第75話:綾女テイルとお茶
「はーマジ神。まさか不動ミヨちゃんの中の人がこんなに可愛いなんて。いや? わかってたよ? この声で可愛くないわけが無いって。でもさぁ。尊みが激しすぎてエモグロビン過剰だよー。過呼吸に陥るよー」
「あの。綾女さん。導線作ってくれてありがとうございます。不動ミヨの人気も綾女さんあればこそと思っております」
「いやいやー。そんなことないって。マジで声可愛いし歌上手いし。バズるのは必然だよー」
「エモグロビンのネットミームも綾女さんのおかげですし」
「魂の声だよー。本当に尊い。そりゃ造語の一つは出るよー」
「は、はぁ……」
アイスコーヒーを飲みながら、ホムラは対応に困っていた。二天一次元プロダクションの近場の喫茶店。そこで俺たちは綾女さんにお茶を奢ってもらっていた。ホムラはアイスコーヒー。俺はオリジナルブレンド。
「っていうかあの選曲マネージャーの指示でしょ? 良く思いついたね」
「元々歌ってみた動画で稼ぐつもりもありませんでしたし」
あくまで生配信がメインだ。赤スチャを目的におっさん受けのいいものを。
「それで! ミヨちゃんも21プロに入るんだよね」
「そのー……つもりー……ですけどぉ」
困ったように俺を見られても意見は変わらんぞ。
「いい話だから受けろって。企業案件バリバリ来るぞ。そしたらコヲリの仕事も増える。二條家はウハウハだろ?」
「お姉ちゃんは大丈夫?」
「……今の仕事はオンスケですし。……特に問題は無いですね」
「しかも創造神様も一緒なんてー。神。もう神。不動ミヨちゃんのママが美少女とかどれだけエリエリレマサバクタニ?」
「……ありがとうございます」
「こちらこそ!」
ギュッと綾女さんがコヲリの手を握って感謝を伝える。
「ミヨちゃんを世に生み出してくれてありがとうございます。あ、土地の権利書とか要ります?」
「やめんさい」
パシンと俺が頭をはたいた。
「ところで未成年は午後十時以降は仕事できないんだよな?」
「よく知ってるねマネージャー。じゃあ学校終わって本社来て、配信してギリギリかな?」
「そういうことになるのかね。まぁ最初の内は21プロに動画編集任せて歌ってみた動画上げるだけだろうけど」
「21プロ所属も内々には決まっているけど、発表は期を見るって社長言ってたしね」
「……よくそういうビジネス会話できますね」
「アクヤ様はちょっとおかしい」
いや、俺は。うーん。多分九王アクヤの能力なんだろうな。今の俺は九王アクヤと只野ヒートの足し算されている人間だから。
「っていうか愛スール先生もVキューバーデビューしません? 声可愛し。いけるっしょ」
「……話下手なので」
これは本当。説教は得意だが会話を盛り上げるのはコヲリは苦手だ。
「お絵描き配信とかさ。不動ミヨの双子の姉ってレッテル張ったらいけそうだけど」
この際会話が続かないのが問題だ。
「というわけで不動ミヨについてはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしたく」
「マネージャーに言われなくてもしちゃうよ。あ、今度デュエットしようね。さすがにミヨちゃんには負けるけど私も歌には自信があって」
「21プロの歌姫ですもんね」
「ミヨちゃんが入ったらその称号は譲るよ?」
「恐れ多いです」
「でも実際に上手いしな」
俺もあっさりそういう。ちなみに喫茶店でオレンジジュースを飲んでいる俺だった。いや、ちょっと糖分が欲しくて。
「不動ミヨの使用ライセンスも月三十万なら悪くないだろ?」
「……破格だと思いますけど」
「実際にいいキャラデザだぞ。まぁさすがコヲリというか」
「愛スール先生は神です!」
「これからは21プロからも仕事が来るだろうし。企業案件が来たら稼働してもらうし。ソシャゲの仕事もあるだろうしなー」
「……大忙しですね」
だから高校の卒業資格を買い上げたんだよ。
「マネージャーも21プロに所属するの?」
「俺は単なる学生だから」
「断じて単なるは付かないと思うけど」
「……私もそう思います」
「あたしも」
三人から反論をくらった。
「とりあえず契約書はリーガルチェックしてもらって。問題なかったら晴れて不動ミヨは綾女さんの後輩な」
「ミヨちゃんペロペロ~」
大丈夫かコイツ。
「はぁもう素敵。これからミヨちゃんの萌え声が世界を支配するのね」
「綾女さんの方が声可愛いよ?」
「そんなことないって。ミヨちゃんの声は世界遺産級だから。私は精々警察に表彰されるレベル」
その声で何の犯罪を抑止するつもりだ。
「まぁ怖いこともあるかもだけど。21プロはいい会社だから。ゆっくり慣れていくといいよ」
へぇ。先輩風を吹かすこともできるのか。ちょっと見直したかも。
「じゃあミヨちゃんに赤スチャを投げる方法だけど……」
あっさりと前言撤回を求めてくるな。
「同僚には無理です」
「マネージャーも酷いこと言わないでよ」
「御社の社長も言ってたじゃないですか」
「そーだけどー」
「とりあえずゴチ。さて、そろそろ帰るか」
「えー。もう。ミヨちゃん。今日は泊っていかない?」
「身の危険を感じるので……」
「大丈夫。ちょっと一緒にお風呂に入るだけだから」
捕まるぞ。お姉さん。
「ねえ。本当に大丈夫? あたしが21プロに入って……」
「まぁペロリスト綾女さんにだけ注意すれば」
「……私は祝福する」
「お姉ちゃんの仕事が増えるならあたしとしても文句は無いけどさ」
「ミヨちゃん。コラボは最初は私とね?」
「えーと。熟考します」
「やっぱり女の子にとって初めてって大切だしさ」
だから捕まるぞ。お姉さん。
「じゃあゴチでした」
「すみません。奢ってもらって」
「いいのいいの。稼いでるから。どうせ使わなくても税金に持っていかれるし」
会社員だろ。金を払うのは会社だ。
「ミヨちゃんになら幾らでも奢ってあげるからね。あと創造神様もたまに会社に来ていただけると……」
まぁ仕事の関係上、仕事の詰め合わせで顔を出すこともあるだろう、と言うと大歓喜する綾女さんでした。




