第44話:球技大会(表)
朝から御大層なことだった。さすがに全校で球技大会をするのでスケジュールは詰め詰め。野球は三回裏で終わりだし、バスケの試合時間も短縮。テニスも点数制ではあるが、試合時間そのものも決まっており、時間が越えればその時点での点数で勝敗が決まる。男女で別れ、なおかつ全学年トーナメントとなるとこれくらいが妥当なのだろう。しっかりと野球やソフトボールに関しては学校にある野球と女子ソフトの練習場を使うらしい。まぁ言ってしまえばテニスもコートを使うのだが。で、第一試合。俺は三年生との試合だった。テニス部では見なかった人なので、おそらく俺と同じ素人だろう。仕方ないので一縦した。
「おー」
パチパチと称賛するマキノ。マキノも二年六組のテニス代表。一試合目で敗北し、あとは見学だけだったが、勝ち進む俺のためにスポーツドリンクやタオルを甲斐甲斐しく用意してくれる。さすがに総当たりはスケジュール的に無理で、ついでにトーナメント形式の都合上、試合が進めば進むほど暇な人間が増えていく。勝者より敗者が多く、そのため敗者が増えるほど暇人が増えるわけだが。
「ふっ」
「ほっ」
「はっ」
スマッシュ。スマッシュ。スマッシュ。
俺は仮入部で培ったテニスの技術で試合を勝ち進んでいた。
「九王くん。タオルをどうぞ」
「……九王さん……冷却シートです」
「アクヤくん。水分補給」
「ほらほらー。マッサージしてあげる」
で、既に試合も三分の一を終えただろう学内進行。ヒロインたちの言葉を聞くに、すでにクラスのチームは敗北したらしく、あとは俺のお世話だけらしい。まぁもちろん男子にとっては快くない感情なのだろうが。ヒロインたちにお世話されている俺に嫉妬の視線を向けていた。おりゃー何もしとらんじゃーないですかー。
「ま、いいか」
カホルたちの好意が嬉しいのは事実だし。
昼休み。俺はジャージ姿のまま学食に来ていた。四人のヒロインたちと一緒に。人公アルシはいいのかと思ったが、どうやら登校していないらしい。結構人数カツカツなので遅刻は致命的な気がするが、まぁそこは三組の男子がフォローしているらしい。大変だな。さわやか三組。
そうして後半戦。テニスラケットを握って、次なる対戦はテニス部の部員。やっぱり強いんだろうなぁ。勝てるかね?
相手のサーブ。ソレを返す。ラリーが続いた。相手も俺のフォロー範囲を探っているらしい。まぁそれは俺も同じだが。どれくらいの位置から、どこまで駆けつけることが出来るか。それがわかればテニスはグッと勝率が上がる。パコンパコンとボールが跳ねる。ちょっとわざとめに高くボールを上げる。それに対して相手はスマッシュを繰り出した。俺の神経が集中する。そのまま自然に体が対応して、相手のスマッシュを返していた。スマッシュ後の身体のこわばり。早い球速は、つまり仕掛けた側の不利にもなり得る。とはいえそこはテニス部。こっちが拾うことを想定して、すぐにボールを追う。そうしてまたラリー。今度は俺がスマッシュ。結構全力で。スパァンとボールが跳躍し、相手のコートに刺さってそのままコート外へ。点数が入る。
「うっし」
一応仮入部で感触は掴んでいたので、ラケットの扱いもそこそこ。
「くっ!」
で、まぁ球技大会の都合上、テニスの試合にも制限時間はあるわけで。相手は焦ったままショットを打ちまくるが、俺はそれを悉く拾って相手に返す。精神的な欠陥なのか。そもそもコンセントレーションって無限大じゃない。
焦り。疲労。判断。
そういうものが積み重なるとミスも増える。相手のショットがコート外に刺さったりな。後はガタガタだった。制限時間に縛られた絶壁に立つ精神で上手いプレイが出来るはずもなく。俺の勝ち。
「ふい」
あと二試合勝てば優勝……ではあるんだが。
「九王くん。はいタオル」
「ありがとな。カホル」
「お友達のためですもの」
アクヤ様のためですから、と聞こえる。確かに奴隷ではあるんだろうが、俺は一回もカホルの人権を蔑ろにしたことはない。それはコヲリもホムラも同じだけど。
「……足をほぐしますね。……つったらいけませんし」
そうしてコヲリとホムラが足をマッサージしてくれる。マキノは隣でニコニコ。
「しっかし、人公が見たら脳破壊の映像だな」
それだけは間違いない。まだ学校に来ていないのか。それはそれでどうなんだ?
「じゃ行ってくる」
トーナメント戦なので後半になるほど試合間隔は短くなる。俺はそうしてコートに立って。
「やぁ。九王くん」
「どもっす。部長」
部長と相対していた。
「今日は勝たせてもらうよ」
「あー。微力を尽くします」
他に言いようがない。あの時とは違ってラリーの応酬で終わるわけにもいかないし。ショットやスマッシュも織り交ぜる必要がある。体力では勝っているはずだ。ただ時間制限ありで体力が意味を成すのかって話で。
「じゃ、行くよ」
「いつでもどうぞ」
先行は部長。サーブを打って。そのまま俺は相手に返す。数分ほどラリーが続いた。さすがに仮入部で打ち合っているだけあって部長も俺のフォロー範囲は悟っているらしい。領域の把握はお手の物なのだろう。そこにプレッシャーをかけて狭めていく。と思った瞬間、俺のラケットがボールを打ち上げた。ラケットの使い方を間違えたのだ。そりゃ仮入部でテニスが完璧になるなら苦労は無いわけで。その打ち上げたボールを部長がスマッシュで返す。だがそれを俺はショットで返してポイントを取る。
「…………へ?」
困惑している部長。まさかスマッシュを返されると思わなかったのか。だが俺にとっては対応領域だ。部長とのテニスは楽しい。互いに技術を高め合っているような気がして。ラリーとショットを織り交ぜて得点を取り合う。そうして試合結果は俺の勝ち。そのまま決勝へ。決勝戦の相手は部長曰くテニス部のエース。
「僕が打ちたかったなぁ」
と部長は残念そう。そっかぁ。テニス部のエースかぁ。じゃあ勝っちゃったら俺が校内最強か? まぁ勝てるわけもないんだけど。そんなわけで女子の試合を見ながらヒロインたちと逢瀬をしており。
「凄いですね。アクヤくん」
「……アクヤさんはテニス御上手ですね」
「さっすが我がクラス代表!」
「それあーしへの皮肉?」
マキノは初戦敗退だもんな。
「では、表彰を行います」
決勝戦も終わり。校長の有難い御言葉。それからテニスの部で優勝した俺は表彰を受けた。決勝? 勝ちましたけど?
「――――――!」
「――――――!」
「――――――!」
「――――――!」
わあぁっと六組のクラスメイトが祝福してくれる。ついでにヒロインたちも。テニス部の面目は丸つぶれだろうが、これを機に気合が入ってくれると嬉しい。
「さて、じゃあ帰るか」
今日は球技大会だけで終わり。野球とソフト。バスケ。テニス。三種目でそれぞれ優勝チームの表彰。
「「「流石です九王くん」」」
ヒロインたちの声が俺にとっては一番嬉しかった。どうせ今日はカホルも人公のところにはいかないんだろうし酒茶漬けでもリクエストするか。マキノ以外のヒロインはメシマズじゃないから俺としても食事が楽しみで。マキノはって? 目玉焼きを消し炭にしていた。
あと打ち上げも楽しみだ。




