ワシじゃよ。画材おじいさんじゃよ。
「ワシじゃよ。昨日会ったおじいちゃんじゃよ」
「よくここがわかりましたね」
「なに、この街は全てワシの散歩コースみたいなところあるからの」
ロハンとウリが朝食を食べていると唐突におじいさんが現れた。
「画材もそうじゃが、自由に使えるアトリエ、欲しくない?」
「え!欲しいです!宿の机で描いてもいいのだけど」
「そこはほら、汚れやすい画材もあるでの」
「絵の具があるんですか!?」
「いくつかの種類の色の用意がある」
「描きたい……です!ぜひ!」
「昨日の絵はこの街の風景を描いたものじゃったの」
「ええ、まだ残っていると思います。月夜に見るよりも劣っているかもしれませんが」
このおじいさんはすでにボクのファンなんだ。警戒心を解いても問題ないだろう。
「西門に古びた倉庫があるんじゃが、片づければアトリエには十分な広さのハズ」
「そんな……まだ一枚も売れていないのにボクなんかが使っちゃっていいんですか?」
「キミほどの才能を使わずにほっておくほうが罪深いじゃろ。働くのじゃよ」
「芸術は労働に入りますか?」
「それが対価を生み出すのならニアリーイコールじゃ」
ニアリー?なんだって?よくわからなかったな。
「もっと純粋な気持ちで描きたいんですけど」
「わがままじゃの。売れたらそうするがいいさ」
ウリは牛乳に浸したパンをひたすら食べていた。
気に入ったのかいそれ?ウリ?
ワオーン!
気に入ったようだね。
◇
正午過ぎ、夕暮れの街エナン西門近くの倉庫にて。
「昔は近くにあった木工の材木を置いていた場所なのじゃ」
「へー。これは……思っていたより広い。窓から光も取れて明るいですね」
「木工大工が店をたたんでから使っていないが、状態は良いようじゃの」
わんわんわーん!
ウリが何かを見つけたようだ。
奥の方から布切れを持ってきた。
汚れた毛布だ。
「それ、今は役に立たないよウリ……後で遊んであげるから放してきなさい」
「画材のほかに何か欲しいものはあるかい?すぐにでも描き始めてほしいのじゃが」
「椅子と、休憩できる机と、キャンバスをかける三脚?みたいなのが欲しいです。あと飲み物とか」
「わかった何とかしよう。飲み物は紅茶と緑茶、どっちが好みかの」
「ほうじ茶があれば……」
故郷で両親が作ってくれたほうじ茶の温かみを思い出す。
小さいころ、それを飲むのが好きだった。
「緑茶を乾煎りして作ってやろうかの」
「ありがとうございます」
「3時間後までには用意しておくでな。街を歩いてモチーフ探しでもしてきなさい」
「行ってきます」
ウリと並んで街中をぐるりと巡ってみる。
来たばかりの時には気が付かなかった細部が見て取れる。
各店屋には特有の看板が設置されていて道すがらどの店に入ろうか悩める。
街の西側から東南にかけて川がある。河原は土で覆われている。
門は四方に一つずつあるらしい。
全部で4つだ。
それぞれで検問のような仕事をしている様子が見える。
看板をよく見てみると、肉屋、魚屋、宿屋、薬屋、魔法屋、鍛冶屋、雑貨屋と
種類が豊富なようだ。
魔法屋って何だろう?ちょっと入ってみるかな。
カランカラン
「いらっしゃせー」
「すみません。ここって何を売っているんですか?気になってしまって」
「そりゃあ。魔法屋で売るのは魔法でしょう」
「どうやって売るんですか?」
「講習と継承の儀式を行えば大体誰でも初級魔術なら手に入りますよ。それ以上は才能がないと難しいけどね」
「相場観を知りたいです。例えば火魔法初級でどれくらいの費用ですか?」
「そうねー安くても金貨3枚ってところかな」
聞いてもいまいち高いのか安いのか判断がつかなかった。
「確か、宿で一夜を過ごすのに銅貨3枚だったな……金?貨??」
「あちゃー。お客さん、買い物に慣れていないね。まずは雑貨屋で薬草を買うところから始めてみては?」
「ボクは絵を描くのだけど、いい魔法がないかな?光るキャンバスを作れるとか」
「そういうのは結界魔法と言うカテゴリで古代文字を書き込むと発動する系のヤツですね~。
巧者は魔力を筆に載せて動く絵を描いたという伝説もありますが」
「へえ?伝説って?」
ロハンは内心ではドキドキしていた。だって動く絵だぜ?
この世界でしか描けない絵を描けるかもしれない。
「伝説の画家ですよ。お客さん、お金ないね?物見遊山なら帰った帰った!」
体よくあしらわれてしまった。描いた絵が売れて有名人になったら覚えてろよ……
約束の時間までまだ少しあるいったん宿に戻ろう。
「よーしよしよしよし」
ワンワンワフーーン!ワワワン!
ウリーかわいいなあ。
半日歩いた疲れが吹きとんだ。
持つべきものはもふもふのパートナーだね。
「アイテムショップ」
唱えると、注文画面が宙に映し出される。
「確か、スクロールだっけ」
スッっと指を動かすと画面も動いた。
「こっちの相場観も身に着けておかなきゃね。なになに?火魔法初級、30ポイント?
金貨3枚とどっちが貴重なんだろう?」
スイスイとスクロールを続ける。
「肉体の健康20ポイント、状態異常無効化50ポイント、レベルキャップ開放100ポイント……
大体何言っているかわからないな。説明が少なすぎる。おや?これは?鑑定スキル?30ポイントか」
芸術スキルのありがたさを知った今だからわかる。
この神様ポイントは有効活用すればとんでもないものが手に入る魅惑のサービスだ。
たった30ポイントと思う?それもいいだろうが……
神様ポイントを稼ぐ手段を見つけ出すまでは軽々に使うべきではないのかもしれない。
しかし……鑑定スキルだぞ?情報は命だ。あの夜、美術館に泥棒が入るって知っていたら
ボクは死なずにすんだのだ。
振るえる指先でタッチしていく。
「購入だ!」
ピコン!鑑定スキルを手に入れました。
「おお!スキルを買う前にどんな効果があるのか分かるようになったぞ!便利!」
ワンワン!
「おーわかるかウリ。ボクはまた新たな力に目覚めたぞ。そうだ!ウリも鑑定してみよう。鑑定!」
名前:ウリ
種族:犬
パーソナリティ:善性
備考:乾いた薪効率よくを集めることができる。もふもふ。かわいい。
「ヘー、こんな感じなんだ。悪くないね」
そういえばもう一つあったな。と倉庫でウリが拾ってきた布をふと思い出して
アイテムボックスから取り出して鑑定をしてみる。
種類:毛布
備考:とある有名画家が残した逸品を長年護ってきた誇り高き毛布
「この世界にも有名画家がいるのか……見てみたいな。もしかしてあの倉庫も
ただならぬものなのだろうか?後でおじいさんに聞いてみるか」
さて。そろそろ時間だ。絵を描きに行こう。




