第72話:小比類巻さんは趣味が悪い
【人公アルシ視点】
「起きなさい。アルシ」
ペンチで頬を捻られるような。というか実際そうされた。
「いはいいはいいはい(痛い痛い痛い)」
あまりに痛烈な痛みに、ボクは跳ね起きる。目の前にいたのは花崎カホル。ボクの幼馴染で、ちょっといさかいのあった女の子。しかし立派なおっぱいだ。Hカップは伊達じゃないぜ。
「朝飯作ったから顔を洗ってきてよ」
「あーはい」
ところで鬼電コールを止めて、起こしに来てくれたということは。
「許して……くれたの?」
「妥協しただけだよ。時間経過って怖いよね」
「でも起こしに来てくれて嬉しい。ありがとね」
「いいから飯を食え」
またペンチを取り出すカホル。もう、ツンデレなんだから。
「結構時間押してます。早く食って準備すること。十五分後には私は出るからね?」
「さっさーい」
そうしてカホルと登校。こうするのもちょっとぶり。かすかなすれ違いで仲たがいが続いていたから。でもこれで許してくれたって事だろ? 映画デートの約束もしたし。
「花崎さんだ」
「花崎さん」
「カホルさんおはよ!」
今日もカホルは人気だ。幼馴染として鼻が高い。ボクが褒められているようで気分がいい。カホルって可愛いし頭いいしおっぱい大きいし。ボクの恋人第一候補だ。告ってくれないかなー。そしたら即OKするんだけど。やっぱりこういうのって女の子から。
「おい。小比類巻さんが!」
「マジか!」
「エリエリレマサバクタニ!」
なんだろう? 何の話? 小比類巻さんがどうしたの?
「九王くんに告ったんだって!」
「じゃあ付き合うの!?」
「それが九王くん断ったって! 有り得る普通!?」
また九王か。最近の学校はおかしい。どこに行っても九王の名前を聞く。球技大会。中間テスト。そして次が小比類巻さんの告白。小比類巻さんも趣味が悪い。もうちょっといい男を選べよなー。
「飯屋飯屋言ってるみたいだけど」
「九王の家って飯屋?」
「さあ?」
九王グループを知っている生徒は少ないのだろう。ボクは知っているけど。でもどうせ赤点常連のアクヤが重要なポストにつく可能性はゼロだ。小比類巻さん大丈夫かな。頭。
「それってやっぱり花崎さん狙いだから!?」
「ありうるー!」
「小比類巻さんと花崎さんを侍らすとかどんなイケメンだよって話で」
止めろ止めろ。気分が悪くなる。カホルがあんなバカ男に惚れるわけ。ないよな?
「カホル?」
「何よ?」
「変な噂されてるけど大丈夫か?」
「大丈夫よ?」
だよな。そうだよな。やっぱりボクの杞憂だった。
「…………ボソボソ(外堀を埋められるのも悪くないしね)」
「何か言った?」
「いえ。何も」
きっとカホルも迷惑してるんだ。だから九王の事を鬱陶しく思っているんだろう。残念。小比類巻さんは諦めるか。元々六組のバカ女だし。おっぱいだけ大きくてもねー?
「でも小比類巻さんだって超かわじゃん」
「わかる。グラビアアイドルやってるだけあるっていうか」
「しかもプレプロでしょ!? 超大手だよ!」
女子がそんな会話している。
「俺、小比類巻さんで抜いたのに」
「拙者もでござる」
「某なんてAIの生成で……」
なんか男子からは恐ろしい声も聞こえてきて。いや、ね。ボクも抜いたよ? 小比類巻さんのエチエチ写真は男子の股間に特攻攻撃だし。ただそれとこれとは話が違って。で、昼休み。カホルがボクを呼んだ。
「アルシ。行くよ」
「あ、うん」
朝飯と夕餉を作ってくれる代わりに昼飯を奢る。ボクは三人の幼馴染とそういう約束をしていた。
「じゃあ肉豆腐」
好きだねソレ。別にいいけどさ。
「小比類巻さん。九王にって本当かな?」
ボクは小比類巻さんの名誉のためにそう言った。帰ってきたのは肯定。
「十中八九本当よね」
「学校中に噂が流れているから?」
「…………ボソボソ(前から好き好きオーラは出ていたけどね)」
「何か言った?」
「いえ何も」
「九王なんかのどこがいいんだろうね?」
「…………ボソボソ(あえて言うなら全部)」
「だって中間テストで不正してさ。ああいうこと止めてほしいんだけど。カホルもそう思うでしょ?」
「別に。一位に固執しているつもりもないしね」
「インチキに負けたんだよ? 悔しくないの?」
「全教科赤点に九王くんも言われたくないでしょうけど」
「いや、それはさぁ。期末は頑張るって」
だからその話は引っ張るな。とにかく今は小比類巻さんだよ。あんなバカ男と一緒にいても幸せになれないって誰かが教えてあげるべきなんだ。それがボクなら尚いいんだけど。
「アクヤ! ご飯食べよ! 何がいい!?」
「食券くらい自分で買える」
「奢らせて!?」
「お断りします」
で、学食でも二人はイチャイチャしていた。くそ。面白くないな。ま、言ってしまえば? ボクの対面にはカホルがいて? カホルは小比類巻さんより数十倍いい女なんだけど? やっぱり女の子にも知性が無いとねー。まぁバカはバカ同士お似合いか。
「マキノ。あんまりテンション上げるな」
そこだけは九王に同意。今の小比類巻さんは鬱陶しい。
「…………ボソボソ(先を越されましたね)」
何かをカホルが悔しそうに呟いていた。
「カホル。大丈夫? 小比類巻さんと何かあった?」
「何かはあったね」
「ボクが仲裁しようか?」
「そういう問題でもないので」
「言いたいことがあったら言ってね? 斟酌するから」
「じゃあ一人で起きて。ゴミ捨てはして。洗い物を溜めないで」
「そーゆーことじゃなくてさー」
「言っておくけど国公立を私は狙ってるからね? 大学までアルシの面倒は見れないのよ」
「そこはグレード落としてさー」
「無理」
「ボクたち幼馴染じゃん?」
「それが?」
「もうちょっとこう。結婚するまでは仲良くしたいってこと」
「妄言も大概にしなさいよ」
でもカホルはまだ男子の告白を一切受けてないじゃん。つまり心に決めた人がいるんでしょ? もちろんボクだろうけど。




