第49話:勉強会
「……………………」
カリカリとペンの音がする。タブレットでの勉強もためにはなるが、俺としてもペンを用いた勉強もそれはそれでためになる。
図書室でのこと。
俺がそこで勉強をすると言ったらヒロインたちがついてきた。とはいえ図書室が私語厳禁。なので授業のように教えることもできない。出来るのはただ自分に対する集中力だけ。俺は一時間ほどぶっ通しで勉強していた。部活にも入っていないし。こういう時は便利だよなー。図書室。
「……………………」
ふと周囲を見れば、勉強をしているもの。スマホを見ているもの。突っ伏しているもの。それぞれだ。カホルは勉強ができるので心配いらないし、コヲリもそこそこの点数はとれる。となると問題なのは……。
「ホムラ。マキノ。帰ってもいいぞ」
小さな声で帰宅を促す。無理矢理やらされるものでもないだろう。勉強は。
「えーと。大丈夫です」
「あーしも大丈夫」
とても大丈夫には見えないのだが。俺にとって勉強って別に強制されてやるものじゃないんだが。そもそも勉強って楽しくないのだろうか? 俺的にはやればやるだけ結果が返ってくる最高の趣味なんだが。まぁそういう意味では九王アクヤの身体での筋トレも、それに含まれるかもしれないが。結果がついてくる系の趣味って、やるだけで没頭できるんだよな。
「アクヤ様はなんでそんなに頭がいいんですか?」
「神の天啓を受けたからだ」
「天啓……」
あっと。図書室では私語禁止。俺はこれ以上語れるぬと唇に人差し指をあてた。それで私語禁止を思い出したホムラも口を閉じる。
サラサラ。サラサラ。
ペンの奔る音がする。
物理と数学に関しては、一応のフォローが終わった。というか公式さえ覚えれば難しい話でもなく。覚えることが少ない分だけ得しているというか。英語も前世で死ぬ気で覚えた単語以上のモノは出ないらしく、英文の翻訳もスムーズだ。あとは社会と国語。一番問題なのは古文なのだが、それも今までの勉強で理解が難しくないレベルに到達している。やはり努力して克服するってとっても素敵だな。古文と漢文ももしかしたら前世の時より理解が深まっているのかもしれない。
「…………」
そうして勉強していると。
「九王……ッッッ」
憎悪、というものを俺は感じた。それがどういう色をしているのかは見えなかったが。黒に近いのか。あるいは灰色か。暗い紫という可能性もある。少なくとも白や黄色ではないだろう。
「何を……しているんだ?」
ありえないモノを見る目で俺を見て、現状を問うのはまこともって妥当だろうが、見てわからんのかというのが俺の本音。人公アルシは俺を睨んでいた。あくまで睨んでいるのは俺だけで、ラリルトリオやマキノには視線を向けていない。まぁこんな見るに堪えない視線を向けられても女の子が怖がるだけで何の生産性も無いのだろうけど。
「何をしているように見える?」
私語禁止とは言え、さすがにコミュニケーションまでは禁止されていないだろう。あくまで読書の邪魔になるザワザワを嫌っているだけで、必要最低限の会話すら禁じてしまえば、それは図書室でなく監獄だ。
「ボクの幼馴染たちと勉強しているように見える」
正解ですな。
「自分が何をしているのか分かっているのか?」
「勉強」
他のモノに見えるなら眼科に行った方がいい。
「ボクの幼馴染を利用して何をしているんだって聞いてんだよ!」
「勉強」
だから俺の答えは変わらなかった。勉強以外はしていない。
「ふざけるなよ! ボクに断りも無しにカホルたちと仲良くするなんて許され――ッッ!」
そうして人公アルシ激情が朗々と垂れ流されようとした直後。
「はいそこまで」
ガタイのいい司書教諭が人公の首根っこを掴んで、その五体を抑え込んでいた。
「な、なにしやがる!」
「まさにこっちのセリフでな」
うん。まぁ。そうだろう。どうして司書教諭になったのか分からないほどガタイのいい先生で。それこそ普通は柔道の顧問とかしていても納得できそうなほどのバルク。俺も筋肉は鍛えているが、それと同等か。単純に生徒より大きいので筋力は互角でも威圧感は圧倒的に俺より上だ。
「図書室で私語は禁止だ。お前のように大声を上げる輩にはご退場願っている」
「ボクは――ッッ!」
「話なら外で聴く。邪魔だから図書室に入るな」
そうしてズリズリと引っ張られる人公。残念な君に幸あれ。
「何だったの?」
唖然としてマキノが問うが、俺に答えられる範囲でも無く。そもそも何で絡まれたのかは……まぁわからないじゃないが。俺とヒロインが近づくのが許せなかったんだろう。とはいえ俺は一人で図書室で勉強していただけだ。スマホで『どこにいますか?』とヒロインに問われて、答えたら全員そろった。俺としても微妙な気分にはなったが、別に拒否する理由もないしなー。
この世界の主人公である人公には申し訳ないことをした。だが安心しろ。ヒロインたちはまだ中古じゃないぞ。俺が鉄のハートで我慢しているからな。ヒロインたちを幸せに出来るのはお前だけだ。頑張れ人公アルシ。
「アクヤくん。今日は何食べたい?」
「そうだなー」
奴隷としての本分を忘れていないのか。俺に夕餉のメニューを聞いてくるカホル。その目は既に人公アルシを忘れ去っており。俺に奉仕できることを心から喜んでいる。それを歓迎してる俺がいるのも事実で。
ピンク髪の爆乳美少女。まさに、ザ・エロゲーヒロインとも言えるカホルの可愛さは天元突破。そもそもピンク色の髪って俺的にマストなんだよなー。やっぱり可愛い女の子はピンク髪であるべき。
いや、コヲリもホムラも好きではあるんだが。
ああ、そうなるとやっぱり人公アルシに寝取られる運命というものはキツイものがあるな。いっそ犯して……いかんいかん……我慢しろ九王アクヤ。ここでヒロインを不幸にする気か。
「じゃあハンバーグ。手作りで」
「承りました♡」
ニコッと微笑むカホルだった。
「じゃあみんなでアクヤ様のためにハンバーグを作りましょう」
「あーしも作っていいの?」
「いいですけど。ダークマターにしたら自分で処理してくださいね?」
「が、頑張る」
たまにマキノは俺のためと称して料理をしようと挑戦するが、上手くいった試しがなかった。なんで出汁を取ったら赤色になって、味噌を投入するとグロテスクな紫色になるんだよ。絵具でも混ぜたのか言わんばかりの味噌汁を出された時は、とある野球漫画のスパルタ父親キャラクター並みにちゃぶ台返しをしようと思ったが、一応ダイニングテーブルをひっくり返せるほど鍛えてはいなかった。
以降、目玉焼きを作って炭になり、おかゆを作って少年男子のG行為で発する液体みたいになったりと、彼女のメシマズには際限がなかった。このままハンバーグを作られても結果は見えているが、とはいえ下手だから作るなでは進歩が無いのも事実で。
「失敗したら食わんぞ?」
「成功したら食べてくれるってこと?」
まぁ。
「よーし。頑張るじゃんよ」
その熱量に結果が伴えば、俺から言うこともないのだが。ところで人公アルシはどうなった。俺はヒロインたちと勉強はしたが、別に寝取っているつもりはないぞ?




