第79話:花崎カホルは俺のモノだ
「あの。ありがとうございます。アクヤ様……」
「いや。心配だしなぁ」
今日は日曜日。コヲリとホムラとマキノはそれぞれやることがあって。俺はカホルに付き添っていた。正確には隣り合って歩いていた。
「いや、しかしいいのか。目的地まで俺がついていって。人公に見られると……」
厄介なことになりかねん。そう言ったのだが。
「アルシが私より先に来ていたら、東京以外は沈没しますよ」
そこまで確信があるのかよ。じゃあ、どっちにしろ人公が来るまでは俺がナンパ除けに隣り合っている必要が…………あるのか?
何せカホルは可愛いからな。人公が惚れるのも無理は無いっていうか。ゲームだと熱い展開だったよな。
『そんなことよりボクを好きになって!』
処女じゃなくても君が好きという熱意が伝わってくるようだった。今の人公は何か微妙に食い違うんだよなー。なんでだろ? 一応ストーカーと罵られる覚悟もあるが、俺はカホルと人公を尾行するつもりだった。人公が全部解決すればいいが、先の件もあるし。なんか心配という理由で。なので同じ映画のチケットを取って、一人で映画を見るつもりだ。それから映画の後のカホルのデートを尾行。もちろん本人に許可はとっている。むしろ嬉しがられた。女の子の心は宇宙だな。
「…………」
で、待つこと一時間。それでも人公は現れなかった。今の魅力的なカホルは周りからチラチラと見られている。こんなに可愛いピンク髪の女の子がいればそりゃなぁ。
「…………」
で、関係ないですよの態度をしながらその実キモくカホルを観察していると、ヒョイヒョイと手招きされる。仕方ないので近づいて、話を聞く。
「何ですか?」
敬語になったのは俺の不信感の表れだ。今日は人公とデートだろ?
「電話に出ません。メッセージも既読がつきません。寝てますね。コレ」
マジかよ。本気か人公アルシ。カホルとのデートに遅刻するだと。買ったマグロを食わずに捨てるようなもんじゃね? ある意味贅沢ではあるが……。
「というわけで。アクヤ様。私の隣の席で映画を見ませんか?」
「え? 俺が?」
意外な提案に、俺が驚いた。今日のカホルと人公のデート。人公が遅刻することは想定外だが、たしかにこのままではカホルは一人になる。チケットはスマホに入っているし、まるまる人公のチケット代が無駄になるのだが。
「俺で……いいのか?」
俺は人公アルシじゃない。このエロゲーの主人公ではないのだ。
「どうせアルシは寝ていますから。アクヤ様と一緒に見た方が生産的と申しますか」
「あー、じゃあ、シクヨロ」
そういうわけで俺はカホルと隣り合って映画を見ることになった。一人だけ適当に買った席はもったいないが、まぁどうしようもなく。ジャンルは恋愛映画。ソレを見に劇場へ入る。カホルは最後列を取っていると言っていた。より広く画面を見たかったらしい。なので俺は手前の席を取ったのだが、意味なかったな。まぁ保険としてのあくまでではあるが。そうしてポップコーンもジュースも買わず、二人でシアターに。
「アクヤ様……」
で、隣り合って座った俺とカホル。俺が右でカホルが左。その俺の左手をカホルが握ってきた。
「いや、マジで人公に連絡つかない?」
「既読も付きませんね」
もうすぐ映画が始まる。適当に操作すればいいのだろうが、面倒なので俺は電源を切った。カホルはミュート指定しているらしい。そうして映画が始まった。何でも人気少女漫画を実写化したもので、人気俳優を起用しているとかなんとか。こんなことならもうちょっと下調べしておくべきだった。普段は筋トレしながらアニメ見てるんで、俳優についてはよく知らない。そんな後悔している俺の左手をギュッとカホルの右手が握ってくる。
「アクヤ様ぁ♡」
妙に色っぽい声でカホルが俺を呼ぶ。俺の首筋がゾクゾクと震えた。それくらい濡れた声だった。握った手が恋人繋ぎになり、そのままクニクニと俺の手を味わうカホルの手。
ドクン……ッッと心臓が鳴った。俺の中のオスが、カホルを犯せと囁いてくる。ソレを鉄の意志で抑え込む。そんな俺の心中も知らず。カホルは握った俺の手を誘導する。自分の胸に。Hカップの爆乳に、だ。ブラ越しとはいえ柔らかさは極上で、ついでに俺の股間がギンギンになる。その胸を揉むと。
「あ♡」
俺にだけ聞こえる嬌声が上がる。他の人間は気付いていない。映画に夢中だ。ちょっとカホルさん。空気を読んで。と言おうとして隣を向く。目が合った。既にカホルは映画を見ていなかった。俺だけを見ていた。映画の画像の光で暗がりの中、辛うじて見えるカホルの顔はオスに発情しているメス以外の何者でもない。すでに俺の左手を自分の爆乳に押し付けて、トロトロとした瞳を向けている。
「……ッ……ッ」
犯したい。抱きたい。孕ませたい。拘束したい。俺だけのモノにしたい。後から後から湧き出る感情に折り合いがつかない。そんな俺の手を爆乳に押し付け、そしてカホルは俺にキスをする。既に映画の内容など空の彼方だ。
「ん♡ ちゅ♡ んは♡」
唾液を織り交ぜたディープな奴。それで俺の意志がプツンと切れた。今度はこっちからキスをして、それもディープな奴を。カホルの唾液と俺の唾液が混ざって、そのまま互いをオスとメスに変える。俺はシアターだということも忘れて、カホルの胸をまさぐった。さすがにセックスは出来ないが前々々戯くらいのレベルではある。胸を揉んでいる左手。もう片方余っている手があって。そっちがカホルに伸びるとクチュッと音がした。
「アクヤ様ぁ♡ 好きぃ♡」
好き? カホルが? 俺を? 人公じゃなくて?
「愛しています。アクヤ様。この後休憩しませんか?」
休憩って休憩か? あのホテルでする……。
「私はアクヤ様の性奴隷ですから。アクヤ様は私でG行為をすればいいだけですよ?」
いや、それは。さすがに女子の身体でG行為は無理だろ。右を見ながら左を見ろと言われているようなものだ。
「アクヤ様ぁ♡」
もちろん却下すべき。分かっているのに、俺の股間がギンギンで。既にカホルの方も、俺の股間に手を這わせている。
「アクヤ様の……おっきぃ♡」
さすがにジッパーを開けることはしないが、それでもジーパン越しの愛撫に俺が何も感じないわけでもなく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息が苦しい。眩暈がする。カホルを犯したい。カホルを大事にしたい。カホルを奴隷にしたい。カホルを自由にしたい。相反する感情が俺を責めたてる。だがカホルに伸びている手が、その液体で濡れていることを確認すると男子としては止まれないわけで。
「カ……ホル」
「愛していますアクヤ様♡ 私にお情けをください♡」
そう言われるともう止まらない。と思った束の間。俺の意識が急ブレーキをかける。まるでそれは交差点に突っ込んで赤信号に気付きブレーキをかけた暴走車のような。
「ッッッ」
息がつまって、俺は倒れた。後で聞いたが周りに迷惑はかけなかったらしい。ただ映画という狭い席に座っていられなくなって、その通路に倒れたらしい。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
苦しいのは心臓か。あるいは肺か。胸を押さえて過呼吸を繰り返す。酸素が欲しい。息が苦しい。なんで……俺は。
「アクヤ様!? アクヤ様!!」
遠くでカホルの声が聞こえる。悪い。最後まで映画見れなくて。楽しみにしていたのにな。そう言いたい気持ちもあったが、既にその余裕も俺には無く。キツイ。苦しい。呼吸が出来ない。過剰なまでのストレスが、今の俺を苛んでいた。ゴメン、カホル。俺はお前とデートは無理だよ。そもそも童貞にそんなものを求めるな。




