第59話:金曜日のこと
「ん……あ……?」
朝目が覚めると想像していた人物はそこにはいなく。代わりに同じ顔の違うオッパイが存在していた。
「コヲリ?」
「……はい。……コヲリですよ? ……アクヤ様の性奴隷ですよ?」
そういうのはいいので。というかホムラは……ああ、いないのか。
「……ホムラちゃんが良かったですか?」
「昨日抱きしめてそのままだったからな」
「……きっとホムラちゃんも名残惜しかったと思いますよ」
だといいんだけど。こんな女を金で買う最低男に名残惜しいという感情を持つのかはともあれ。
今は俺の部屋。俺の寝室。俺のベッド。
何にせよ、起き上がらないことには意味がなく。というわけで俺はダイニングへと出向いた。そこにはエプロン姿のカホルがいて。美味しそうな朝食を作っていた。
「コヲリ。コーヒー」
「……あ、……はい。……お待ちくださいアクヤ様」
むにゃむにゃと眠気を覚ましてると、コヲリがコーヒーを持ってくる。
「ありがとな」
俺は彼女の頭を撫でる。
「……えへへ」
そんな嬉しそうにすることか? 別にいいんだけど。
「にしても人公って普段どんな生活をしているんだ?」
「……さあ? ……分かりかねますが。……きっと徹夜でゲームして私たちが起こしに来るのを待っているんですよ」
それくらいしないと赤点五つもありえないか。もうちょっとこうしっかりしてほしいよなと思う俺は求めすぎ? 俺と違って将来性がある男なんだから、そこは……なぁ?
「ごちそうさまでした」
そうしてカホルは俺の食器を片付けて、皿洗いまでしてくれる。なんという便利な存在か。着替えるか。一応寝起きで液体歯磨きで口をウォッシュしたが、それとは別に歯磨きもする。つくづく九王アクヤってイケメンだよなぁ。ちょっと妬ましい。いや、俺自身が今は九王アクヤなんだけど。
そうしてアイロンをかけてくれたコヲリに礼を言って、三人で学校まで。今日はホムラはいないからね。電車は一緒に乗って、駅で少しだけ距離を取る。
「花崎さん、おはよう」
「二條さんもおはよう」
カホルとコヲリに声を掛けるスクールメイト達。俺はそれを少し離れた場所から見ていた。これだとストーカーっぽいが、一応カホルもコヲリも美少女なので、念を敷くにこしたことはない。
「やっほろー。アクヤ」
で、校門を過ぎて昇降口へ。そうすると主を見つけたワンコのようにマキノが寄ってきた。
「おはようマキノ」
「おはようじゃん。一緒に教室いかない?」
「行くのはいいんだが。お前は大丈夫なのか」
「あーしがアクヤのこと好きってもうバレてるっしょ」
「それはそうだが」
明日はまたグラビア撮影が待っている。俺としても気合を入れておきたいところ。
「アクヤって結構律儀だっしょ」
「律儀というか。まぁ律儀か」
しっかりマキノにも付き合っているしな。これで律儀じゃなかったら何なんだって話で。
「あーしのグラビアエロいっしょ?」
「うーむ。あれはなぁ」
恋する男子に特攻攻撃。股間にズキューンと突き刺さる。
「…………ヒソヒソ(アクヤになら特別にもっと♡)」
「がんばってくれ」
それ以上何も言えねぇ。
「あ、アクヤくん」
で、マキノと一緒に教室まで歩いていると、俺を見つけたワンコがまた絡んできた。
「人公は遅刻しなかったか?」
「一応ね。追試もあるし必死で勉強しているとは本人の自己申告」
あんまり油断は出来んなぁ。中間テストが散々すぎて、人公の勉強しているは信用ならない。とはいえだ。追試に受かってもらわないと、そもそもエロゲーのストーリーが破綻する。それでいいのか。人公アルシ。
「アクヤくんは逆に立派ですね。学年一位を取っちゃうんだから」
「勉強だけはそこそこ出来るからなー」
そこそこって言っていいレベルかはこの際議論しないとして。
「ところで、次の歌ってみた動画なんですけど」
「ああ、あれな。どうする。歌いたいのあるか?」
「SNSでリクエストは大量に来ているんですけど。全部歌った方がいいですかね?」
どうだろうな。おっさん世代から色んな懐メロのリクエストが来ているのは知っているが。俺も一応不動ミヨのSNSは追ってるし。
「気に入ったのを歌えばいいんじゃないか? 俺としてもホムラの配信は楽しみにしているし」
「借金とか返せるかな?」
ああ、スーチャね。いいんじゃないか。月二十万も稼げば立派なストリーマーだ。さすが数千万の借金を返すには難しいかもしれないが、有り得ない話でもない。実際にコヲリとホムラが身売りすることで二條家の借金は利子が止まっている。このままコツコツ返済すればいずれスッキリとした身の上になるだろう。というかコヲリルートやホムラルートの人公って借金はどうしたんだ? ちょっと謎だ。愛に熱い展開だったのでツッコむのも野暮かもしれないが。
「アクヤ♡」
「アクヤくん♡」
そうして六組の高嶺の花。小比類巻マキノと二條ホムラを相手しながら俺はクラスまで歩いていった。変な目で見られなかったかって? 見られたよ。思いっきり。
「それじゃあホームルーム始めるぞー」
ホームルームが始まり。それから授業が始まる。そうしてマキノとホムラと一緒に勉強しながら、俺は少しだけ疲れてもいた。
「…………ヒソヒソ(アクヤ様ぁ♡)」
隣にいるホムラの尻を掴んで揉みしだいているのだ。しかもそれをホムラ自身が喜んでいる節がある。バレたら終わるというのに、そのスリルに身を任せているホムラは一言で言って痴女としか。
「ホムラ。飯に食いに行こうぜ」
そうして俺がホムラの尻を堪能して、その感触で手をニギニギしていると、ホムラを迎えに来た人公が目に入った。見た感じ眠そうだが、おそらく昨日も遅くまで勉強をしていたのだろう。今日はホムラが人公の面倒を見る番で、つまり一緒にいることになる。俺的にはどうにでもしてくれだ。
「はいはいはーい」
そうして人公と隣り合って歩き出すホムラ。その彼女にニコニコとしながら、人公はチラリと俺を見た。
「…………」
あえて擬音を表わすなら「ニチャリ……」が近い。まるで発酵して糸を引きそうな笑みを俺に差し向けて、それからホムラを侍らせて人公は去っていった。
「???」
アイツが俺に嫌な笑みを浮かべる理由がわからず、少し疑問視。っていうかなんで俺にあんな笑みを向けたんだ?
「アクヤ。学食行くっしょ。遅れると席無くなるよ?」
言うほど利用者が多いわけでもないが、たしかに遅れるだけ損をするのも事実だ。
「ところでなんでマキノは俺の腕に抱き着いているんだ?」
「それをあーしの口から言わせる? やっぱりアクヤってドSだねー」
いや、そんなつもりはないんだが。まぁでもそんなつもりもあるのかもしれないな。




