第54話:地獄と地獄
【人公アルシ視点】
「っていうわけで追試な」
教師が断罪するようにそう言って、ボクは唖然としていた。テスト用紙を返された段階で覚悟はしていたが、流石にマズいと思ったところに担任からの呼び出し。五教科赤点は始めての体験だ。というか赤点が初めてだ。今まではうまく行っていたのに、二年生最初のテストで赤点。さすがに内申点が怖い。
「お前なー。六組の生徒でもここまで悲惨な点数は……取らない奴がいないとは言わないが、三組のお前がとなると問題だぞ。下落幅で言えばストップ安レベル」
「す……すみません」
謝るより他になく。
「まぁ大体予想は着いていたがな」
「……というと?」
「遅刻。無断欠席。学校に来ても眠ってばかり。家で徹夜ゲームは楽しかったか?」
「それは……」
「まぁまだ二年だし挽回できないわけじゃ無いから俺も何も言わなかったが、少しは危機感持てよ。別に高卒で学歴終わらせるってんならとやかく言わないが」
「が……頑張ります」
やっべーよなぁ。っていうか原因はわかりきっている。幼馴染たちのせいだ。ボクに勉強しろと言ってくれなかった彼女たちが悪い。そうだ。ボクは悪くない。ボクと勉強会をしてくれなかったカホルとコヲリとホムラが悪いんだ。そのくせ図書室では九王と一緒に勉強とかして。あんな将来性ゼロ男と勉強しても邪魔になるだけだろ。とにかくボクは悪くないんだ。追試まで時間はある。カホルとコヲリに試験対策をしてもらおう。
幼馴染のボクが困っているんだ。カホルたちだって無碍にできないだろう。
そう決心して渡り廊下を歩いていると、側面の壁の連絡ボードを見ている女子が二人。
「知ってる? 二年生の学年一位。九王アクヤ先輩だって! 六組らしいよ?」
あいつが!?
「六組が学年一位!? 何ソレ。一年生の頃は舐めプしてたの?」
「わかんないけどさ。スポーツ万能のイケメンだって。それで学年一位の学力だよ? いるところにはいるもんだねー。才媛って」
言われてボクが覗き込むと、たしかに二年の学年一位のところに九王アクヤの名前が。二位が花崎カホル。……は? 何の冗談だ? だってあいつは赤点の常連で進級も危うかったバカ中のバカだろ? なんで学年一位だ?
「あいつら……か」
そこでボクが思い出したのは、三人の顔。カホルとコヲリとホムラ。アイツらと勉強したから偶然に奇跡が重なって九王が学年一位。本当はボクに割くべきだったリソースを九王がボクから奪ったんだ。
「手伝ってくれてありがとね?」
「まぁこれくらいは何でもねーよ」
怒り沸騰でボクが恨み節を呟いていると、今度は仲良さげな二人の声が聞こえてくる。一人は穏やかに笑っているカホル。そしてもう一人は。
「ッッッ!!!」
今僕が最も憎んでいる九王だった。
「おい!」
「あ?」
「なんでお前がカホルと一緒にいる!」
「あー……偶然?」
本人も自覚は無いらしい。
「カホルもカホルだ! なんでこんな危ない奴と一緒にいるんだよ!」
「ちょっと御縁があっただけだよ? 九王くん実は紳士でさー」
ニコニコと微笑むカホルに、ボクの怒りが頂点になる。
「こんなバカ男と一緒にいても何の生産性も無いと言っただろ!」
「でもそのバカ男くんがバカなら、二年生全員バカだよ?」
学年一位だからか? どうせカンニングでもしたんだろうが! そんな簡単な理屈も分からないのはたしかにカホルのバカさ加減。
「おい! お前! カホルには近づくな!」
「あー……はい。じゃあここまででいいよな? 幼馴染の人公が来たことだし」
そうだよ。それでいいんだ。分を弁えろ。
「じゃ、運んでいるノート。俺の代わりに一組に運んでやれよ? ほい」
そうして一組のノート運びを手伝っていたのだろう。九王はボクにそのノートを渡してきた。
「重ッッ!?」
ノート全体の四分の三くらいを運んでいた九王は、ソレを全部ボクに渡してきて、そのボクはあまりの重さにノートをぶちまけていた。
「あれ? 重たかったか? そんなでもないはずなんだが」
「九王くん。それは君が細マッチョだからだよ。アルシには無理だって」
クソ! 反則で学年一ばかりか筋肉でマウントとか! どこまでも人をバカにしやがって!
「じゃ、半分ずつ持とうね。アルシ」
そうして一組までノートを運ぶ。その最中。
「カホル。勉強を教えてくれ」
「はぁ? 中間テストは終わったでしょ?」
なんでこのタイミングで、ってか?
「追試がある」
「え? 赤点とったの?」
「……………………そうだ」
悔しいが認めざるを得ない。
「テスト勉強はしてるって言ってたじゃん。テスト中具合でも悪かったの?」
「ちょっと調子がな。で、追試があるから勉強を見てくれ」
「それはいいけど。あ、でも、確認取らないと」
「誰にだ?」
「コヲリ。ほら、私、アルシに犯されかけた過去があるから」
「だからあの時のことはお前の勘違いって何度言えば……」
いい加減しつこいぞ。ボクの仏心も限界があるからな? 一々あの時のことを引き合いに出すんじゃねーよ。
「じゃ、許可もとったし。追試の勉強ねー。どの科目?」
「全科目」
「…………」
引くな引くな。心に来る。
「あー。道理でねー。調子よく勉強してるって言ってたもんね。実際にはゲーム三昧でろくに勉強してなかったわけね」
「それはお前らのせいだろうが。カホルたちがボクと一緒に勉強していれば何の問題もなかったんだよ」
「清々しいまでの責任転嫁だね。もうヨーロッパに行った方がいいんじゃない? おじさんとおばさんに保護されてさ」
そしたらカホルとコヲリとホムラに会えなくなるだろうが。三人と高校で恋仲になりたいのに。
「じゃ、コヲリ呼んで勉強しようか。あくまで追試までのあいだね。あと貸し一つね」
「お願いします。ホムラ」
「…………ボソボソ(まったくどっちが将来性ゼロなんだか)」
「何か言ったか?」
「面倒だなって」
「だからそれはカホルたちの責任で……」
「しかも女子に責任押し付けるとかサイテー」
「カホルたちと勉強していればボクもこんなことにならなかったんだよ! それなのにお前らは九王なんかと…………」
「九王くんマジで頭いいよ。あんまり比べない方がいいかもね」
今回は奇跡だろ。ボクが赤点とったのも全部カホル達との勉強を奪った九王のせいだ!




