第42話:失礼します
ウチのマンションは網膜認証でセキュリティをしている。で、もちろんだが俺とカホルとコヲリとホムラの部屋は、俺の網膜でセキュリティを突破できる。まぁ無断侵入はしないんだが。いや、ハーレムというか後宮みたいなところはあるんだろうけども。
「いるかー。ホムラ?」
「アクヤ様。そちらは……」
どうもでーす。本日はよろしくお願いします。と業者が頭を下げた。一応ホムラには説明してある。内装工事をする、と。で、マンションの一部屋を改造するのだが、そのために俺が業者を呼んだのだ。
「本当にするんですか?」
「まま、形から入るのもいいと思うぞ」
「お金ない……」
「俺持ちだから心配するな」
「投資するにしてももうちょっとあると思うんだけど」
「お前が歌上手いのは知ってるから」
「アクヤ様の前で歌いしましたっけ?」
「いや?」
そうではないが、知っている。
ホムラの声はもちろんエロゲ声優の声で、その担当声優は色んなエロゲーで活躍し、主題歌なども歌っている。その声を引き継いでいるのだから、少なくともオタク界隈には通用する歌声をホムラは持っているわけだ。
で、内装工事が終わり、音響を意識した内装に変わった一室で、ホムラは茫然としていた。歌の収録と、そのための機材。音を外に漏らさないための壁なども内装工事で終わっていた。別室には最新のパソコンを置いている。動画の編集は主にそっち。
「ていうかあたしをアイドルにするんじゃー」
「ちょっと違う」
「というと?」
「ホムラにはⅤキューバーになってもらう」
「Ⅴキューバーって……あれ?」
「それ」
指示語でわかるって分かり合ってるな、俺たち。
「ちょっと前にアバターも上がったし」
「アバター」
「コヲリが描いた奴。そこは一緒に考えたから知ってるだろ?」
「不動ミヨ?」
「そそ」
ホムラのⅤキューバーデビュー。名前は不動ミヨになった。色々と考えた結果、モチーフを何にするかと考えて、色々とアイデアを出し合い、それらのアイデアをコヲリがイラスト化したわけだが。ママであるコヲリが最もパフォーマンスを発揮したのが不動明王だった。で、不動明王をモチーフにした女の子キャラを描いて、コヲリとホムラと俺とで修正に修正を重ね、不動明王の女体化キャラが完成。名前は「フドウミョウオウ」から取って不動ミヨと俺が命名。今に至る。
「よし。それじゃあ早速歌うぞ」
「アクヤ様も?」
いや、俺はデバガメ。
「さて、選曲だが……何歌いたい?」
「何でもいいの?」
「何でもってわけじゃないが、やっぱり動画視聴者の注目している曲か、あるいは意外性のある曲がいいな」
「意外性?」
「例えば女子高生Vキューバーがおっさん世代の特撮ソングとか歌えばおっさんからスーチャ貰えると思うんだよな」
「すごく生臭い話だね……」
しょうがないだろう。世の中はそうやって回ってんだよ。
「なわけで人気が出るまでは適当に歌ってくれ。俺が歌ってほしい曲も提出はするが、モチベーション維持を考えるとお前が好きにするのが一番だ」
「ちなみにアクヤ様のリクエストって?」
「懐メロ。アニソン。特撮ソング。あとパチスロの曲とか」
「パチスロにも曲あるの?」
「結構名曲あるぞ。リストにして後で送るから、一度聞いてみてくれ。で、気に入ったら歌って収録して貰えれば幸い」
やっぱりスーチャするのは金持っている世代だからおっさんを標的にするのは市場的にはマスト。
「ん。じゃあ。聞いてみる」
「活動を始めたら三日に一回くらいのペースで歌を上げてもらう。動画編集は外注に頼むが、歌の方はどうにもならんからなぁ」
「そもそもあたしの歌って通じるの?」
「それは大丈夫。保証する」
俺の好きなエロゲ声優の声だし。
「まずは二十曲くらい歌えるようになれ。そうだな。お前の好みで十曲。俺の指定で十曲。それくらいで歌を覚えてもらうか」
「結構ガチだね」
ガチもガチだ。遊びとは訳が違う。
「コヲリって曲のイメージ画、描けるか?」
「……ええと。……はい。……大丈夫です」
「最終調整は俺がするから、歌うのがホムラ、イラストがコヲリ、これで行こう」
「……はい」
「はーい」
なわけで、まずは歌を聞いて、どういう風に歌えばいいのかを考えてもらう。撮り直しは何度でも出来るし、曲のイメージを掴んでもらうのだ。
「にしても不動ミヨが意外と可愛いっていうか」
「……頑張りました」
不動明王の女体化とは言っていたが、さすがに美術に精通しているのか。コヲリの解釈はとてもいい。あとは顔認証でイラストを動かせれば。そっちは俺の役目だな。
「~~~♪ ~~~♪」
早速、音響部屋になった一室でホムラが歌う。俺の確信通り、ホムラは歌が抜群に上手かった。まぁ成功するかは運否天賦だが、マネージメントは考えている。まずは動画投稿と、それによる活動。イラストと動画イメージはコヲリに任せ、動画と歌詞を入れるのを俺が外注に頼むって感じで。
「私には何かできませんか?」
そこにヒョコッと顔を出したカホルが聞いてくる。うーん。
「じゃあ全体の進行を覚えてもらっていいか?」
「あ、はい。ホムラちゃんをフォローできるなら」
俺がやってもいいが、カホルも手伝ってくれるなら、編集作業も捗るだろう。
「歌が軌道に乗ったら、生配信とかもしような。やっぱり視聴者も不動ミヨの歌声は生で聞きたいだろうし」
「人気出ますかねー」
「そこはまぁお楽しみにってことで」
九王グループの名刺切っているから、多分大丈夫だとは思うんだが。
「っていうか。マジでホムラ歌上手いね」
収録の練習のために歌っているホムラだが、カホルが言うように抜群に歌が上手い。それも声楽とかしていたのか疑うレベル。これなら最低限の固定ファンは着くだろう。ポップとマニアックな曲を入り混じって歌えばコアなフォロワーも定着するはずだ。
「さすが俺の好きな声優の声」
思わずポツリと呟いていた。
「うーん。もうちょっと高音が伸びる気がするんだけどなー」
歌そのものにも理解はあるのだろう。自分の歌に自分でダメ出しをしているホムラ。こういう意識の高い配信者なら失敗はしないだろう。そっちは本人に任せて、曲のイメージをコヲリにも掴んでもらってイラスト化。ソレを俺がカホルと一緒に動画編集だ。南無。




