだ?

 さっぱり意味がわからない俺は、案内されるがままに店の中へと入っていった――。



「……どういう事だ?」

 俺達の案内された席は、他の客のいるスペースから少し離れた奥まった場所にあった。

 そこは、これでもかというくらいのクリスマス仕様では無く、個室みたいに軽く仕切りがあり“二人だけの空間”を演出した落ち着いた感じのゆったりスペース。しかも座る席は片側しか無く隣合う様になっている。それに加えて夜景の映えるベストポジション。

 ……これは完璧にカップル専用スペースと言えよう。

 わざわざこの店の、この席を予約したのか、この女は。

 俺はその用意周到さというか、策略というのかわからないが知加子の意気込みの様なものを感じてしまい、半ば呆れ気味に隣の知加子を見やった。

「久しぶりの再会なんだし、ちょっとイイトコでディナーもいいかな、って思ったのよ」

 コートを脱ぎながらしれっとした態度で答える。そして、呆れ顔の俺を尻目にメニューを広げて俺の前に差し出し、それから手拭きで丹念に手を拭く。

「お酒飲もっかな。ヒロも飲むでしょ?」

 手拭きをテーブルの端に置いてメニューをめくり、俺の方ににじり寄る様にしてアルコール欄を覗く。

「私、ピーチにしようかな。ヒロは何にする?」

 そう言って体を密着させる知加子。二の腕に柔らかな感触が当たる。

 素敵です。素敵ですが、お姉さん、行動が大胆ですよ?

 窓の外に広がる夜景に目を向けて意識を逸らそうとするが、男子たるものマシュマロみたいな素敵な感触を無視する事などできないのです。

「……俺はライムで」

 俺の頭の中には“離れる”という選択肢は無く、それを意識しつつも言われるがままに酒を注文する。

「はいはーい。じゃあ、注文するね」

 知加子はテーブルの上に置かれたボタンを押すと、俺の方にさらに体を密着させてきた……。



 ――長い夜はまだ始まったばかりである。








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