第32話:俺の女だ
【カホル視点】
「じゃあ私。帰りますんで」
私は嫌な予感がして、帰宅を宣言した。正直相手がこっちの身体目当てであることは視線で覚れる。
「そう言わずさぁ。楽しいぜ? カラオケ? あ、歌に自信ない系?」
「ええ、音痴ですので。空気を壊すだけですよ」
言い訳だけして帰ろうとしたのだが、チャラ男は離れてくれない。
「そんなの気にしないって。いてくれるだけでいいからさぁ。もちろん俺の奢り。一円も出さなくていいわけよ」
「逆に怪しいです」
っていうかもう目が無理。性欲にまみれていて、完全にこっちを抱くことしか考えていない。
「まぁそういうだろうけどさ。ホント何もしないから。防犯グッズ持ってるでしょ? こっちも下手なことできないんだから安心して良いんじゃない?」
「…………アルシはどう思ってるの?」
「いや、悪い人じゃないし。カラオケくらいならまぁ」
さっき私から離れて何かを話していたけど、それで絡めとられていたのか。どういう条件を提示されたのか。悩ましい感じはするけれど。アルシの瞳もチャラ男と同じこっちを性的な目で見るソレになった。
「なわけで決まり。カラオケ行きましょう。タクシーで移動しようぜ。金持ってっからさぁ。いくらでもお兄さんを頼っていいんだぜ?」
「アルシ?」
「あ、カホル。本当にこのお兄さんに悪意はなくて」
「そう。じゃあそのお兄さんと二人で楽しんできてね」
ニッコリと微笑んで、私は帰る準備をする。どうせカラオケで飲み物に何か細工でもするつもりなのか。眠らせれば色々なことをし放題ってわけだね。まさかアルシがその提案に乗るとは思わなかったけど。
「それではアルシ。映画は楽しかったですよ」
「はい、じゃあ行こうね。楽しい楽しいカラオケです」
「離しなさい」
チャラ男に手首を掴まれると悪寒しか覚えない。もうこっちを性的に見ているその目が嫌だ。寒気がする。ギュッとこっちの手を掴んで無理矢理連れていこうとする。
「言っておきますけど。私を疵物にしたら黙っていない人がいますよ?」
「へえ。誰? どこにいるの?」
「ほら。エッチなことをするって認めた。アルシもそのつもりだったのかしら?」
「ち、違うよ。本当にこのお兄さんは善意で……」
「だから仲良くなりたいなら男同士でお願いします。私に関わらないで」
「だから何もしないって。もっと俺を信じてみてもいいんじゃない?」
「いいから手を離しなさい。気色悪いです」
「あ? 気色悪いだと」
「その女を見る目がもう無理です。私に悪意があることを自供しているようなものですよ」
「なわけないじゃーん。ホント紳士だから。俺」
「だったら無理矢理連れていこうとしないでください。誘いに乗った女子だけに優しくすればいいじゃないですか?」
「君と仲良くなりたいんだよ。そうじゃないとここまでアプローチしないって」
「もうホント生理的に無理ですから。帰してください」
「ほら。カバン持ってあげるから。じゃ、行こっか」
「返しなさい! 窃盗ですよ!」
「ちゃんと付いてきたら返すって。いい子ちゃんにしていれば何も心配いらないからね?」
このタチの悪いナンパにどう対処すべきか。悩んでいると。
「おい。そのバッグを返してやれ」
救いが私に舞い降りた。金髪に染めた髪と、ガタイのいい身体。まさにオスって感じでとても頼りがいのある男の子。そういえばこっちを尾行すると言っていたし、私が困っているのを見て助けに来てくれた?
「九王くん」
「九王……ッ」
「あ? お兄さん誰?」
「俺のことはどうでもいい。そのバッグを返してやれ」
「あっれー。ナンパから助けるカッコいい男役ですかー? 今時そんなの流行らないと思うんだけど?」
ううん。私にとってはトレンドだ。カッコいい男の人に助けられる。それがどれだけロマンチックか。今思い知らされた。子宮が疼くって……こういうことかぁ。
「それともここでやるか? これでもボクシングやってるんだけど? 俺?」
ヒュッヒュッとジャブを繰り出すチャラ男。
「殴るなら殴れ。だがそのバッグは女の子に返せ」
「じゃあまずテメェから沈めないとなぁ!」
ステップで間合いを詰めて、拳を振るうチャラ男。それをアクヤ様は。
「っ……と」
繰り出されたジャブを手で受け止めて、そのまま拳を握りつぶす。
「ちょ! 痛っ! 待っ!」
「こいつは俺の女だ。手を出そうってんじゃないよな?」
ギリリ、と拳を握力で潰しながら、確認するようにアクヤ様が問う。
「わかった! わかったって! 女には手を出さないから!」
バッグを置いて、チャラ男は逃げ出していった。周囲の視線も気になるけど、それも美談として語られそうだ。何せ男の人がナンパ男を退けたんだから。
「ふう。大丈夫か? 花崎さん」
「あ、はい。大丈夫……です。九王くん」
ついついアクヤ様って呼んでしまいそうになる。私はこの人の女。その自覚だけで胸がキュンキュンするのだ。ああ、この人に孕まされたい♡
「誰が……」
けれども、それに異を唱える人物が一人。
「誰がお前の女だ! 九王!」
「あー……」
確かに、とでも言いたげに、アクヤ様は頬をかいた。
「俺の女じゃねえよ。でもあそこはそう言わないと面倒なことになってただろ?」
「カホルはお前の女じゃない!」
「だったらお前が守れよ。難しい話でもないだろ?」
「それは……でも……」
「ごめんなさい。アルシ。ちょっと考えることがあるからしばらく話しかけないで」
「カホル!?」
正直な話。私をヤれるとか、そういう話に食いついたのだろう。男子だから仕方ない……とは私は思わない。私を性奴隷にしておきながら手を出さない優しい男の人もいるのだ。そんな素敵な男の人にこそ私は股を開きたい。無理矢理薬を使って強姦しようとする人より。でもアクヤ様になら無理矢理されても……ゴニョゴニョ。
「あ、じゃあ俺はこれで。花崎さん。気を付けて帰れよな?」
「ええ、ありがとうございます。九王くん」
ニッコリ微笑んで私はモールを出る。
「あ、カホル、待って……」
「ついてこないで」
私の後を追おうとしたアルシに、私はピシャリとそう言った。
「ッッ!」
ソレでたじろぐアルシ。さすがにさっきのは許すつもりもない。アルシはチャラ男の提案に乗って私を犯そうとしたのだ。
「違う……違うんだって!」
「ちょっとアルシとの距離を考えたいから。今は話しかけないで」
嫌悪感が否応にも増す。ハッキリ言って許しがたい。確かに私はエッチな身体になったと思うし、男も惹き寄せるだろう。けれど今の私はアクヤ様の性奴隷だから。アクヤ様以外の他の誰にもこのエッチに育った身体を触らせる気はないのだ。




