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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

対月巫都のゾンビ退治

作者: 空延翼
掲載日:2026/02/18

 日本の山奥に存在する実験室でゾンビが逃げ出し、気が付いた時には国土の三分の一が彼らに乗っ取られてしまっていた。

 政府は緊急にゾンビ対策部隊を設立。日本全国から有志を募(つの)った結果、我が世の春と言わんばかりのゾンビマニアが殺到し、戦略立案と実働部隊に組み分けをされることに。

 そして、ゾンビに支配された高校の校舎を今まさに奪(だっ)還(かん)しようと、女学生剣士である対(たい)月(げつ)巫(み)都(と)は校門前に仁王立ちしていた。


 「校舎は違えど、同じ高校生として学び舎を奪われる痛みは身に染みて分かるわ」


 「ほ、本当に一人で突撃するおつもりで?」


 スーツを着た政府関係者の男が眼鏡を落としかける様子を横目に、腰にある鞘(さや)から刀を引き抜く。太陽の光を反射して、刀身が白熱灯よりも眩(まぶ)しく輝いている。

 

 「そこで見てなさい。腐切(ゾンビ・スラッシャー)の異名が伊(だ)達(て)ではないってところを証明してあげる」


 そんなセリフと共に巫(み)都(と)の対腐ブーツが砂利を転がした。

 大量のゾンビが餌(えさ)を目の前に涎(よだれ)を垂(た)らして手招いている姿に口(こう)角(かく)を持ち上げる。


 「さあ、楽しい殺(さつ)戮(りく)ショーの始まりといくわよ!」


 一歩、二歩、三歩目で一気に加速。

 校門を抜けた瞬間、刀を斜めに切り上げると近くにいたゾンビの頭部が吹き飛ぶ。

 そのまま右足を踏み込み、その場で回転切り。

 あっという間にゾンビの死体の山がその場に出来上がった。


 「こ、これが、腐切(ゾンビ・スラッシャー)の実力……」


 後ろではスーツを着た男が畏(い)怖(ふ)の声を上げる。

 その声を背中にし、巫都は黒髪をなびかせて優(ゆう)雅(が)に校舎へと突入した。



 「遮(しゃ)二(に)無(む)二(に)とはこのことね」


 玄関に入った途端、ゾンビが一斉に巫(み)都(と)に集中し、我先にと狭(せま)い通路でお互いの体をぶつけあう。

 その様子に巫都はカッと目を開いて、


 「月斬(ムーン・スラッシュ)!」


 ゾンビの群れを宙返りで飛び越えながら刀で円を描く様に次々と両断する。

 体操選手のように華(か)麗(れい)な着地を決め、片膝立ちになると巫都の背中には崩れ落ちたトランプタワーのようにゾンビが折り重なっていく。


 「たわいもないわ」


 首を巡らすと、校舎の廊下は窓ガラスが割れて破(は)片(へん)が散らばっていた。

 とそこで、ブツっという音が鼓(こ)膜(まく)を揺らす。


 『……誰か……いますか? もう、ゾンビが押し寄せてきて……ダメかも……僕は二階の放送室に……助けて……』


 再びブツっと音がして校内放送が途切れた。


 「生き残りがいたの? そんな、まさか……ひとまず放送室に急がないと」


 中庭にいるゾンビを横目に近くの階段を登ろうとするも、やはりゾンビが行く手を阻(はば)んでいる。

 

 「早く助けに行かないと」


 巫都は一段飛びでゾンビの合間を縫(ぬ)いながら上がっていき、踊り場に横に並ぶゾンビに、

 

 「邪魔よ。一(いち)文(もん)字(じ)切り!」


 水平に刀を振るい、ゾンビの胴体が一斉に両断される。

 そのまま二階に上がると、真っ直ぐ伸びる廊下の奥に放送室と書かれた教室を見つけ、一気に駆(か)ける。巫都を掴(つか)もうと手を伸ばすゾンビをステップで避け、スライディングで足の間をくぐり、刀を振るうのは最小限に最短距離で向かう。


 「後でいくらでも相手にしてあげるから、待ってなさい」


 勢いよく放送室の扉を開けると制服姿の男子がまるで幽霊でも見るみたいに、腰を抜かしていた。

 寝ぐせがついた髪に意志の弱そうな潤(うる)んだ瞳。ゾンビの襲撃と間違えたのか、恐怖で顔を青ざめて震えている。

 

 「もう大丈夫よ」


 目尻を下げ、安心させるような優しい声に顔色が悪い彼はぎこちない笑顔を見せた。


 「あ、ありがとう、お姉さん。僕もうダメかと思って……うぐ……」


 「男の子でしょ? もっとシャキッとしなさい」


 彼から目を離し、巫都は室内を見渡す。

 ノートパソコンにマイク。それと、音響設備が各種揃っている部屋。それらが窓から差し込む日差しに照らされて、輝いて見える。この高校の放送部は綺麗好きなのか配線も整えられ床は綺麗な状態。


 「あの、どうかしましたか?」


 沈(ちん)思(し)黙(もっ)考(こう)の末(すえ)、巫都は口を開いた。


 「いえ、なんでもないわ。私はこの校舎にいるゾンビを抹殺する任務を帯(お)びているのだけれど、あなたはどうする?」


 「それなら、屋上に連れて行ってもらってもいいですか?」


 「屋上?」


 訝(いぶか)しむように巫都の眉が上がる。


 「はい、僕の友人が屋上にゾンビに有効な薬を置いていったそうなので」


 「その友人は?」


 「今はもう……」


 顔をしかめて悲痛な表情を見せる彼に巫都は背を向けた。


 「なら、屋上に向かうわ。はぐれないようについてきなさい」


 「は、はい!」


 放送室から出ると、待っていたかのようにゾンビの群れが動き出す。

 後ろの男子は小さく悲鳴を上げて、青ざめた顔をしている。

 巫都は刀を振り上げ目の前のゾンビを両断するように振り下ろした。


 「うう……気持ち悪い」


 「女々しい声を出すんじゃないわよ」


 「ご、ごめんなさい」


 庇(ひ)護(ご)者がいる状況では巫都の動きは制限されてしまう。

 一人なら横断無尽に動き回れるが、非力な男子を守りながらでは鈍(どん)重(じゅう)な足運びを余(よ)儀(ぎ)なくされるも、次々と波のように襲ってくるゾンビを一体一体、慎重な足(あし)捌(さば)きで刈(か)り取っていく。


 「お姉さんすごく強いんですね」


 「あなたがいなければもっと動きやすいわ」


 「うう……ごめんなさい」

 

 臆(おく)病(びょう)な男子を守りつつ、なんとか屋上にたどり着いた巫都は扉を開ける。

 そこにはゾンビが一体もおらず、フェンスに囲まれただけの場所だった。

 中ほどまで歩いても、彼が言っていた薬とやらの影も形も見えない。

 ただ、日光を浴びて白い光を反射させるコンクリートが広がっているだけの平(へい)坦(たん)な空間。


 「それで、そのゾンビに効く薬とやらはどこにあるのかしら」


 振り返り、ヒュッと刀の切っ先を男子に向ける。

 

 「ちょ、なんで僕に刀を向けるんですか!?」


 青ざめた顔で両手を上げ、声を荒げる彼の表情に巫都は刀の柄(つか)を強く握りしめた。


 「知ってるかしら、人は食べないと生きていけないのよ」


 「は、はぁ……そんなこと常識じゃないですか」


 こんな時に何の話だと肩をすくめる。


 「腐った頭じゃ考えが及ばなかったのかもしれないけれど、あの放送室には全くと言っていいほど生活感が欠けていたのよ」


 巫都は食べ物も水も何もない異様に整った放送室を回想する。

 

 「そりゃ……ゾンビに囲まれてちゃ物資の調達なんてできるわけないじゃないか」


 彼は顔を俯(うつむ)かせて、言い訳をするように呟く。


 「そうね、でも一体いつからあそこで生活をしていたのかしら。この地域がゾンビに支配されてから既に一か月は経(た)っているはずよ」


 それが決定打だった。

 青ざめた少年の顔が大きく歪(ゆが)む。

 先ほどまでの臆病な少年といった雰(ふん)囲(い)気(き)はなく、むしろ青ざめた顔こそが本来の姿であるかのように哄(こう)笑(しょう)する。


 「ハハハハ、最初からバレていたってコトカ。道理でやたら背後を気にしていたワケダ」


 「ええ、人間のふりをするゾンビ。知腐(インテリ・ゾンビ)ね。初めて会ったけど虫(むし)唾(ず)が走るわ」


 「ユダンしたところを背中からヤッテやろうと思っていたが、路線変更ダ。真正面からブッツブス」


 そう言った瞬間、少年の体が膨(ふく)れ上がり一瞬のうちに三メートルの巨(きょ)躯(く)のゾンビが現れた。体中が紫色に変質し、四肢が丸太のように大きく変形している。

 巫都は後方にジャンプし、距離を取った。


 「そっちのほうがお似合いじゃない」


 そう言って巫都は愉(ゆ)快(かい)そうに口の端を吊り上げる。


 「ダマレ人間。お前も今日からゾンビの仲間入りを果たし、オレの奴(ど)隷(れい)となるノダ」


 「言いたいことはそれだけ? ……それでは八つ裂きショーの開始よ」


 刀を斜め下に構えて地面を蹴ると、真っ直ぐゾンビへと突進。

 巨躯から繰り出される拳(けん)打(だ)をひらりと身をひねって躱(かわ)し、左足を切りつける。

 刃が足とぶつかった瞬間、硬(こう)質(しつ)な鋼を切りつけたように火花が舞う。

 

 「ちっ」


 舌打ち後、追撃を躱すため急いで後退し元の位置に戻る。


 「ハハハハ、そんなおもちゃじゃオレに傷一つ付けることはデキンゾ」


 「そのようね。でも、首はどうかしら?」


 巫都は親指を逆立てて首の前で真横に動かす。

 

 「バカガ、お前のようなチビがオレの首に刃が届くトデモ?」


 「ふんっ、私を誰だと思っているの? 腐切(ゾンビ・スラッシャー)、対(たい)月(げつ)巫(み)都(と)。対ゾンビ実働部隊のエースなのよ」


 深呼吸一つ。脱力するように刀を持つ手を下げる。


 「ソレナらオレも本気を出すとシヨウ」


 醜(しゅう)悪(あく)なゾンビの口がみちみち音を立てて大きく開くと、青い血が地面に落ちる。

 そして、特大の腐敗ブレスが横一線に解き放たれた。


 「面白い芸当ね」


 ブレスが当たったコンクリートが朽ちて急速に劣化していく中、迫ってくるブレスを後ろに巫都は屋上のフェンス際へ向かって走る。

 逃げ場もなくブレスとフェンスに挟まれ、焼かれる間際、ゾンビが邪悪な笑みを浮かべた時だった。巫都はフェンスを足場に跳(ちょう)躍(やく)。ブレスの真上を飛び越えて、地面に着地後ゾンビに向かって疾(しっ)走(そう)。


 「ナニ!?」


 股下を潜り抜けて、屋上の出口扉にある梯(はし)子(ご)を駆け上り塔(とう)屋(や)に立つ。

 すかさず、ゾンビはブレスを吐き出そうと顔を持ち上げるが、


 「遅いわ」


 頭上を飛び越えるように宙返り。


 「月斬(ムーン・スラッシュ)!」


 陽光を浴びた斬首の刀が振り下ろされ、巫都を狙うように追いかける頭部は肉の切れる音と共に明後日の方向へと飛び、フェンスを飛び越えて落下していった。

 巫都は地面に着地し、カチンとそのまま刀を鞘(さや)に収めるとドシャンと派手な音を立てて、巨躯のゾンビは後ろ向きで崩れ落ちる。

 その様子を見送って黒髪をたなびかせながら屋上を後にした。


 

 「あ、あの、なんかさっき上からゾンビの頭が落ちてきたんですけど……片付いたんですか?」


 涼(すず)しい顔で校門から出てくる巫都に眼鏡をかけたスーツ姿の男が青ざめながら話しかける。

 それに対して巫都はヒュッと鞘から刀を引き抜き、スーツの男に切っ先を突き付けた。


 「ひっ! な、何をしているんですか!?」


 「私の近くでその顔をするな。間違えて切ってしまいそうになる」


 「そんな理不尽な……」


 刀を収めた巫都に男は膝(ひざ)から崩れ落ちるように地面に尻もちをつき、彼女の後ろ姿を尊敬と呆れが混じった瞳で追いかけた。

 これが対ゾンビ実働部隊エース。腐切(ゾンビ・スラッシャー)、対月巫都。

 彼女は生涯にわたって臆病な者を近くに置かない、冷厳な女剣士として名を馳(は)せることになるのだった。

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― 新着の感想 ―
このての作品を読むと、いつも「食料はどうしてたの?」などと思ってしまうのですが、それが伏線になっていたとは。
銃ではなく日本刀1本で女の子がゾンビスレイヤーしてるとか、世紀末極まってるなぁ。 自衛隊は何をしているのか…。ミサイルや機関銃でごり押す方が対策的には有効そうだが…。もしやもう全滅してる? 綺麗な放…
始め恐々だったのですが、巫都さんの強さが痛快になってきて、とても楽しく読めました!\(^o^)/ 設定がしっかり、アクションシーンもカッコ良く、短編が勿体なく感じました。続編や、連載も読みたいなと思わ…
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