第24話:全国模試
「よっし」
高校二年生の春。俺は三年生が受けるべき全国模試を受けるために休みだというのに学校に来ていた。私立アルケイデス学園。まさか九王アクヤが全国模試を受けるとは、お釈迦様でも悟れないだろう。
「その、本当に受けるんですね」
アクヤ様、と小さくポツリとカホルが言った。コヲリとホムラは家で待機。ついでに週末なのでマキノも泊っていたが、そっちの接客は二條姉妹に任せていた。俺はカホルと一緒に全国模試を受けるために学校へ。そうしてさすがに二年生の段階で受ける生徒は少ないのか。一クラスに入るだけの人数だった。そこで模試を受けて、そのまま。
「くあ……」
そうして四月が終わろうとしている。だいたいこの生活にも慣れてきた。ここは私立アルケイデス学園。俺は六組で、ついでにホムラとマキノも六組で。カホルとコヲリも俺と一緒にいたいと言ってくれるが、それが叶わないことが真っ当で。だからというか、ホムラとマキノに思うところがあるらしい。こんな最低男と一緒の教室は嬉しいか? と聞いたら満場一致でイエスが返ってきた。いや。わかってます? あなたがた性奴隷として俺に売られたんだぞ?
とりあえずの模試も終わったし、今日は授業を受けて、そのまま帰る。コヲリは液タブの使い方に四苦八苦していたのもつかの間。慣れてしまえばキャンバスのように扱って、自在に絵が描けるようになっていた。空間把握能力も大層なモノだろう。素人目にはデッサンも狂っていない。今はイラスト投稿サイトにイラストを載せて喜んでいるところらしい。AI技術も発展しているので、機械に人間が勝てるのかは議論を呼ぶが、まぁそれはそれ。別に俺はAIも否定はしない。でもコヲリが負けるとも思っていない。イラストを見る側にとってはどちらも素晴らしいのだろうから。
マキノのグラドルデビューの件もあるし、ホムラのプロデュースもある。どちらも彼女らの未来にちょっとだけ貢献できるし、俺としても妥協は無し。とはいえ、それもこれも模試の結果次第なのだが。
「二年六組九王アクヤさん。二年六組九王アクヤさん。職員室まで来てください」
まぁそうなるよなー程度には思っていて。
「何かしたの? アクヤ?」
隣の席のマキノが聞いてくる。まぁ何かしたかと言われると何かはしたのだが。
「悪い話じゃないと思うから、心配はいらんぞ」
「アクヤ。大丈夫? あたしも行こうか?」
ホムラが護衛を買って出る。俺はその赤色の髪をクシャクシャと撫でる。
「大丈夫だ。無事息災で戻る」
別にキリングフィールドに出向くわけでもあるまいに。
「失礼しまーす」
で、職員室。俺が現れるとザワリと教師陣がどよめいた。俺はその原因を明敏に悟って、だが気にしてはやらない。俺が謙虚に振る舞う理由もない。
「九王くん。来たか」
待っていたのは校長先生と生徒指導、あとは模試の時に二年生の管轄のために休日を返上した悲しい教諭。
「まずは顔を出させたことまことに申し訳ない」
校長が呼んだのなら校長室じゃないのか、と思ったが、それだと九王の権力を振りかざされて内々に終わると危ぶまれたのだろう。間違ってはいないが、疑われる理由もあるし、証拠見届け人として他の教師がいると俺としても助かるしな。
「気にしなくていいですよ。大体分かってるんで」
ヒラリ、と手を振る。
「では自覚がある、と」
「アイデンティティの崩壊だとは思っていますね」
あの九王アクヤが模試を受けた。それだけでも異常事態だというのに、その模試の結果がアレではな。
「率直に聞く。何か不正はしていないと誓えるかい?」
「不正……と仰いますと?」
カンニングの類か。誰かの解答欄を盗み見たのなら、少なくともその点数は被カンニング者より低値になるはずだし、まさか五教科全てを教科書見て解いたとでもいうつもりか。そう聞くと、相手も反論の余地は見いだせず。だがそれにしても異常値なのだろう。
「ちなみに成績はどんなもんでした?」
答え合わせはしていなかったので、俺も自分の成績を知らない。一応そこそこの手応えはあったので、見苦しい結果ではないと自負しているが。
「偏差値八十。全国で九十八位だ」
ギリギリ全国百位以内か。健闘した方だろう。
「正直、信じられないこっちの意向も汲んで欲しい。どうやってこれだけの成績を?」
「勉強しました」
他に理由があるか、と俺は言う。まぁ表層意識が只野ヒートだからな。転生したとはいえ偏差値は転生前から変わっていない。
「しかしこの成績は……」
「やればできる子だったんですよ。俺は」
それで納得するとは毛ほども思っていないけど。
「何度も済まない。本当に不正は……」
「誓ってしておりません。御疑いなら、次の中間考査で学年一位を取ってみましょうか?」
傲慢な意見になるが、俺より成績で上はいないだろう。そもそも私立アルケイデス学園は進学校じゃないし。
「わかった。信じよう。次の全校集会で表彰する……ということでよろしいか?」
「いえ。別にいいです。ここだけの話にしておいてください。学校側から表彰なんてとんでもない」
「しかしそれでは信賞必罰に悖るのだが……」
「校内の混乱と合わせても……ですか?」
「ソレを言われると苦しいのだけどね」
「なわけで、表彰はいいです。別に褒められたくて高得点を取ったわけでもありませんし。学校側が俺の成績を把握していればそれ以上を求めません」
「わかった。これは内々で処理しよう。もしかして国立を狙っているのかね?」
「まぁ東京国立の医学部には入れればそれが一番いいかなとは」
「我が校から国公立の医学部生が!?」
「悪い話じゃないと思いますが?」
「それは確かにありがたい話だが……いやしかし」
そもそも赤点常連だった俺にそんな期待をしていいものか、か。勉強だけが取り柄だったので、そこは信頼してくれていいんだが。
「な、わけで、今回のことが偶然ではないと、後々証明しますので。今回のところはこんなところで開放してくれませんかね?」
「あ、ああ、すまない。生徒を疑う真似はしたくないのだが、現実を受け入れるのにも一苦労でね」
「ご心情は察します」
あの九王アクヤが偏差値八十だ。疑いたくもなる。つくづく勉強していてよかった。
「……アクヤ」
「アクヤ……」
で、教室に戻ると、心配そうにホムラとマキノが構ってきた。
「勘違いがあったらしい。説得してきたから心配はいらない」
まさか学内一位どころか全国で九十八位とか言えないしな。
「不条理なことを言われたのならあたしも戦うからね」
シュッシュッとシャドーボクシングでジャブを打ちながらホムラが言う。うんうんとマキノも頷いていた。
「あー、で、ちょっとマキノのあの話だけど」
「あー、あれ」
「もうちょっと待ってくれ。話がどう転ぶか分からなくて」
「…………ヒソヒソ(あーしはアクヤのセフレでも問題ないよ?)」
お前はそうだろうけど俺が問題なんだよ。南無三。さて、エサは撒いた。あとは本命が釣れればいいんだが。場合によっては向こうからコンタクト取ってくるだろうし。何も反応が無ければ俺の負けってことで。その時は直談判だな。




