第89話:アルシの苦難1
少し時間は巻き戻り。
【人公アルシ視点】
『今日のことはどういうことだよ!』
ボクはカホルにメッセージを送っていた。日曜日。今日はボクとカホルのデートだったはずだ。それなのになんでカホルは九王と映画を見ていたんだ。そんな浮気みたいなこと許されるはずが……ッ!
『カホル。返答次第じゃ許さないぞ』
こっちが手綱を握らなければならない。だからあえて脅しを使った。コメントにも怒っている風に文章を綴り、ボクはつまり怒り心頭だ。だが。
「…………」
既読がついただけで、カホルからメッセージが返ってこない。なんでだ。読んだよな? ボクが怒っていることを知っているよな。
『カホル。言い訳の余地は無いよ?』
また既読スルー。
『カホルは悪いとちゃんと思ってる?』
既読スルー。
「あのバカ女~~~~ッッッ!」
カホルがあんな浮気者だったなんて。ボクに断りも無しに他の男と映画デートするなんて。おっぱいが大きいから許されるとでも思っているのだろうか。
「クソっ。こうなったら」
『コヲリ。聞いてくれ。カホルがさぁ――――』
今日のデート相手がボクだというのに。カホルは九王と映画を見ていた。そのことをコヲリに愚痴る。彼女ならカホルを説教してくれるはずだ。
『え? 九王さんが倒れたの?』
食いつくのそこぉ!? どうでもいいだろそれは! 九王が気分が悪くなったなんて天罰みたいなもんだ。自業自得である。
『コヲリからも言ってやってくれよ。ボクに謝罪しろって』
『そもそもじゃあ何でカホルちゃんはアルシくんを放っておいて九王さんと映画を?』
それは……。ボクがほんのちょこっとだけ遅刻したのが原因で。でもだからって九王と一緒にいなくてもいいだろ。っていうかなんで九王はあの場にいたんだ?
『どうせアルシくんが遅刻でもしたんじゃないですか? チケットはカホルちゃんがスマホに入れているから、二人同時に入らないといけないとか』
『だったらボクを待てばいいだけの事じゃね?』
『本気で言ってます? それ?』
『そもそもの問題が逸れてるよ。カホルが九王と一緒にいるのが問題で。あんなチャラ男と二人きりだとカホルの貞操がヤバいじゃん』
そもそもカホルのおっぱいはボクのモノだ。誰にも渡す気はない。
『だいたいわかりました』
『でしょ? ボク悪くないだろ?』
『百パーセントアルシくんが悪いです』
何でだよ! 悪いのはカホルだろ! ボクより九王を選ぶなんてそんなこと許されるはずが! そもそもそんなビッチみたいなことをしたカホルが!
『反省することですね。デートに遅刻したんですから』
『だから反省するのはカホルの方で……』
『あなたがそんな妄言を言っている限り、カホルちゃんは許してくれませんよ?』
クソ! もういい! コヲリにはほとほと呆れた。
『ホムラ。聞いてくれよ。カホルが浮気したんだ』
『浮気? 穏やかじゃないね』
『ボクとのデートをほっぽって九王と映画見たんだぜ? どう思う?』
『浮気じゃないでしょ』
『何で? ボクを放置したんだよ?』
『でも別にカホルはアルシとは付き合ってないし』
それは。でも。愛し合っているんだから。ボクの許可なく他の男に接触するのは不貞じゃない?
『とにかくカホルに怒ってやって。ボクとのデートを放りだしたことを』
『気が向いたらね』
『今すぐだよ!』
『今お姉ちゃんから聞いたけど。デートに遅刻したんだって?』
『ほんのちょっとだよ。二、三分程度!』
『映画で二、三分は致命的でしょ』
『でもちょっとくらい寛容があっても……』
『反省するんだね。仮にあたしでも九王くんを誘うかな?』
このバカ女ども~~~~! ありえないだろ! あんな奴を誘うなんて! そもそもなんで九王は映画館にいたんだよ。まさかカホルをストーカーしてるとか? そうだよ。そうじゃないか。九王はカホルをストーカーしているんだよ。だからあの時あの場にいたんじゃないか。
『ホムラ。カホルに忠告して。九王がカホルをストーカーしてるって』
『ストーカー』
『じゃないと説明がつかない。きっと九王はカホルの部屋を特定してるんだよ。で、休みの日も付き纏って……』
『じゃあ警察に連絡すれば?』
『だからそこをホムラからカホルに……』
『あたしはイヤだ。カホルに嫌われたくないし』
『それでも言わなきゃいけないことってあるだろ?』
『アルシから言えば?』
『既読スルーされるんだよ!』
そうじゃなかったらボクから言ってる!
『既読されてるなら通じてるって事じゃん』
まぁそうだけど。じゃあそうするか。
『カホル。ストーカー被害に遭ってない?』
既読スルー。
『あの時映画館に九王がいたのは偶然じゃない。カホルはストーカーされてるよ』
既読スルー。
『アイツは危ない。近づかない方がいい』
既読スルー。
「あああああもうッ! どいつもこいつもバカなんだからー!」
こんなにボクが真摯に向き合ってるのに、なんで耳を傾けないんだ。カホルもコヲリもホムラもボクの言うことを聞くべきだろう? そうじゃなくて何の幼馴染だって言うんだ。
「くそ! もういい! 今日は止め!」
スマホをベッドに投げて、ボクはゲームを始めた。期末テストは近いけど、今はネトゲのイベントが熱い。これを逃してはゲーマーの名が廃る。
「ガチャも回さないといけないし。これは滾るぜ!」
イベント特攻を持つアイテムを手に入れる。そのためにはガチャを回さないと話にならない。
「まったくカホルもコヲリもホムラもバカだよな。あとでボクに捨てられても文句言えないと思うんだけど」
まぁボクは優しいし? ちゃんと謝って反省すれば許さないこともないけど。
「っていうかギルメンにも声かけよ。今回のイベントは忙しくなるぞー」
勉強は……あとですればいいか。そもそも三組のボクが赤点とった方が不思議なんだ。いつも通りの実力を発揮すれば平均点くらい余裕でとれる。ゲームは息抜き。ボクだって勉強くらいするさ。そうすればカホルたちもボクを見直すだろう。
「あんな将来性ゼロの九王なんかよりボクの方が絶対上だしね~」
今に分かる。九王がどれだけボクより下なのか。その時に謝ってきても遅いんじゃないかな。三人の賢明な判断に期待するや切だね。そうしてボクはネトゲのギルメンと会話した。全員ガチ勢だから今回のイベントも本気で参加。ボクも乗り遅れるわけにはいかない。ボクだってギルドのメンバーだから、ギルメンとは助け合って攻略する必要がある。ああ、必要とされるって嬉しいことだよな。この気持ちを三人も知るべきだ。ボクのためにもね?




