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12、観光の始まり

 

 日曜日、駅周辺は、人だらけ(字あまり)


 ……お前ら、他に行くトコないんか?

 自分の事など棚に上げて内心グチる俺。この光景、地元ではあり得ないんですけど。

 ここでひとつ思った。一人で来たら絶対迷う!

 知加子の先導により駅周辺を迷わず歩き回っているが、一人だったら間違いなく人の波に飲まれて訳がわからなくなっているだろう。

 “サバイバル都市・東京”……そんな意味のわからんネーミングを付けたくなるほど、この人の集り様はヤバいと思った。

 「ヒロ、これから地下鉄乗るよ。ほら、こっちだよ」

 声とともに手を引っ張られ、人の波を逆らう様に地下へ降りる。

 「今から汐留まで行くからね。大江戸線っていう赤紫っぽい色の地下鉄だよ」

 俺の手を取り簡単な説明をする知加子。

 今日のスケジュールは彼女のお任せコース。どこに連れて行かれるのか、直前までわからない。

 とりあえず次の目的地は汐留か。地名だけは知っている。というよりも、それぐらいしか知らない。

 なんだか一昔前に流行ったミステリーツアーみたいでワクワクしてきたぞ。

 「――チカ、ちょっとしたミステリーツアーみたいだな?」

 年齢的に意味が通じるか疑問だが、あのマニアックな懐かしのミステリーツアーに思いを馳せてみる。

 「……はぁ? ミステリーツアー? 別に怖いトコなんて行かないわよ」

 通じないか……五つも違わないのになぁ。やっぱりマニアックなんだよなぁ、ミステリーツアー。このテのネタは旅愛好家にしか通じないのか?

 少しヘコみそうになった俺は、知加子に導かれるがままに切符を購入し、大江戸線のホームへ降りて行った……。


 東京という街における交通機関の利用者数は、はっきり言って尋常ではない。だからなのか、待ち時間が五分と掛からず非常に便利だ。

 ホームへ降りて電車が発車した時は、ヤバいなぁ、と時計をチラっと見て知加子の機嫌を伺ってみたりした。しかし、知加子は平然とホームに立ち、すぐ来るから待ってよう、と柱に寄りかかろうとする俺に手招きする。

 「……ああ、そうか。すぐ来るんだよな」

 言われて気づいた俺は、忙しない都会らしさを感じながら黄色い線ギリギリの位置へ移動した。

 待ち時間が無いのは良い事だ。意外に移動時間って無駄になる事が多いから、移動が多い場合などは非常に助かる。特に今回なんて移動が多そうだし。

 そんな事を思ってると乗車案内のアナウンスが流れた。もう電車が来る。

 「来た来た。おっ、空いてる空いてる。座れそうだな?」

 車内は思ったより混雑していない。テレビでよく見る光景を連想していただけに座れないと覚悟してたのに。

 嬉しい反面、ちょっと拍子抜け。

 「……ヒロ、いつでも混んでるわけないでしょ……」

 知加子は呆れ気味に呟くとバッグで俺を小突く。

 人の少ない午後の電車。座席に腰を下ろして目的地までの短い間、電車特有の揺れを感じながら車内広告に目を向けた。

 「ふ〜ん」

 車内広告はどこも同じ様な内容だ。だが地名が変わるだけでその印象は全然違う。田舎者丸出しの俺は、この不思議な感覚に改めて東京に来たんだなぁ、と妙に納得しつつ飽きる事無く車内広告を見続けた。


 ……無言の時が過ぎる。隣の知加子は俯き加減になっていた。

 「どうした?」

 具合でも悪いのか?

 俺は知加子の背中をさすりながら声をかける。

 「……あ、ごめん。私、電車に乗ると眠くなるんだよね……」

 そう言って俺の肩に頭を当てて枕代わりにする。

 「着くまで」

 このままで、って事か?

 まぁ、着くまでならいいか。十分くらいだし。

 どうせなら海月にメールでも送っとくか。そろそろ起きる頃だろう。

 俺は懐から携帯電話を取り出すと海月にメールを打つ事にした。今回は軍隊風メールでいこう。


 『件名:東京より入電』


 『おはよう。ただいま都営地下鉄の中なり。まもなく汐留、これから非常に楽しみ。目一杯観光するなり。』


 ……これで良し。

 電波弱いから着いてから送信しよう。

 さて、俺も少し休むか。体力を温存だ。寝ない様にだけ気をつけないとな……。







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