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13、ベタです

 

 時間は十六時前だった。

 汐留に着いた二人は地上へ出る。無論、海月にメールを送信したのは言うまでもない。

 生憎の曇り空がなんとも言い難い雰囲気を醸し出す。

 「……ほら、すぐそこがテレビ局だよ。人が集まってるところ。見える?」

 外に出て開口一番、人の群れに向けて指をさす。

 そこには、何気に毎朝テレビで見ている光景があった。

 「おおっ!」

 テレビで見慣れたものがすぐ目の前にある。画面を通してしか見た事のない光景が眼前に広がっている事に不思議な気分になった。

 「さて、ちょっと見て行こっか。ベタだけど、旅の話題にはなるでしょ?」

 俺の反応に知加子はニンマリ。そして俺の手を取って軽快な足取りで人の群れに歩き出した。

 「……駅のすぐ目の前にあるんだな? いやぁ、びっくり仰天だわ。毎朝見てるのに、実際に見るとなんだか新鮮だよ」

 少し大げさかもしれないが、俺はちょっとした感動を覚えている。

 ベタでもいいぞ。ネタになるから。

 次に会う友人は観光など絶対してくれないし、まさか知加子からみやげ話が得られる事など想定していなかったので心底嬉しかった。

 「うふふ。そう言ってくれると嬉しいよ」

 きらびやかなイルミネーションが施されたお決まりのクリスマスツリー。俺と同じく観光に来たであろうカップルや家族連れ。

 クリスマスムード漂う中、俺達はそれらの群れに混じり、すぐ先に控えたクリスマスを一足早く堪能する。

 仕事に戻れば、クリスマス前後から正月明けまで休み無しのハードな日々が続く。そう思うと知加子の観光案内はたまらなくグッドだった。

 「……なんか、こうしてるとカップルみたいだね?」

 このムードに感化されたのか、俺の腕に手をまわし寄り添う様にして静かに囁く。

 周りから見れば、きっとそう見えるだろう。

 「そうだな」

 不思議と否定する気にならない。俺もこのムードに飲まれてるのだろうか?


 ひとしきり見て回った俺達は再び駅へ戻る。次なる目的地へ向かうために。

 「次はゆりかもめに乗ってお台場へ行くよ〜」

 都営地下鉄のそれとは違う、青い券売機の前で切符を購入する。

 モノレールか。

 ゆりかもめは以前、一度だけ乗った事がある。俺の記憶が正しければ、座席が小さくて座りにくい、という印象があった。それと線路とホームの間がガラスだかプラスチックの壁で仕切られているのも覚えている。

 「ヒロ、お台場には行った事ある?」

 しっかり腕を絡ませて刺激的な弾力を押しつける知加子。しかも、あからさまにすり寄せてる。明らかに誘ってると言わざるを得ない。

 その挑発的な行為とは裏腹に、なんとも色気のない質問を普通の口調でしてくる。

 (……誘ってんのかふざけてんのか、いまいち読めんなぁ……)

 なんだか対処しにくい展開に俺は戸惑う。

 旅はロマンスを誘って来る、という話を聞いたが、本当の事らしい。

 この展開、むげに拒絶するのももったいない。だからといって向こうから誘われて、というのは男としてあまりにも情けない。

 知加子はただ慰めてもらいたいだけなんだし、ちゃんと割り切れるからドロドロした展開にはならないだろう。知加子も期待してるわけだし、ここは俺から誘うべきか?

 自分から率先して浮気する気は無いが、流れに沿って一夜くらいなら、と正直思わないわけでもないし。

 でも、海月に悪いよなぁ……。

 俺自身は、愛とセックスはまったくの別物と思っているからセックス自体にはあまり罪悪感は感じない。実際、成り行きで何人かと関係を持った事もあるので、綺麗事を語る気などさらさら無い。正直に言えば海月じゃ物足りない部分もあるし。

 それでも気が引ける。やっぱりダメだよなぁ。

 非常に美味しいこのシチュエーション。据え膳食わねば男の恥、ってか?

 「お台場は、とっても素敵な気持ちになれて、チョ〜いいよ〜」

 なんとも意味深なセリフ。お台場ってたしか、デートスポットとして有名だったよな。以前、友人がそう言っていた事を思い出し、このまま流されていきそうな気がしてきた。

 「ねぇ、私の言いたい事、わかるよね?」

 肩口に頬をすり寄せながら甘い声を出してくる。

 「……わかってるわかってる。まだ時間があるし、ちょっと待て」

 往生際の悪い俺の良心。気持ちの繋がりと体の繋がりの違いを認識してても、いまいち“そこ”へ踏み切れない……まさに理性と欲望の板挟みだ。

 「うんうん。まだ時間もた〜っぷり、あるからねぇ〜、焦らずに待つ事にするわ」

 微妙に目を細め、口元をちょっと弛ませた感じの笑顔で答える。そして、絡めた腕をすっと放す。

 「……もう来るよ」

 知加子がそう言うと、ゆりかもめは静かにホームに入って来た。

 「さ、行こう」

 先ほどの仕草が嘘の様に素っ気ない口調でさっさと乗り込む。知加子の思考パターンがまったく読めない。

 (……う〜ん。難しいねぇ……)

 はっきり言って俺はどう対処していいのかわからなくなっている。

 このパターンは完全に知加子ペースだ。本番はこれからだっていうのに、今からこれでは先が思いやられる。

 ゆりかもめの車内では、狭い座席に腰掛けて眺めの良い景色を堪能する知加子とは対照的に、俺は流れゆく景色をただ眺める事しかできなかった……。







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