第65話:狂う歯車
【人公アルシ視点】
「……起きろコノヤロー」
ギュイッとほっぺたを捻られて、その痛烈な痛みでボクはとび起きる。
「いっつ! 何するの!」
「……こっちのセリフなんだけど。……なんで七時半まで寝れるの」
「ちょっと勉強していて。止め時が見つからなかったんだよ」
「……ゲームはしてないでしょうね?」
「し、してないって。期末で赤点回避するまでゲーム禁止だろ」
「……分かっているならいいですけど。……期末で赤点が一つでも出るようならヨーロッパに飛んでもらいますからね」
「コヲリはそれでいいの?」
艶やかな髪に、愛らしい顔。なんとなくでホムラと見分けはつくんだけど、それもボクが幼馴染であったればこそ。普通の人はコヲリとホムラの区別がつかない。ま、そこは幼馴染パワーって奴?
「……はやく飯食って準備してください。……私は先に行ってますので」
「ちょいちょい。そこはボクと一緒に」
「……十五分だけ待ちます」
「わかったよ……まったくコヲリは」
そうして猛スピードで朝飯を食って、洗顔して、制服に着替える。ちょっと十五分はオーバーしたけど、コヲリは待っていてくれた。
「優しいね。コヲリは」
「……甘やかしすぎたと後悔するばかりです」
「まぁまぁそう言わず。コヲリだってボクを想っているでしょ?」
「……悩んではいますよ」
そこは想ってるでよくない。まったくクーデレにプラスしてツンデレなんだから。
「……ちなみにゲームをしていた場合、……容赦なく見捨てるのでお覚悟を」
「大丈夫だって。そこは信用してよ」
「……信用してほしいなら全教科赤点を反省してください」
「ごめんなさい」
「……まぁこれからに限り、……私も人のことは言えなくなるんですけど」
「勉強できないとか?」
「……最低限はしますよ」
「二組なんだから成績落すのはマズくない?」
「……まさにお前が言うな何ですが」
「次は大丈夫だから気にしないで」
ボクもちょっとは反省した。さすがに全教科赤点はね。ゲームは封印してないけど、勉強もそれなりにするつもりだ。
「それでコヲリと勉強会したいんだけど。ホムラとカホルも誘ってさ」
「……忙しいので却下で」
「忙しい?」
「……ええ、……まぁ」
どこか疲労をにじませて、コヲリはそういう。
「何かやってるの? 話くらい聞くけど」
「……大丈夫です。……一応オンスケなんで」
おんすけって何? 人の名前?
よくわからないコヲリの声を聴きながら登校して、それからパッとコヲリの表情が輝いた。
「……九王さん」
前を歩いている登校路の途中。九王アクヤを見つけて、話しかけるコヲリ。
「……あ?」
瞬間、ボクは沸騰した。
「……おはようございます九王さん。……今日の御気分は如何ですか?」
「ボチボチってところだなー。授業に支障が出なければいいが」
「……大丈夫ですよ。……何せ九王さんは学年一位ですし」
「コヲリ!」
思ったより大きな声が出た。
「……なんでしょう?」
「そんな男と会話するな! コヲリの品位が下がる」
「だよなー」
あっはっはーと九王が笑う。
「お前もお前だ! 誰の許可を得てコヲリと話している!?」
「まぁスクールメイトとしてそこは自由意志じゃないか」
「お前みたいな下半身がサルの男とコヲリが話すと変な噂が立つんだよ!」
「だろうな。じゃあ俺は行くわ。二條さん。人公さんと仲良くな」
それだけ言って、九王は登校に戻っていった。
「クソ! 腹立つな! コヲリもあんな男を信用するなよ……」
「……先に言っておきますけど」
ハイライトの消えた瞳で、コヲリはボクを見た。
「……誰の許可を得て九王くんを否定したんですか?」
いや、誰の許可って。
「あいつは危ない奴だ。危機感を誘発するんだから警戒に越したことはないだろ?」
「……それを誰が肯定するんですか?」
「だから髪を金髪に染めているだけでチャラ男だろ。そんな奴にコヲリも近づいちゃいけないぞ?」
「……よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉくわかりました」
「分かってくれたか。ちゃんとボクの言うことを聞いて、危ないことはするなよ?」
「……それではこれで」
そうしてあっさりとボクを見限って、コヲリはすたすたと歩き去ってしまう。
「ちょ! ま! どうしたんだよ! コヲリ! なんで急に不機嫌に……?」
「……人を否定するところから始まる人間と会話したくないだけです」
「だからアイツは危ないんだって。コヲリも何かあってからじゃ遅いだろ?」
「……ちなみに何を根拠にその論じ方を仰っているんですか」
「そりゃ不良だし。六組だし。去年の進学も金で買ったらしいぜ?」
「……学年一位ですけどね」
「それも金で買ったんだろ?」
ボクがそう言うと、
「…………………………」
もはや話すこともないとスタスタコヲリは去っていった。まったく気難しい女だな。あれはちょっと説教する必要があるな。ボクの方が正しいんだって、ちゃんと説得しないと。
「なぁ。コヲリ。アイツが危ない奴なのはお前も認めるところだろ?」
「…………………………」
「怒るなって。ボクは真っ当なことを言っているだけで」
「…………………………」
「だからボクの言うことを聞けよ! なんでそんなに意固地になっているんだよ!」
「……九王さんのことを知りもせずに我が物顔で語るあなたに心底くだらないと思っただけです」
「そんなはずないだろ。コヲリだってアイツが怖いって思うだろ?」
「……いえ。……まったく」
なんだよそれ。ボクが悪いのか。そんなわけがない。悪いのは徹頭徹尾九王だ。あいつはボクの幼馴染に色目を使う最低の男だ。ボクとしては幼馴染のためを思って忠告してるのに、なんでそんなボクが失望されなきゃならないんだよ?
「コヲリ! コヲリ!」
「……さようなら。……今日は話しかけないで」
クソがぁぁぁぁぁぁ! それもこれも九王のせいだ。アイツなんかが存在するからボクとコヲリの仲が悪くなる。まったく疫病神もいいところだな。もしもここに警察がいたら即刻逮捕案件だぞ。もういっそ通報するか? コヲリもアイツが警察に捕まれば意見を変えるだろうし。あんなチャラ男……存在するだけで人類の負の遺産だろ。




