第38話:アルシのインナーミッション
【人公アルシ視点】
「……ほら。……アルシくん。……起きる!」
聞き覚えのある声がする。ボクの中では何度となく聞いた声。二條コヲリの声だ。月曜日のカホルは起こしに来ずに鬼電でボクの起床を促した。結果二度寝して遅刻したけど。やっぱり親がいないとネトゲの止め時って見つからないよな。悪いことじゃないんだけど。
「くぁ。起こしてくれてありがと」
「……朝御飯作っていますから。……ちゃっちゃと食べてください」
「んー。だな」
そうしてボクは人公家のダイニングに顔を出す。
「うまうま」
コヲリの手作り料理を堪能して、御馳走様。
「……早く行きますよ。……学校に遅刻してしまいます」
「待ってくれ。まだ眠くて」
「……朝のホームルームで寝てください」
ネトゲをし続けてコンセントレーションがガタガタだ。
「な、なぁ。カホル。ボクの事なんか言ってなかった?」
「……話題にも出したくないみたいでしたよ」
多大な誤解なんだよなぁ。ボクからも釈明したいんだけど、それを許してくれない。っていうかカホルにも問題あるだろ。僕とのデートなんだから手くらい繋いでくれても……。
「……ま、……これを機に反省することですね」
「だから反省するようなことはしてないって」
「本当に? 神に誓えますか?」
「菩提樹に誓って」
「…………ボソボソ(あんまり信用できませんね)」
何を言っているんだろう?
「それでコヲリからも言ってよ。カホルにボクと会話するようにって」
「……どっちの肩を持つかは私が決めます」
「ボクが悪いっての?」
「……とは言いませんが、カホルが怒るのにも一定の理由があるんでしょ?」
「だからソレが多大な誤解であって……」
「……地雷でも踏んだんじゃないですか?」
ギクリ。そこまでは……まぁ……否定も難しく。
「……誠心誠意謝ることですね。……まずは歩み寄ることを目標に」
「でもさぁ。あそこまで嫌わなくてもよくない? ボクたち幼馴染だぜ?」
「……ソレを斟酌するのは私ではありませんので」
そうしてボクとコヲリは一緒に登校する。周りから羨まし気な視線を受ける。あの二條コヲリと登校しているボクに羨望しているのだろう。気持ちはわかるぞ。ボクとしてもコヲリと一緒にいて自慢したい気分だ。やっぱり美少女を侍らすのってステータスだよなぁ。
「…………」
「……何かキモい事考えてます?」
「いや? ちょっとコヲリが可愛いなって」
「……へー」
あれ? 淡白な反応。そこは「もう。バカ。アルシくんのことなんて知らない!」じゃないのか? ボクたち相思相愛だよな? 幼馴染同士、想っているはずだよな? だってそうじゃなきゃカホルもコヲリもホムラも、男子からの告白断っていないはずだし。誰にも靡かないのってボクが好きだからだよな? ちょっと疑問視をしつつ学校に急ぐ。ホームルームには間に合った。そのままボクは寝たけど。
そして昼休み。
「カホル」
「…………」
ボクが声をかけてもあっさりと無視するカホル。今日こそは関係を修復する。その覚悟でボクは参った。
「あの時は違うんだって。あのチャラ男も下心なくて。ボクとしてもじゃあ一緒でいいかって思っただけであって」
「じゃあ二人でカラオケに行けばいいじゃないかと言ったよね?」
「そこはまぁ女子がいないとテンション上がらないとか」
「嫌らしい。ケダモノ。変態。痴漢」
「だから違うんだって」
学食に向かっているカホルと、ソレを追いかけるボク。そうして学食に出向くと。
「あ、ホムラ」
食券を買って、定食を注文したカホルはホムラを見つけて、その席に座った四人掛けの席だ。カホルとホムラ。あと小比類巻さんと。
「ッッッ!」
一気にボクの機嫌が悪くなる。最後の一人は九王アクヤだった。
「おう。花崎さん」
歓迎するように九王アクヤが言う。にこやかな笑顔だ。だがボクには見える。そのフェイスの裏では性欲をたぎらせていることを。ボクのカホルとホムラにコイツは性的な視線を向けている。そんなことが許されるはずもなく。
「カホル? ホムラ?」
「ああ、アルシの席は無いんで」
「コイツに近づくなって言ったよな?」
ボクは九王を指差して、カホルとホムラに叱りつける。小比類巻さんはキョトンとしていた。ボクはカホルとホムラを睨む。何でわからない。コイツは危険人物なんだぞ?
小比類巻さんが九王に囁いた。
「何言ってんの? コイツ……」
「知らん」
九王はあっさりとそう言って定食を食べていた。
「カホル。ホムラ。あと小比類巻さん。こいつは性欲の怪物だ。近づかない方がいい。その内手を出されるよ?」
「「「…………ボソボソ(そうだったら話は早いんだけどねー)」」」
三人揃って何かを呟いていた。
「じゃあお前がコイツ等を幸せにするのか?」
「当たり前だろ。カホルとホムラはボクの幼馴染だぞ?」
「「…………ボソボソ(そんなことでマウント取られても)」」
「とにかく。どけ。そこはボクの席だ」
「お三方の意見は?」
「邪魔」
「却下」
「お祈り申し上げます」
「うぐっ!」
その言葉がボクの胸に刺さった。
「お前みたいなチャラ男がカホルたちに近づくな」
「まぁそうだよなー」
分かっているじゃないか。分を弁えろ。カホルたちを愛していいのはボクだけだ。
「じゃ、俺はこれで。昼食はどうぞごゆっくり」
一人食べ終えた九王が席を立つ。おいおいおい。これは巨乳三人娘と一緒に昼食を取る絶好の機会じゃないか? これだよこれ。ボクが望んでいるのはこんな世界だ。
「ところで小比類巻さんって転校生だよね? 困ったことがあったら何でも言ってね?」
「…………ボソボソ(じゃあ近づかないでほしいなぁ)」
何か言いたいことがあるのか。それとも素直に言葉にできないのかな? わかるよ。ボクはカホルとホムラに想われるほどの男の子だし。
「カホルもそろそろ機嫌直してくれよ。ちゃんとお詫びはするからさ?」
「…………はぁ」
そして溜息。
「わかりました」
ようやく分かってくれた。そうだよ。ボクと喧嘩してもいいことないよ? それよりもボクと愛を語らった方が生産的だ。
「あの時の件は許しませんけど、妥協はします。ただしあまり話しかけないでください」
「なんでさ?」
「アルシに対する嫌悪感が酷くて、今はまだ会話が成立しません」
何だよそれ。まるでボクが悪いみたいじゃないか。そんなことないだろ。幼馴染なんだからボクに優しくする義務がカホルにはあるじゃないか。ボクはカホルの幼馴染だぞ?




