第64話:思ったより化け物
「……あ、……アクヤ様。……お帰りなさいませ」
この前着ていたロリポップに近いメイド服を着て、俺の帰宅を出迎えてくれたのは二條コヲリだった。ニコニコ笑顔で俺から学生カバンを受け取って、そのままダイニングへ案内。そうしてコーヒーを淹れてくれる。マンションの俺の部屋。
「いや。俺の歓迎はいいんだが。コヲリ忙しいだろ?」
「……アクヤ様への御奉仕より優先すべきことはありませんから」
「そだよー。アクヤ様はあたしたちのご主人様なんだから」
見ればホムラもロリポップのメイド服姿で料理を作ってくれている。今日は鉄火丼らしい。うん、まぁ、美味しいんだけどさ。
「一応学校側には理解してもらったよ。コヲリとホムラには卒業資格を買い取るという方向で」
「……お金がかかったのではありませんか?」
「元々九王グループは俺のワガママを通すために学校に献金してるし。これくらいのワガママは普通に通る」
「……ありがとうございますアクヤ様」
「アクヤ様に感謝申し上げます」
「いいよ。俺もこんなことになるとは思わなかったし。全部コヲリとホムラの才能だろ」
イラストレーター「愛スール先生」のコヲリ。人気ストリーマー「不動ミヨ」のホムラ。どっちも彼女らが持っていた才能だ。俺はちょっと坂に向かって巨石を蹴り落しただけ。
「……そんなことはありません。……アクヤ様がいなければ私たちはくすぶったままでしたでしょう」
「そうですよ。全部アクヤ様の功績です。アクヤ様があたしとお姉ちゃんを導いてくれたんです。心から感謝しております。どのように恩返しをすればいいでしょうか?」
「じゃあ明日はスク水で俺に奉仕して」
「……はい。……承りました」
「わかりました。アクヤ様」
いや、冗談のつもりだったんだが。マジでやるの。二條姉妹のスク水?
「ところでコヲリ。ラノベの挿絵の方だが」
「……一応データは完成したので出版社に送っています。……よかったですか?」
「…………は?」
「……あ、……何かマズかったですか?」
「いや。そういうわけじゃないんだが。終わらせたの? ラノベの挿絵。この前の今日で?」
「……ええと。……はい」
そもそも俺は絵を描くことについては知らないが、それでも出版社とのやり取りで締め切りは聞いている。それはコヲリにも伝えているし、そのスケジュールでキャラデザと挿絵と表紙イラストを上げる、ということになっていたはずだが。終わったの? マジで? 月単位のスケジュールだったはずなのに。もう終わったの?
「……今は同人誌の作業をしています。……漫画を描くのはちょっと難しいですけど。……不動ミヨ本となれば期待もされているらしく。……同人ショップに卸すつもりです」
さすがに即売会には持っていけないしな。とはいえ不動ミヨのママである愛スール先生の同人誌なら需要あるだろうな。イラストレーターにとって同人は生命線だし。売れるなら売れた方がいい。
「……ちなみにストーリーを考えたのはカホルちゃんですよ」
意外な才能を垣間見た気がする。そっか。国語は得意そうだったし、そういうストーリー方面の才能がカホルに。
「……アクヤ様には感謝の念しかありません」
「ああ、気にするな。全部お前らの才能」
「本当にそう言うんだからアクヤ様って大物だよね」
女を金で買う小物だぞ。
「ホムラは歌の収録はどうだ?」
「五曲くらい出来上がっています。耳コピ音源もしっかり作りましたよ?」
「……イメージイラストも上がってます」
「…………」
マジでどうなってんだ。この二條姉妹は。仕事が早すぎるだろ。もしかして俺は超人を覚醒させたのではないか。へのつっぱりが要らない感じか?
「アクヤ様」
そこでさらにカホルが登場。ロリポップのメイド服姿で、俺に抱き着く。ブラジャーはしているのだろう。ちょっと固めの胸の感触が俺を襲う。あばばばば。俺の理性が。
「アクヤ様。今日は私とエッチしましょうね?」
だーかーらー。そういうことはだな。
「アクヤ様はしたくない?」
「性欲はそんなでもないな」
超嘘です。持て余しております。朝三暮四です。
「もうちょっとこう。アクヤ様にも打って響くものがあればいいんですけど」
「残念だったな」
今日もシャドーボクシングでヘビー級チャンピオンになるしかない。
「えーと。じゃあ。コヲリもホムラも次の作業に移れると?」
「不動ミヨへの歌うリクエストはかなり来ているし。アクヤ様に相談しようかなって思っていました」
「……私は編集部がOKを出さないと話が先に進まないんですけど……でも新しい仕事は大歓迎ですよ?」
さいかー。化け物だな。この才能があったからこその、ここまでのバズリだったんか。コヲリの絵画の完成速度も、ホムラの歌への理解も、そもそもが想定外。というかだな。
「こんな展開ラブハートにねえだろ」
「ラブハート?」
クネリ、とカホルが首をかしげるが、ソレを言うわけにもいかず。オヤジには言っているが、アレは例外。
「実は愛スール先生にソシャゲの依頼が来ておりまして」
「……ソシャゲ……ですか」
それも結構人気タイトル。愛スール先生のキャラを使ってプレイヤーにガチャを回させようという気概が見て取れる。俺も回すかもしれない。
「……いいですよ。……じゃあその仕事受けてみます」
「いや、マジでスケジュール的に大丈夫か?」
「……大丈夫だと思いますよ。……今は無限に描ける気がしますし」
そもそも描くスピードが異常なんだよ。これだと普通に学業と両立できるのでは?
「……アクヤ様への御奉仕も忘れておりませんから。……安心してください」
そこは安心するところだろうか?
「無茶はするなよ」
「……大丈夫……とは言えませんね。……今ちょっと自分を見失っているのは事実ですし。……ハイになっているので調子を崩してアクヤ様を煩わせるのもうまくない……」
「俺としてはコヲリが心地よく仕事できるならそれでいいんだがな」
「……アクヤ様が抱いてくださるともっといいんですけど」
それは勘弁してください。
「でもマキノもそうですけど。アクヤ様ってプロデューサーの資質があるのでは?」
ポツリとカホルが呟く。
「俺が? ないない。全部ラッキーだよ」
「でもアクヤ様がいないと三人とも日の目を見ていないわけで」
「まぁ背中を押したのは否定しないが」
「アクヤ様って何者で?」
「どこにでもいる男子高校生だ」
「エモグロビンってアクヤ様にこそふさわしいのでは?」
「いやいや。不動ミヨの可愛さあればこそだよ。コヲリのキャラデザとホムラの萌え声あってこそのエモグロビンだ。実際にネットでもバズってるだろ?」
「アクヤ様はもうちょっと自分を客観視してもいいと思います」
「……ですね」
「だぞー」
然程の存在か。俺が。そもそも何で竿役の九王アクヤがヒロインをプロデュースしてんだって話で。本当ならカホルもコヲリもホムラも性奴隷としてあるはずだったんだぞ?




