第67話:九王アクヤのお相手は
【人公アルシ視点】
「ほら、泣かないで。分かってたことでしょ?」
「あたしらが慰めてあげるからさ。放課後はファミレス行こ?」
「でも上沢でも駄目かー。ガード固すぎでしょ……」
学食でホムラと一緒に飯を食って、それから帰ってくると、泣いている女子がいて、その周りを友達連中が囲っていた。女の子が泣いているのはちょっと心配になるけど、ボクにはカホルとコヲリとホムラがいるから、相手をするのも大変だ。
「分かってるでしょ? 九王くんガード固いって」
「わかって……いたけど……でも……」
九王。九王アクヤ。今泣いている女の子が九王に泣かされているってことは、つまり告白とかしたわけか? 趣味悪っ。あんな将来性ゼロ男に惚れるとか頭沸いてるんじゃないか? ボクは中間テストの結果を信じてなんかいない。あいつは金だけは持っているんだ。成績なんていくらでも買えるだろう。きっと家ではメイドに起こしてもらって、着替えも入浴も一人ではできないんだぞ。
「でもさぁ。こうなると気にならない?」
「九王くんの想い人?」
「やっぱ気になるよねー。好きな人がいるって断ったってことは絶対いるんでしょ?」
ソイツも災難だな。あんな傍迷惑な男に惚れられるなんて。
「誰だと思う?」
「そりゃーやっぱり最右翼はー」
クソ。教室で九王の話なんてするなよな。気分が悪くなる。ただでさえ反吐が出る内容なのに、耳に届くと猶更不快だ。あんな奴に恋するバカ女の頭を覗いてみたくなる。
「花崎さんかな?」
「…………」
席について、スマホを弄るふりをして女子の話を聞いていると、今度はクリティカルな話題が出た。
「絶対そうだって! 花崎さんを振り向かせるために勉強頑張ったんじゃない? だって入学から今まで花崎さん学年一位譲ったことないし」
「でも今回は九王くんが一位でしょ。イケメンで運動出来て、勉強まで出来るなんているもんだよねー。才媛って」
あーあーあー。分かってねえなぁ。あんなクズが学年一位? あるわけねーだろそんな奇跡。どこまで頭沸いていればそんな結論になるんですかね? 成績の点数なんて職員で根回しすれば改竄し放題だろ?
「六組ってことは今まで舐めプしてたんだよね?」
「で、花崎さんに並び立つ男になるために本気出したってこと?」
「泣くな。上沢。お前が惚れた男は鯛だぞ」
「そーそー。あたしらじゃ並び立てないって」
バカどもがバカな会話をしている。止めてくれないかな。ちゃんと空気読んで欲しいんだけど。
「どう思う?」
隣の男子が聞いてくる。ボクと同じように女子の会話を聞いていたらしい。
「根拠のない憶測だろ。そもそもカホルが惚れてやる義理も無いわけだし」
「お前がそういうならそうか。仲いいもんな。人公は」
ま、ボクの女だしね。カホルだけじゃない。コヲリもホムラも。最近はちょっと小比類巻さんもいいなって思ってるけど。どうにかして近づけないかなー。三人とも仲が良さそうだし。ボクにもワンチャン…………。
「花崎さん。告られたらどう返すのかな?」
「そりゃお付き合い一択でしょ」
「あんなイケメン王子に告られたら即堕ちでしょ」
「わかるー。あたしもワンチャンないかなって思っちゃうし」
ま、バカ女どもの妄想も痛いが、カホルに限ってソレはない。何せ今までカホルはいろんな男子に告られて、全部断っている。もちろん想い人がいるからに他ならない。誰の事かは言わずともわかる。ボクに決まっている。
「球技大会でも優勝してたし」
「一年の頃はバスケで強豪校相手に無双したらしいよ?」
「サッカーでもエース勧められたって」
「その上でテストが学年一位でしょ? 出来過ぎじゃない?」
ちょーっと空気読んでくれませんかね? あんな男の話で盛り上がる女子ども。バカがバカを噂するのは仕方ないことかもしれないけど、その汚物をボクのカホルに塗りたくらないでほしいな。
「まったく。女子どもも見る目ねーよな」
隣の男子が不機嫌そうに言ってくる。
「だよなー。あんな男に何期待してるんだか」
ボクもその会話に乗った。どうせ六組であることを恥だと思って今回のことを画策したんだろう。だったら勉強くらいしろよって話で。実力で点数とるならボクだって認めるけどさ。
「バカの話なんて有益でもないしね」
「わかるわー。六組の話なんてするだけ無駄っていうか」
「ウジの巣窟だろ?」
「チーズバエでもたかってんじゃねーの?」
そう言い合ってクスクスと笑う。あんな腐ったミカン教室の男子について話している女子がバカに見える。
「いいよなー。イケメンで頭良くて運動も出来て」
「筋肉バッキバキでしょ? 男子の先輩が凄い身体って褒めてたよ?」
「何ソレ? BL?」
「いや、普通に細マッチョらしくて」
「そっかー。細マッチョかー。それはたまりませんな」
「どこまで女子を刺激するんだろ?」
「罪な男じゃのー」
お前らの頭の悪さには敵わないがな。ちょっと筋肉付いただけで欲情するような女に何も期待していない。その点カホルなんかは頭がいいからボクなんかに惚れているわけだけど。やっぱり見る目のある女子は違うっていうか。残念だったね九王。お前に惚れるのはバカ女ばっかりだよ。
「マジでワンチャンないかな。一回抱かれるだけでもいいんだけど」
「ガード固いよー? 本当に花崎さんが好きならウチらじゃ相手できないっていうか」
「分かってるけどー」
「でも一回くらい嘘でもいいから抱きしめられて愛を囁かれたいじゃん?」
「わかるー。あたしは壁ドンしてほしい」
「私なんかネクタイ整えてもらうだけでも嬉しいかも」
「だよねー」
うっとりとした表情で、妄想に浸るバカ女どもは、まぁ見るも無残に残念で。
「はー。やっぱり女子って見る目ねーよな」
うんざりしたように隣の男子が愚痴る。
「あんな赤点王が本気で学年一位だと思ってる辺りがなー」
「もうちょっと考えて喋って欲しいっていうか」
「ホント。思春期の女子ってバカ」
愚痴り続ける隣の男子に、ボクもわかるわかると共感する。カホルがあんな奴に惚れるわけないだろ。来来来世でもありえねーわ。
「人公。今度花崎さん紹介してくれね?」
「嫌だ。そういうことすると怒られるんだよ」
仲のいい僕に口利きを頼んでくる男子は多いが、ボクは全部断っていた。当たり前だ。カホルは僕の恋人候補なんだから、紹介するわけがない。カホルが了承するかは別にして、こっちからチャンスを潰す真似をボクがするわけないだろ。
「でもなー」
この前の映画デートは手を繋いでくれなかったんだよなー。アレがちょっと不満だ。ボクのことが好きならむしろ喜ぶべき案件。っていうかキスくらいしてくれよ。ボク的にはセクロスだってありなのに。あのおっぱいでしごいてもらえるのは世界でボクだけだから。




