16、カオス・パーク
外に出ると、風はすっかり止んでいた。
冷たい風のせいでものすごく寒いと思っていた俺だったが、止んでみるとたいした寒さではない。バッドステータス『寒さ×』を持つ俺でも十分に耐えられる気温。要は活動するのには何ひとつ不自由しないというわけで、俺と知加子のお台場散策を妨げるものが無くなった事を意味した。
それはつまり、スナック菓子で“一度食べたら止まらない”に等しく、禁断の甘い果実を一口食べてしまった俺は知加子のペースに乗ってしまう、という意味も含まれていた……。
まるでメトロノームの様に揺れる心。テンポは上がる一方で目まぐるしく気持ちは移ろっている。これは優柔不断の一言では片付けられない、と独りよがりな解釈をしたぐらいにして自分を正当化する……どう言葉を繕っても言い訳にしかならないなぁ。
「公園に行こ」
俺の微妙な変化を察したのか、機嫌良好テンションアップな知加子。
(この時期の公園は危険だよなぁ)
わずかばかりの良心が自制を促す。だが、そのまま行っちゃえばいいと囁く邪な自分が背中を押してくる。
知加子は俺のそんな心の葛藤を知ってか知らずか、俺の手を取り引っ張って行く。その強引さは連んでいた時の彼女を連想させてくれた。そのため懐かしさが先立ち、俺は拒否る事を忘れて引っ張られるがままに海沿いの公園に連れて行かれる。
一分もしないうちに公園に到着。
やはり、というかこの時期の公園はラブラブフィールドと化していた。
視界に入るすべての人達は一足早いクリスマスモードに突入し、互いに愛を語らっている。イチャイチャ、ベタベタと人目をはばからずに抱き合っていたりキスをしていたり、さらにはそんな事は部屋かホテルでやれ、と言わんばかりの見ているだけで恥ずかしくなる様な行為に及んでいる輩までいる始末……そんな愛のカオスというべき光景が広がっていた。
「うわっ」
若さ故の大胆さというか、愛のなせる業とでもいうのか、はたまたただ単に周りが見えていないだけっていうか、完全に自分達の世界に浸っている彼等の行動には、さすがに知加子も引き気味になる。
「す、すごいね? ちょっと移動しよ」
目のやり場に困ったのだろう。知加子は少し俯き加減に俺を見る。これでもか、と言わんばかりにラブラブっぷりを見せつけている彼等の行為に、正直この場にいるだけで恥ずかしくなっていた。俺もかなり引いている。
「そうだな。場所を変えよう」
即答すると俺達は、若さ溢れる加減を知らずの輩で賑わうカオス状態の公園を後にした。




