第36話:九王アクヤの才能
「おらぁ!」
「くらぁ!」
「どりゃぁ!」
それから球技大会まで、一時的にテニス部に仮入部。ラケットを貸してもらい、靴は普通、衣服はジャージ。そうしてテニスの感触をつかむために俺はラケットを振っていた。で、一番テニスを教えるのが上手い生徒を推薦してもらい、その人とテニスをしていたのだが。
「マジかアイツ」
「部長のスマッシュが通じねえ」
「っていうかさっきから試合が動いてねーんだけど」
俺は部長からテニスの薫陶を受け、そうしてテニスに理解を示しているのだが。放課後から始まって帰宅時刻まで練習試合をして、今のところゼロゼロ。つまりラブオール。相手のスマッシュを出来るだけ優しく拾って相手コートに返す。それだけを続けていたらラブオールのまま帰宅時刻になってしまった。
「ちょ、もう、無理」
で、悉く部長の球を拾って返していたら、相手の体力が先に尽きた。あれ? もう終わり? 俺はあと五時間くらいできるんだけど。卓球で言うブロックマンみたいな戦い方してるけど。
「お、お、お前……それで球技大会に出る気か?」
何か問題でも?
「試合時間が長すぎて学校側のスケジュールが破綻するわ!」
は。それは想定外だった。たしかに。テニスは一試合が長くなりがちだし、総学年のトーナメントでも試合数は結構なモノになる。防御型の戦術はこの際悪手。
「すんません! じゃあスマッシュ教えてください!」
「また明日な!」
もう帰宅時間なので、というのがその理由だった。ラブオールで試合が動いていないまま部活終了。俺が汗を拭いて息を吐いていると。
「おー」
こっちはあっさり試合を終えたマキノが拍手してくる。
「テニス部の部長に勝ったんだからすごいね」
「勝ってはいないが」
「でも相手疲労困憊だよ?」
「体力には自信あるからな」
「ていうか部長のスマッシュ全部拾ってたよね?」
「天任堂のテニスゲームで鍛えたからな」
「そこでゲーム知識はおかしいと思う」
そうか?
「あーしは全くダメダメだったよー」
「まぁ。そんな重いのつけてたらな」
「ラケットより重いかもね」
それは無いんじゃないか? 童貞だからわからんけども。
「じゃあ明日はスマッシュの練習オナシャス!」
「っていうかテニス部に入らないか? 大歓迎だぞ?」
部長の好意は有難いが。
「これでもやることあるんで!」
勉強に筋トレ。ゲームにアニメ視聴。ついでに言えば、ここがエロゲー世界なのに、娯楽に関しては普通に元の世界と共通。世界的に有名なマンガとか普通にあるし。やっぱりエヴェレット解釈の分岐世界なのだろうか? 元の世界を模倣して、俺の環境だけエロゲー設定にしたような。
「なわけで今日は帰ります! お疲れでした!」
なわけで、俺は帰宅を選んだ。
「アクヤ。あーしも一緒に」
そうだな。どうせ泊まるんだろ? 一応グラビアの件で話もあったし、こっちとしても大歓迎なのだが。
「にしても……」
マキノはキラキラした目で俺を見る。
「アクヤの汗って美味しそうだね」
たしかカホルも同じようなこと言っていたな。
「舐めたいのか?」
「いいの?」
「まぁ。セフレだし。舐めるくらいなら」
「じゃ、じゃあさ。今日は筋トレして、それからあーしとお風呂に入らない?」
「それは……裸の付き合いか?」
「アクヤにあーしのこと意識してほしい。マジで不安なの。アクヤが手を出さないから、あーし要らないんじゃないかって」
「そんなわけは……ないのだが」
「あーしのこと女として見てる?」
「お前みたいなパイオツカイデーを女子として見るなって方が無理筋だ」
「揉んでいいんだよ?」
「そこはせめて胸を伝って先っぽから零れた汗を舐める程度にしておく」
「それはそれで上級者だと思うけど」
しょうがないじゃない。俺だって童貞なんだもの。
「とにかく。アクヤはもっとエロエロでいいの。あーしを孕ませて困らせるくらいでいいの! そしたらあーしはアクヤの子を育てるから」
「俺と結婚って事か!?」
「え? してくれるの?」
孕ませたら責任はとるぞ……と言えれば格好いいのだろうが。今の俺にその覚悟がないので何とも言いようがない。
「ところでマキノ」
「何?」
「今日は泊りだろ?」
「お母さん、深夜にシフト入れてるから」
「じゃあ勉強しようぜ!」
「あー、アクヤ勉強もできるもんね。保健体育ならいいよ?」
「保健体育て……」
「チラ……」
制服のスカートを持ち上げて、俺にパンツを見せてくるマキノ。今日はピンクだった。
「……ッッッ!」
瞬間、俺は周囲を確認する。誰も見てはいない! ……な。マキノのパンツは至高品だ。選ばれし者にしか見せたくない。というか俺以外に見られたくない。そんな独占欲丸出しの童貞乙だったが、俺の本音でもある。
「俺以外には見せるなよ?」
「あれ? 意外に独占欲ツヨツヨ?」
「当たり前だ。マキノみたいな可愛い女の子が俺以外のモノになるなんてソレなんて寝取られ……ッッ!」
血の涙を流す。
「じゃあ抱いてくれる?」
それは勘弁してください。俺は土下座する。
「もう。まぁ。アクヤらしくはあるけどさー」
そうして俺とマキノは帰路につく。そう言えばラリルトリオは大丈夫だろうか。彼女らが電車で痴漢をされていると考えると……やべぇ。燃える。
「いかんいかん。この世界の主人公は俺じゃないんだ」
「何に対する葛藤?」
まぁマキノにはわからんよな。この世界がエロゲーで、俺は竿役という最低のポジション。いずれ主人公にヒロインを寝取られる悲しい存在ということに。
「とにかく! 俺は! 最後まで! ヒロインを守り抜く!」
「あーしもそれに含まれてる?」
もちろんですとも。俺にとってはセフレでも人公アルシにとっては大切なヒロインだ。俺としても彼に託すのに異論はない。こんな金で女を買うクズよりも、真摯にラブハートを持ってる人公が幸せになるべきだ。
真実のラブは金でも体でもなくハートじゃないか!
略してラブハート。そういうエロゲー世界のはずだ。




