1、俺ステータス公開
12月にもなると寒さは一段と厳しさを増し、本格的に雪も降りはじめて“冬”というものを痛烈に感じさせてくれる。
寒さに滅法弱い俺にとってこの季節、マジ冬眠できたらいいのに……と真剣に考える時がたまにあったりする。
もしゲームみたいに俺のステータス表示が見れるなら『寒さ×』があるのは間違いないだろう。
ああ、何故にそんなバッドステータスを持つ俺が北国に住んでいるのか。俺七不思議のひとつに上げたいくらいだ……。
俺の名前は浜名大樹、三十路一歩手前の29才。いわゆる“ギリギリの男”だ。何がギリギリかというと若者とおじさんの呼び方だな。実際、何の基準で呼び方が変わるかよくわからないけど。
職業はスーパーの店員。
配属先は鮮魚部……俗にいう魚屋さん。毎日魚を調理しているため包丁捌きだけはプロ並みになった。だからといって料理が得意ってわけではない。俺がやっているのはあくまで『下拵え』であって、それを買って実際に料理するのはお客さん……調理と料理ではその意味が違うのだ、少なくともウチの店では。
そんな俺は見渡す限り田んぼが広がる田舎町に住んでいる。田舎、といっても電車で10分もあれば街に出られるので地理的に言えば田舎じゃないんだろうが、駅周辺にはコンビニぐらいしかないのでやっぱり田舎というしかないな。
その何もない町で一人暮らしをしているごくごく平凡な男、それが俺だ。う〜ん、寂しいね〜。これでも彼女いるんだけどね……というわけでステータス『調理○(魚限定)』と『彼女○』が追加される。
……当たり前だが冬は寒い。
朝夕なんかはまさに身を切る様な寒さだ。それなのにまだストーブを使用していない。バッドステータス『寒さ×』を持っているにも関わらず、である。それは別に自分を苛めて楽しんでいるわけではない。今月度の俺予算委員会に光熱費の追加申請をしたのにも関わらず、予算委員会の承認が得らず『灯油予算』が降りなかったのだ。
この冬は例年より寒いうえに灯油代が高い事から、予想を上回る灯油消費に今月度予算が追いつかなくなったため……平たく言えば灯油を買うお金がなかったのである。そんな灯油すら買えない危機的状況の中、俺は明日から休みを利用して旅行に出掛ける事になっている。ちなみにその旅費は俺特別会計(貯金)から捻出、旅費に関しては問題ない。
これはステータス『放浪』を持つ者の宿命である。だから灯油より旅が優先されるのだ!
……というわけで開き直って旅支度に勤しむ俺。寒さは辛いが旅情を満喫するために我慢、我慢。
バッグに着替えと入浴セットを詰め込み準備完了。わずか10分で荷物をまとめる。
明日は朝早く起きなければならないので、念のため目覚まし時計のアラームをちょっと早めにセットする。これで完璧、心おきなく眠れるってもんだ。
今夜は彼女のバイトが夜勤だから、部屋に来る事もなければ電話も来ない。よって、起きてても暇を持て余すだけ。少し早い気もするが、明日に備えて今日はもう寝よう。寝坊なんてしたらシャレにならんからな……。




