10、テンション上げよう
「――ところで、ヒロは今の彼女と付き合ってどのくらい経ってるの?」
不意に話題を変えてくる知加子。暗い雰囲気になるのを防ぐためか。
それにしても海月との付き合いか……。
出会ったのは時期的には知加子とほぼ同じだ。あの頃はスーパー(当時バイト)の他に家庭教師と人材派遣のバイトも掛け持ちしていたっけ。まぁ、その頃は海月に対して何の感情も抱いてなかったな。実際、海月を女として見る様になったのは彼女が高校を卒業する辺りだったし。
「付き合い始めたのは、昨年からかな? 今の彼女は俺が家庭教師のバイトしていた時の生徒だ。チカも知ってる奴だよ」
「私の知ってる人?」
ピンとこないのか、首を傾げて考える仕草をする。
「……ごめん。ちょっと思い出せない……」
さすがにすぐには思い出せないか。知ってるとはいえ、俺の話を聞いただけで実際に会った事はないからな。
「ほら、アイドル志望の小娘でクラゲって書いて海月っていう奴。ゼリーちゃんって呼ばれてる……」
「――ああっ、あの娘!?」
クラゲで思い出したのか、最後まで言う前に手をポンッと叩き声をあげる。
「……ふ〜ん、ヒロの年下好きに磨きがかかったってわけねぇ〜」
知加子は少し皮肉っぽい視線を俺に浴びせながらも妙に納得した素振りを見せる。なんか、誤解しているんじゃないか?
「その娘ってヒロと一回りくらい離れてるよね?」
皮肉というより軽蔑した様な視線に感じる。
「……ロリコン。やらしい。職質されたら捕まっちゃうよ」
ボソッ、と強烈なストレートが俺を襲った。
精神的にかなりキタ……よりによってロリコンかよ!
「ちょっと待て。それは違うぞ!」
全身全霊を込めて全力で否定する。
たしかに年は離れてるが、断じてそんなシュミはない。それに海月はもう社会人、立派な大人だ。
「人聞きの悪い事言わんでくれ……」
そんな俺のセリフなど無視して知加子は俺の慌てっぷりに笑いを堪えている。
「ごめんごめん。冗談よ、冗談。そんなに全力で否定しなくてもいいよ……あはは」
知加子は堪えきれず腹を抱えて笑い出す。俺的にいまいち納得いかなかったが、せっかく明るい雰囲気になった事だし、ここで話題を引っ張るのは得策じゃない。よって、ここは我慢の一手で知加子ペースに甘んじる事にした。
これでテンションが上がれば、それでいい。これからの時間の方が長いんだし、今のうちにテンションを上げていかないとね……。




