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アンティークの趣味がいいのは認めます。

あっさりさっぱり書こうと思っております。

・・・書けているでしょうか。(苦笑




 からん、という音は、予想通りあまり響かなかった。錆びている。そう思ったトゥーランドは盛大に眉を顰めた。

 やはり手入れが行き届いていない!趣味がいいのは認めるが、お嬢様はどんな輩とあっているのか。

 しばし待った後で、奥から声が響いてきた。



 

「・・・どちらさまぁ?」

「失礼します」



 

 客がみえているというのに会おうともしないのか。声からして女性だが、なんて失礼な店なのだろう。


 

「この時間は開店していなのだけれど」

「・・・存じています」


 

 ひょっこりと顔を出した女性は、奥から出てきた。厨房にいたらしい。

 その証拠にエプロンをつけているし、何より、今テーブルに置いたものは。




 

 

(あ、甘い・・・香り?!)




 

 

「あの」

「・・・何か」


 

 じろじろをトゥーランドを見て、どうやら品定めしたらしい彼女は、首を傾げながらもトゥーランドを見据えた。


 

「この店の名前は?」


 

「は?」


 

 何を急に聞くのか。

 さっき見た看板を思い出しながら、トゥーランドは眉根を寄せた。


 

「ブラック・キャットでしょう」


 

 彼女はぴくり、と片眉をあげる。

 三角巾と、結っていた髪の髪留めを外すと、豊かな黒髪が肩に流れ落ちた。

 その顔には、先程にもまして苛立ちが見て取れる。じろ、とトゥーランドを見た彼女は苛立ちも露にして、腰に手をあてた。


 

「何の用事で来たの。さっきもいったでしょぉ。開店してはいないんです」

「いや、あの、ある・・・・・・・・あー男性が訪ねてこなかったか」

「そりゃ接客業してる店なんで、男は訪ねてきますけどぉ?」

「いや・・・銀髪の」


 

 どこまでいっていいものか、とトゥーランドは視線を彷徨わせた。

 その様子に、ファルナールが今度は困惑したようだ。


 

「・・・あなた、そっち方面の客じゃないわよね?」

「はぁ?」

「ふぅん、うちの店の裏業を知ってるわけじゃないのね」

「何をぼそぼそと」

「なんでもないわよ」


 

 ふんっと鼻を鳴らした彼女は、しっしっと、追い払うように手を払った。


 

「さっきも言ったけど、開店時間じゃないの。またのご利用をお待ちしていますー」

「きゃ、客に対して失礼でしょう」


 

 ひくり、と顔がひきつる。

 にやり、と彼女が笑みをつくって、わざとらしくきょろ、と周りを見回した。


 

「客?どこに客?ええー見えないわねぇ」

「・・・っ!失礼しますっ!」


 

 ここに来たのは間違いだった!


 

 盛大に足音を立てて、トゥーランドは戸口へ向かった。大きく扉を開けたはいいが、はた、と錆びた鈴を思い出した。


 

 ・・・アンティークの鈴のためです。


 

 トゥーランドは、戸口から出ると、ぎっと彼女を睨みつけー


 

 ゆっくりと、丁寧に、最大限に鈴を案じて。

 扉を閉じた。



 

 その直後にどすどすと言わんばかりに去っていく影を見送った店主は、不意にふっと息を漏らした。

 すすっと机に近づくと、ぷるぷると震えだす彼女。



 

 

「ふっ、ふふふあはははは!!」



 

 

 堪え切れないと言わんばかりに彼女は笑いだした。

 苦しそうに手を机について、腹を押えて笑う彼女など、いつぶりか。

 きっとこのアンティーク達に意思があったなら、きっとそう思ったであろう。


 

「ふぅん、ルディのところの執事、あんな人なのね」


 

 とても彼女が面白そうな顔をしていたことは、アンティークたちしか知る由もない。

 

 












 

 

 

「どちらに行ってらしたんですっ」


 

 お嬢様がやっと帰られた。

 その顔はどこか憂いを帯びていて。何かあったのか尋ねるべきか、と一瞬逡巡したが、結局は口を閉ざした。

 彼女は言いたくないことは言わないし、自分に意見を求める時には自ら口を開くはずだ。

 しかし、説教の一つ二つはせねばならないと彼は息を吸い込んだ。


 

 途端に、小言はいい、と言わんばかりに押しつけられたのは小さな箱。

 ふわり、と漂ってきた香りに、トゥーランドは眉根を寄せた。


 

「お土産。好きじゃないかもだけど、それで許して頂戴。なかなか人気なのよ、それ」

「・・・今回だけですよ。全く」 

 

 

 何か、あったのだろうし。

 

 







 

 部屋に戻ってから、その箱を開けてみた。


 

「こっ、これは・・・」


 

 どうしましょうかね。

 今日のことを思い出して、トゥーランドは苦い顔をしたが、結局は興味に逆らえなかった。

 ぱくり、と一口。



 

「・・・うまい」



ぼそり、と呟いたこの言葉を誰にも聞かれなかったことに、トゥーランドはこっそり感謝した。



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