第53話:不動ミヨ
「――――♪ ――――♪ ――――♪」
耳コピのオリジナル音源のクオリティも高いというか。だがそれ以上にホムラの歌声が天使過ぎて辛い。そのホムラは流行りの曲を歌っている動画を上げており、こっちは少し注目は集まったが、それでもバズると言うほどでもない。
一応ユーキューブのネット検索性も考えて流行りのポップは押さえてあった。現役女子高生Vキューバー。その肩書は見なければわかるはずもなく。デビューしたての不動ミヨに注目が集まるはずもなく。だが声の質はいいのか。動画を聞いてくれた感想には好意的なコメントが散見される。この歌声を聞けばファンになるのも一瞬だろう。それだけの力がホムラの歌声にはあるのだ。
とりあえずは流行りのポップの歌ってみた動画だけを上げるつもりだ。そこから少しずつおっさん連中に特攻攻撃する曲を織り交ぜていく。パチスロの名曲も、昭和の伝説のアイドルの曲も、宇宙刑事のオープニングも既に収録済みなのだ。その動画を見て、まずまずの感想を受けながら、俺はホムラの部屋にあがった。網膜認証セキュリティなので、施錠は俺には意味をなさない。
「――――♪ ――――♪ ――――♪」
リズムも完璧。高音もよどみが無いし、低音もブレない。よくもまぁアカペラでここまで歌えるもんだ。さらに動画編集では耳コピしたオリジナル音源を用意するというのだから、こと音楽に関して言えばホムラは無双できる。
遮音性のある壁。その部屋の中でホムラは一曲歌い切った。
かなり昔のパソコンエロゲー全盛期の人気エロゲソング。おっさんが聞いたら懐かしいでは済まない思い出の曲だろう。ちなみに俺の選曲ではないからあしからず。さすがにそこまではフォロー範囲外だった。じゃあ誰に聞いたかっていうと、それは秘密ということで。大体わかるだろ?
「おー」
俺はパチパチと拍手を贈る。
「あ、アクヤ様。いらっしゃっていたんですね」
「邪魔する気は……なかったわけじゃないが……あんまり影響なかったみたいだな」
「歌っていると世界が閉じてしまって。誰が入ってきても気付かないんです」
「いい歌声だったよ。さすが俺の推し」
「アクヤ様に褒められるととっても嬉しいです」
ニコリとホムラは破顔した。
「けれどすみません。不動ミヨの動画はあまり伸びていなくて」
「いやいや、無所属のVキューバーなら成功している方だ。何も仕掛けなくてもこれだけ数字取れれば十分だって。それに導線は引くつもりだし心配するな。マーケティングは俺に任せろ」
さらに新しい曲を聴いて、その曲のイメージを頭で再構築。歌声の表現とか、歌う上で定義すべきテーマとか、そういうことをブツブツとホムラは呟いていた。歌が上手いのはいいんだが、マジで俺には何言ってるかさっぱり。歌に表現とかテーマがあんの?
「でも昔の曲も名曲多いんですね。懐メロ好きになっちゃいました」
「だろ?」
俺も好きな曲が幾つかある。ふとした瞬間に店とかで聴いて虜になり、「この曲なんですか?」って店員に聞いて懐メロにメロメロになることも。
「あと昔の特撮ソングは歌っていて面白いです」
ああ、歌詞が独特過ぎるからな。どうやったらそんな歌詞思いつくんだよって感じ。そうして流行りのポップで導線を作って、懐メロでおっさんを撃沈。
『ちょwww懐かしいwww』
『本当に現役JK?』
『宇宙刑事はねーだろwwwしかもガチ歌じゃんwww』
『次は川口千恵の曲とか歌ってくれませんか?』
Vキューバー不動ミヨ。歌い手系のストリーマーで現役JK。そういう触れ込みで活動して、だが現役JKらしからぬおっさんに特攻攻撃をする選曲でじわじわとファンを増やしていく。反応としてはグラビアアイドルのアズキと一緒だ。おっさん世代は懐かしいものとエチエチに飢えている。さらにダメ押しだ。ちょっとおっさん世代に話題になったタイミングで、こっちもおっさんに注目されているアズキ……つまりマキノのアカウントでネタコメント投下。
『ちょwwwこのVキューバー選曲がおっさんすぎるwww現役JKってマ?』
マキノのエチエチ写真を目当てにアズキのアカウントをフォローしている性欲に飢えた男どもが投稿したマキノのコメントから不動ミヨチャンネルに飛んで、その歌い手系にしてはトレンドを意識していない懐メロの選曲にやられる。あとは坂の頂上にある岩塊を少し蹴って転がすような。さすがに大人気ストリーマーには全然届かないが、それでも無所属Vキューバーでならチャンネル登録二万人は大したものだろう。動画の最後には案内もあるし、不動ミヨのSNSアカウントも作っている。そこにおっさんが群がって、まず不動ミヨが本当にJKか聞き、学生ですよーと返すと盛り上がり、そんなおっさんが求めている懐メロシンガー不動ミヨに沸騰する。
『次はあの曲を!』
『いやいやあの曲を!』
『歌ってくれたら投げ銭するから!』
そんなわけで全体的には無名だが、一部界隈でホットなVキューバーとして不動ミヨはスタートした。実際に歌も上手いし。JKの声で懐メロが歌われればおっさんには素敵な出来事だろう。
『生配信とかしたら見に来てくれますか?』
ポツリとホムラがこぼす。
『不動ミヨちゃんの生配信?』
『これは見逃せねえぜ!』
『神が見れるとかコレナンテ天国?』
現役JKの生配信は見逃せないらしい。まぁ気持ちは俺も同じ。
『じゃあアカペラとか準備しないとなー。生配信で歌ってほしい曲ありましたらコメント待ってまーす』
そう投下した瞬間、リクエストが怒涛のように送られてきた。生け生け団のテーマとかマジで誰得だ。
そうして三日に一度は動画投稿をして、歌ってみた動画の継続性も生きており、そのまま不動ミヨは狭い世界でバズリ出すのだった。
「ちなみにアクヤ様は生配信で歌うならどれがいいと思います?」
「そーだなー」
コメントを付けているのがおっさんだけあって、ほぼ知らない曲が並んでいた。
「とりあえず全部聞いてみるか」
チョンチョンとホムラのスマホを操作して、音楽データをダウンロード。歌ってみた動画は耳コピ音源。生配信はアカペラなので利権的には白に近いグレー。後はその中でも歌っていてホムラが気持ちいい曲を選べばいい。
「川口千恵とかは結構受けがいいから歌ってみてもいいんじゃないか」
名前だけは聞いたことがある程度だが、おっさん連中には伝説も伝説らしい。
「昔のアニメの曲とかも歌えると強みになると思うぞ。勇者系とかもたまにリクエスト来るしな」
「まったく見たことないんですけど……」
俺も俺も。そんなわけで生配信用の機材も用意は済んでいる。というか既に最初から準備していた。歌ってみた動画はロイヤリティが少ないのはすでに言った。なので全ては生配信に繋げるための布石だったのだ。コヲリが描いてくれた不動ミヨのイラストをカメラの認識でホムラと連動させ、キャラが生きているように演出する技術も何とか頑張って成功させ。そうして不動ミヨの第一回生配信が行われる。
「こんふどー! 無明のみなさーん! 今日も入滅してるー!? 迷える求道者を導く明王! 不動ミヨだぞー!」
そんな感じで不動ミヨの生配信は始まった。やはりそこは持って生まれたものか。ホムラのトークは結構盛り上がり、さらにリクエストから幾つかピックアップしている懐メロもアカペラで歌って。気付けばJKのVキューバーにのめり込んでいるおっさんが投げ銭をしていた。それも尋常じゃない額を。まぁ九王アクヤにしてみればはした金だが、借金地獄の二條さん家の事情であれば大金だろう。金貨一枚の価値も経済事情によって変わってくるのだ。
「それじゃあね! 無明のみなさん! 次の生配信はSNSで予告するからチェックよろしく! 皆さんに大日如来の加護があらんことを! 高評価とチャンネル登録も忘れちゃダメだぞ?」




