第74話:使用ライセンス
「それで、浮動ミヨさんのプロデュースを我が社で一任させてもらいたいと思っていまして」
ありきたりな挨拶から始まった社長の話は、紆余曲折を経て、そういう方向に収まった。
「有難いお話だと思います」
俺はニコニコしながら話を促す。
「九王さんは学友としてプロデュースをしていたとのことですが。御手を離れるのには納得されているのですか?」
「タダ働きですし」
身も蓋もない俺の言葉だった。
「愛スール先生のご意見は?」
「……ありがたいお話だと思います。妹が躍進するのなら、これ以上はないかと」
まぁ21プロだしな。優良案件だろう。
「無理だよー。21プロなんてー」
相変わらずホムラはグズっていた。
「ええーと。二條ホムラさんが納得していないみたいなのですが……」
「納得していないというかビビってるだけです。所属させたら馬車馬のようにこき使ってください」
「現役女子高生というのは……」
「本当ですよ」
「愛スール先生も?」
「……ええ。……まぁ」
正気かコイツ等感がハンパない社長の顔。
「マネージャーの九王さんは、コヲリさんとホムラさんを発掘したその手腕を活かしてもらいたいのですが……ん……九王? クオウって……数字の九に王様の王ですか?」
「ええ、まぁ」
「…………」
社長が深刻に黙り込んだ。まぁさすがにやり手社長なら九王グループを知らないはずもあるまい。国内最大のコングロマリットだ。
「も、もしかして、ですが…………我が社は虎の尾を踏んでいるんじゃあ……」
「いえ、コイツ等のプロデュースは完全に俺個人です。九王グループは関与していません。もちろん経済領域が重なることがないので安心してください」
「いや、しかしその九王様のお仕事を奪うというのは」
「タダ働きなので奪うも何もありません」
「個人勢としても結構な稼ぎですよね?」
「まぁ九王に産まれて金に困ったことは無いので、利益は全部ホムラに還元しております」
「は、は、は」
冷や汗をかいている社長だが、本気で驚くほどでもないのだ。
「ホムラさんとしては我が社の提案をどう思っていらっしゃるでしょう?」
「ええと、話は有難いのですが。あの綾女テイル氏などが所属している御社に私が入るのが恐れ多くて……」
「怖がっているのは分かりますが、とって食べたりはしません。我が社としても貴重な才能は積極的に発掘していきたいんです」
「アクヤ様~」
人前で様を付けるな。
「マジでいい話だから。蹴るのが勿体なさ過ぎるんだよ」
「ちなみに愛スール先生はどう思っていらっしゃるので?」
「……ですから妹の躍進に」
「ああ、いえ、不動ミヨの著作権の話です」
「……えーと」
チラリ、とコヲリが俺を見る。まぁライセンスとかわからんよな。つくづくこの場に俺がいてよかった。
「使用ライセンスを買ってもらう、というのが自然な話だと思いますが」
「ちなみに愛スール先生自身は我が社に所属するということは」
「無理です。ラノベやソシャゲの仕事を受けているので。既に個人事業主として働いています。この上で御社に所属すると話がややこしくなります」
「あ、そうでしたか。しかし不動ミヨのママということは仕事も大変でしょう。今は繁忙期では?」
「まぁ。何とかやっています」
まさか締め切りの半分の期間でオンスケとか信じられる話でもないのだろう。コヲリのイラストも、ホムラの耳コピ音源も、上がるのが異常に速い。こいつらはガチで天才だ。
「では既存の不動ミヨのデザインを有料でライセンス契約……という形でよろしいでしょうか?」
「……アクヤくん」
「悪い話じゃない。もちろん契約料にもよるが」
「月二十万。一年で二百四十万でどうでしょう?」
「にひゃッッッ!?」
そりゃ貧乏人の二條家には破格の値段だよな。
「うーん……」
俺だけポーカーフェイスで悩むふり。驚いているコヲリには悪いが、もうちょっと出せないかと思っている。そして驚いているコヲリを見ていけるとは思ったのだろうが、九王グループの御曹司である俺が納得していないというのは業界人としては無視できないレベル。誰よりこの場では俺の意見が最も重い。
「では月三十万。これ以上は経理に話すが難しいのですが……」
年三百六十万か。これは悪い話じゃないな。
「では一年契約でそうしましょう。不動ミヨの活躍次第では年ごとに契約料を応相談ということで」
「そうですね。そこら辺が落としどころだと思います。ところで不動ミヨの渋すぎる選曲はいったい誰が?」
「…………」←コヲリ。
「…………」←ホムラ。
「九王様……ですか?」
「生臭い話をすると優所得者から投げ銭貰うための苦肉の策です」
「いえ、目の付け所がいいと思います。九王様は市場をよく理解されている」
「現役JKを利用しているだけですよ」
褒められると責められているような気がする不思議。
「不動ミヨさんのプロデュースを我が社に一任してくれる……ということでいいんでしょうか?」
「ええ、お願いします。本人には俺から説得しますので」
無理だよー怖いよーと愚痴っているホムラは後で調教するとして。
「…………遠い声(あれー? 綾女ちゃん何してるの?)」
「…………遠い声(ちょ! しーっ! 今いいところで!)」
社長室の扉の向こうからぼやけた声が聞こえる。社長が扉を開けると、聞き耳を立てていたのだろう。綾女さんが転がり込んできた。
「何をしているんですか?」
「いやー。ミヨちゃんが21プロに所属するとなると他人事ではいられず」
マジでガチ勢だな。綾女さん。まぁ確かにホムラの声は愛らしいし歌も抜群なんだが。
「一応所属されることが決まりましたよ」
「マジで! じゃあ同僚じゃん! 上がるー!」
とっても嬉しそうな綾女さん。こっちまで喜ばしい気分になるのだが。
「ちなみに。同僚になったら不動さんへの投げ銭は止めてもらいますからね」
「何で!」
「我が社の内部で金を回してどうしようというので? 経理にどう説明するんですか?」
「じゃあ別垢作って投げ銭を!」
「バレたら炎上です。絶対にやめてください」
「やだやだー! ミヨちゃんに赤スチャ投げたいー!」
「それは不動ミヨさんの所属に反対と?」
「それも嫌だー!」
どっちやねん。




