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お嬢様を探してお店に辿り着きました。

スロー更新です。

とりあえず楽しんでいただけるような作品にしていきたいと思っております。

いや、まぁ自分の好きなように書くのが前提なんですが(汗

『男装の令嬢』より、一話がかなり短めでお送りします。それではどうぞ。





 

 

 お嬢様が、また逃亡した。





 

 ドルトナンド家三代目執事、トゥーランドはその苛立ちを隠そうともせず、城下の道を進む。

 彼は先程邸宅にて令嬢捜索の命を言い渡されーここにいるのだ。

 執事とは普通家につきっきりなもののイメージがあるが、かなりドルトナンド家では柔軟である。

 ・・・脱走、抗争、女問題。

 数々の問題を起こすドルトナンド血族と付き合うには、それ相応の柔軟かつ俊敏な対応が求められるからだ。

 特に、後片付けを任される人物は。

 それが第一級の任務とも言えるかもしれない。







 

 

 トゥーランドは眼鏡をずらして、眉間を揉んだ。

 その溜息をつく姿に、城下の乙女たちの視線が集まる。

 ドルトナンドの美系集団によって忘れられがちであるが、彼の容姿も相当に整っている。

 眼鏡の奥はアイアンブルーの瞳。一括りにした黒っぽい髪は所々深緑色が混じっていることを、日の下ならば窺い知れるだろう。血の関係でやや浅黒い肌をしている。

 彼は黒のズボンに白のシャツといういつもの執事服とは違い、かなりラフな出で立ちだ。

 そのままならナンパもされようなものであるのに、彼の不機嫌オーラによって女性たちは彼の容姿を眺めるに留まっている。

 それでも声をかけようという猛者もいるようだが、その声に不機嫌な視線で答えてしまってはその先はないだろう。

 生憎と彼はそういうことにはかなり鈍感で、頭の中は今の不機嫌の原因の人物への怒りによって埋め尽くされていたからである。




 

 

 あの人は毎回毎回っ!

 ある時は、座学に疲れたと。ある時は、体が鈍ったと。ある時は、女性と接していないからパワーが足りないと。


 



 

 よくわからない理由をつけては、勝手に男装して屋敷を抜け出すのだ。彼女にとっては脱走するに足る理由なのだが、男性でありながら、女性にほぼ興味がないと言っても過言ではないトゥーランドには、理解しがたかった。





 

 

 

 トゥーランドは生まれた時から父の執事姿を見てきた。


 その時点で祖父は引退し、彼が8歳になるころには他界した。執事職で多忙な父の傍ら、トゥーランドを育ててくれたのは実質祖父だ。

 父が年を取ってから生まれたトゥーランドは、父に迷惑をかける事だけはしまいと幼心にも思っていたことを今でも覚えている。

 そのトゥーランドの考えを知っていたのか、祖父はいろいろなことを教えてくれた。

 執事職から始まり、薬草のことだったり、人を動かすやり方。老体に鞭打って剣の扱い方まで。

 そして彼はこの世を去る直前に、こう自分に言った。


 

「自分が仕えるに足ると、そう認めた人に仕えなさい」


 

 それはドルトナンドでなくともいいのだと。


 

 

 しかし彼は、25歳の時執事を継ぐ話が来た時、ドルトナンド家を選んだ。

 ドルトナンド家四兄弟は、どう考えても苦労する。自身がこの25年間、苦労してきたことがその証明だ。

 けれど、仕えるに足る人物達であると彼自身、自信を持って言えた。



 

 




 

 

 ・・・しかし。


 

 

「脱走は戴けませんっ・・・!!」


 

 次女ルナディアは神出鬼没。

 城下の事となれば、彼女は恐らく実家の誰よりも詳しい。どのような恰好で出歩いているのか分からない上、自分より地理で勝るルナディアを捕まえようと、トゥーランドの眼は血走っていた。

 少しでも似たような背丈、歩き方、髪色の人間がいればその鋭い視線を向けてしまい、怯えられる始末だ。

 



 

 少し散策してやはり見つからないと判断したところで、トゥーランドは胸元のポケットから一枚の紙を取り出す。

 これは、秘策。

 令嬢の行動範囲を調べ、親しくしている女性を調べ、そして手に入れたのがこの地図だ。中にはルナディアのよく訪れるという店の場所が書かれているはずである。

 そこまで分かっていて、なぜルディの男装した姿諸々が分かっていないのか、というのは当主たちの策略ーいや、ささやかないたずらである。




 

 

 

 トゥーランドは地図と周りの景色を見比べると、路地裏へと歩を進めた。この道を後数刻後にお探しの令嬢が駆け抜けることになるのだが、そんな事を彼が知る由もない。

 雑に置かれた木の箱や、家具などは、この道に裏口を持つ店のものなのか。積み上げられたそれらのせいでやたらと道幅が狭くなっている。

 トゥーランドはちっと舌打ちをした。


 

「片付けをしろっ!片付けを!いくら表面を繕っても、出るんですよ。実際の自分の怠惰さはねっ!」


 

 完璧主義からの言葉を小さく吐きながら、それでもなんとか進む。その間も悪態は吐き続ける。

 途中で崩れかけた荷物をせっせと直すのは彼のさがだろう。全てを片づけてしまいたいのを寸でのところでこらえる。

 しかし間抜けにもそんなことを何度も繰り返したため、予想より遅い到着となったのはいうまでもない。





 

 木製の扉。窓は洒落ていて、特殊なガラスを使っているのだろう。光の反射で虹色になる部分がある。通り過ぎてしまえば気付かないだろう細かい装飾が、窓枠とドアノブに施されている。

 鈴は少しくたびれていて、響きは良さそうではない。

 ここの主人はもしや面倒くさがりなのか、とトゥーランドは眉を顰めた。

 一目で趣味の良さが分かるような店であるのに、どことなく、管理が行き届いていないような。



 

 そして鈴の横に下げられたプレートに目をやる。


 

 店の名前はー


 

「ブラック・キャット」




 

 

 


ありがとうございました!


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